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猪瀬直樹 加熱式たばこで何が悪い

2018年05月24日 公開
2022年10月13日 更新

猪瀬直樹(作家/元東京都知事)

どうやって財政を賄うつもりなのか  

猪瀬 では、もし仮にたばこが日本国からなくなったらどうなるか。最もわかりやすい例を挙げると、地方自治体の財政破綻です。  

政府税制調査会委員を務めた立場からいうと、たばこというのは、あらゆる商品のなかでひときわ税負担が重い。たばこを吸う人は、国と地方のたばこ税に加えてたばこ特別税、消費税という4つの税金を払っています。

国と地方税はそれぞれ1対1の割合で、消費税8%分については国に6.3%分、都道府県・市区町村に1.7%分が納められています。消費税は地方の取り分が少ない。それに対してたばこ税は年間2兆円を超え、消費税1%に相当するほどの巨額の税収で、うち半分が地方に入るから、地方にとってこれほど割のよい財源はない。

東京都のたばこ税収は約1300億円で、そのうち区市町村に約1000億円が入る計算になります。

喫煙者が積極的に納税をしているおかげで多額のお金が自治体に入り、それを財源に地域の保育園や介護施設など、ハードや行政サービスの恩恵を受けているわけです。もしたばこの税収が廃止されたら、いったいどうやって自治体の財政を賄うつもりなのか。

全面禁煙を推進する都道府県や市区町村は、たばこ撲滅が自分の首を絞める自殺行為だという点について、まったく自覚がありません。以前、建物内を全面禁煙にした自治体で公務員たちが十数人、庁舎の外に灰皿を置いて喫煙する光景を見ました。仕事中に屋外でたばこを吸い、ぞろぞろ庁舎に戻る。  

――移動時間の無駄だから、加熱式たばこにして屋内で仕事をしたらどうか、といいたくなりますね(笑)。

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著者紹介

猪瀬直樹(いのせ・なおき)

作家/東京都副知事

作家。1946年、長野県生まれ。1987年『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。『日本国の研究』以降、特殊法人等の廃止・民営化に取り組む。小泉内閣で道路関係四公団民営化推進委員会委員、地方分権推進委員会委員等を歴任。2007年より東京都副知事。近著に、『言葉の力』(中公新書)がある。

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