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大前研一 高齢者のマインドを変えれば、日本経済は飛躍的に伸びる

2017年03月24日 公開
2017年04月21日 更新

大前研一(経営コンサルタント/ビジネス・ブレークスルー代表取締役)

欲望の衰えた日本人は、消費より貯蓄に回す

 ――日本がアメリカなどとは異なり、低欲望社会であるというのは、どんなところからわかりますか。

 大前 最も顕著なのは、現在消費の中心となっている若者たちの生態だ。キーワードは3つある。1つ目が「マイルドヤンキー」。彼らは行動半径が実家から5㎞圏内で、中学や高校時代の友人が、成人になっても交友関係の中心となっている。2つ目が「イオニスト」。ABCマート、しまむら、ニトリなどイオンモールに出店している店で収入の48%を使い、生活に必要な物をすべて賄う人たち。買い物だけではない。イオンモール内の喫茶店や居酒屋で昔ながらの友人たちと過ごす。イオンには学習塾だってあるし、結婚式場や新婚旅行の手配もできる。さらに最近は、安いからと葬式までイオンにお願いする人が増えている。3つ目が「ららぽーたー」。文字どおり、ららぽーとが生活中心の人たちだ。イオニストより自分たちのほうが上だと優越感をもっているが、日々の暮らしを1カ所で完結させている点では、イオニストと大差ないといえる。ちなみにイオニスト、ららぽーたーはファッション週刊紙『WWDジャパン』の2014年5月19日発売号の「SC新時代」という特集で取り上げられ話題になった。

 私の若かりしころは、小田実の『何でも見てやろう』(講談社)のように、バックパック一つで海外を放浪しようとするのが当たり前の時代だった。北海道にも「カニ族」が溢れた。ところが、いまの若者はそんなマインドをもっていない。ソフトバンクグループの孫正義社長のような元気な人をみても、憧れるというより、あの人はたんなる異端児、自分とは関係ない異邦人だ、という見方をしてしまうのだ。

 イオン周辺の狭い生活圏で満足し、成人しても実家から出ず、家も軽自動車以外の車も買わなければ結婚もしない。こういう欲望の衰えた人種は、世界中を見渡しても日本にしか生息していない。資本主義社会が始まってから、初めての現象といってもいいだろう。金利にもマネー供給にも反応しないのは当たり前だろう。

 では、なぜ彼らは積極的に消費をしようとしないのだろうか。理由ははっきりしている。老後が不安なのだ。言葉を換えれば、政府を信用していない。この政府なら老後も安心して暮らせると思っていたら、毎日の生活をもっと充実させよう、そのためにお金も使おうという心理になるはずだ。

 いい例がスウェーデンである。国民は歳を取ったら国が全部面倒を見てくれることに疑いをもっていない。だから、貯金もせず生命保険にも入らないで、稼いだお金は自分の生活をエンジョイさせるために心置きなく使う。イタリア人は死ぬ時の貯金がゼロになるようにひたすらバケーションに明け暮れる。

 一方、日本人はというと、30歳くらいから貯蓄性向が異常に高くなっている。家や車を買うお金があったら少しでも貯蓄に回して老後に備えようというのだ。日本は国民が30歳から老後の心配をするという、世界に類を見ない変わった国なのである。

 安倍首相は連合の集会に行って、労働者の賃金を上げろとやっていたけど、いかにも的外れである。いまの日本では企業が無理して賃金を上げたところで、労働者はその分を消費ではなく貯蓄に回すだけだから、一向に景気回復にはつながらない。そういう認識が安倍首相の頭の中にはないのだ。経済学者はなぜ給料を上げてもGDPが上がらないのか、せめて謙虚に分析すべきだ。同一労働同一賃金、というまともに定義もされていない意味不明の言葉が独り歩きして政策の中心になっているが、中国で日本と同じ労働をしている人が物価を通じて(同一賃金になるまで)日本人の賃金上昇を阻害しているのだ。

 ボーダレス経済の時代に国内だけ賃上げしようとしているが、それは政治的なレトリックにすぎない。少なくとも1980年代の急激な円高局面では、日本企業は生産性の向上、イノベーション、海外移転、といった本質的な対応をした。いまの政治家や経済学者は日本企業の辿ってきた道すら知らない。

 さらに、お金をもっているはずの高齢者も、ひたすらそのお金を抱え込んで使おうとしない。日本が不況になってすでに二十年が経つ。普通なら生活レベルを維持するために貯金を切り崩すから、個人金融資産は減るはずである。しかし日本の場合はなぜか、1000兆円が1700兆円へと、20年でおよそ700兆円(1年間で35兆円)も個人金融資産が増えている。これは高齢者が貯め込んでいるからにほかならない。

 

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