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大前研一 高齢者のマインドを変えれば、日本経済は飛躍的に伸びる

2017年03月24日 公開
2024年12月16日 更新

大前研一(経営コンサルタント/ビジネス・ブレークスルー代表取締役)

老後不安不況を吹き飛ばせ

アベノミクスはなぜうまくいかないのか

 ――2016年8月3日、第三次安倍再改造内閣が発足しました。安倍首相は新内閣を自ら「未来チャレンジ内閣」と命名、「最優先課題は経済」「デフレからの脱出速度を最大限まで引き上げる」と意気込みを語っています。国民は期待していいのでしょうか。

 大前 大臣の顔ぶれをみると、安倍首相の悲願である憲法9条を変えるのに都合のいい「お友だち」だけを集めた感は否めない。この内閣でデフレ脱却? それならアベノミクス失敗の反省から始めるべきなのに、誰もそれを言い出せないようでは、まず無理だ。まあ、首相を筆頭に、閣僚内に現在の日本経済のことをわかっている人間が一人もいないのだから仕方がない。
 

 ――アベノミクスは失敗ですか。

 大前 いまさらいうまでもないだろう。第一の矢である「大胆な金融政策」は、日銀のマイナス金利導入という禁じ手まで導入して、市場のマネタリーベースをじゃぶじゃぶにしたにもかかわらず、いまだに物価上昇率2%は達成されていない。第二の矢の「機動的な財政政策」も、国債発行残高を増やして国の財政を悪化させたうえ、人手不足と資材高騰を引き起こしただけだ。「民間投資を喚起する成長戦略」という第三の矢も、掛け声だけでまったく効果が出ていない。地方創生や女性活用で成功した政策が一つでもあるか。

 それなのに安倍首相は、先の参院選で「この道を。力強く、前へ。」と威勢のいいスローガンを掲げて大勝したものだからすっかり気をよくし、さらに新しい三つの矢を出してきて、このままアベノミクスを推し進め、一億総活躍社会を実現すると息巻いている。いくら前に進めたところで、政策そのものが間違っているのだから、結果など出るはずがない。そういう指摘をきちんとしないマスコミにも責任がある。

 ――なぜアベノミクスではうまくいかないのでしょう。

 大前 たとえば、安倍首相は円安で海外に出ていった製造業が戻ってくるというが、そのはずがない。先進国で大学を出た人間が工場で働きたいとはまず思わないし、ましてや日本の大卒はほぼ完全雇用だ。40年前なら中卒者を確保できたが、いまは皆高校、大学まで行くので難しい。そうなるとあとは移民に頼るしかないが、安倍首相一派は移民反対ときている。これでいったいどうやって数百人、数千人単位の工場労働者を集めるというのだ。

 円安が輸出企業にとってメリットがあるというのも噓。日本はこれまでアメリカによる貿易戦争と、円高誘導で何度も苦汁を嘗めさせられてきた。その経験を踏まえ現在では、為替がどう動いてもその影響を中和できるよう、ほとんどの輸出企業が生産や営業の拠点を円、ドル、ASEAN(東南アジア諸国連合)などその他の通貨の国に分散して、為替変動に対して中立な状態に維持する〝カレンシー・ニュートラル〟な政策を採ってきた。だから、1ドル70円だろうが120円だろうが生き残ってきている。「円安じゃないとやっていけない」などといっている企業はとっくに潰れているのだ。「経団連は円安を歓迎しているじゃないか」というかもしれないが、あれは円高で苦しんだ経験がメモリーに残っている老人の集合体だからだ。

 安倍首相が経済対策の柱にしている国土強靱化計画、震災復興、リニア中央新幹線にしても、工事を請け負った土木・建設業が多少潤うだけで、日本経済には何の効果もない。リニアに関してはJR東海が自分のカネでやる、といったので国民的議論にならなかったが、税金を出すなら区間の約90%がトンネルで、東京(品川駅)から名古屋まで約40分で行けるならぜひ利用したいという人がいったいどれくらいいるのか、など基本的な評価をし直すべきだ。国土強靭化計画も、古い高速道路を直したところで通る車の数は同じなのだから、経済対策にはならない。震災の復興もやらねばならぬが、乗数効果のある金の使い方ではない。

 このように、アベノミクスというのは、日本経済の現実を何もわかっていない人たちが旗を振って金利を下げて、カネをじゃぶじゃぶにしている非常に浅はかな経済政策なのだ。

 

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