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潮匡人 北朝鮮の暴走は第二次朝鮮戦争の前触れだ

2016年09月24日 公開
2022年11月09日 更新

潮匡人(評論家/拓殖大学客員教授)

金正恩がどう考えているか

 流行りの「地政学」を“客観”に依拠した分析とするなら、“主観”に着目した分析も忘れてはならない。その意味で右の指摘は重要である。ベストセラーの書名を借りれば、『世界は感情で動く』(モッテルリーニー・紀伊國屋書店)。北朝鮮もその例外でない。

 実際に北朝鮮が核の小型化・弾頭化に成功したか、よりも、金正恩にどう報告され、彼がどう考えているか、のほうが重要である。もし彼が「過信・誤認をすれば(中略)強く懸念すべき状況となり得る」(白書)。第2次朝鮮戦争が始まるかもしれない。

 今年1月の核実験に始まり、2月のテポドン2派生型の発射以降、多くの「識者」がメディアに露出し「北朝鮮はまだ核の小型化・弾頭化に成功していない」と解説したが、私はひとり異論を表明してきた(月刊『正論』拙稿など)。この点、防衛省の認識はどうか。最新版の白書はこう述べる。

「北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も考えられる」

 昨年度版の白書はこう書いていた。

「北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も排除できない」

 要は、この1年間の動き(と最新の『東アジア戦略概観』の表現)を踏まえ、防衛省として「核兵器の小型化・弾頭化」のプロセスが進んだ、つまり脅威が高まったとの認識を示したわけである。もし昨年の記述を踏襲すると“霞が関文法上”そうはならない。そこで微妙に表現を変えたのであろう。本稿執筆中の8月下旬現在、北朝鮮による核実験の兆候が伝えられている。はたして来年度版の防衛白書はどう表現するのであろうか。

 話を戻そう。NHK以下テレビ御用達の「識者」らにより「北は弾道ミサイルの再突入技術をまだ獲得していない」とも解説された。しかし過去、北朝鮮はスカッドやノドン、テポドンなど弾道ミサイルの再突入を繰り返し成功させてきた。識者らは「高速で大気圏に再突入する弾頭を高熱から保護する技術はまだない」というが、惠谷治氏(軍事ジャーナリスト)と私は異論を表明してきた。専門にわたるので深入りしないが、ここでも先の“主観”に依拠した“感情論”が当てはまる。

 つまり、実際に北が再突入技術を獲得したか、より、金正恩がどう思っているか、のほうが重要である。実際「獲得した」との報告を鵜呑みにした可能性が高い。専門的な技術論や地政学より、そのほうが重要な論点ではないだろうか。

 証拠を挙げよう。ムスダン発射の翌6月23日、北の朝鮮中央放送は「地対地中長距離戦略弾道ロケット『火星10』の試験発射を成功させた」と発表し、「高角発射(ロフテッド)体制」で行なわれたことや、「最大頂点高度1413・6km」まで上昇し、目標水域に正確に着弾させたことに加え、「再突入段階での弾頭の耐熱性と飛行安全性が検証された」と自画自賛した。現地視察を行なった金正恩は「太平洋の作戦地帯内の米軍を全面的かつ現実的に攻撃しうる確実な能力をもつことになった」と豪語した。

 たとえ客観的な事実がNOでも、金正恩がYESと考えているなら、「軍事的挑発行為の増加・重大化につながる」(白書)。そうである以上、いくらテレビ御用達の識者が技術的な問題点や地政学的な分析を披瀝しても議論の実益に乏しい。白書はこうも懸念する。

「幹部の頻繁な処刑や降格・解任にともなう萎縮効果により、幹部が金正恩党委員長の判断に異論を唱え難くなることや、対南政策を担う統一戦線部の金養建(キム・ヤンゴン)部長が(中略)交通事故死し、後任には強硬派とされる金英哲(キム・ヨンチヨル)偵察総局長が就任したとの指摘もあることから、十分な外交的勘案がなされないまま北朝鮮が軍事的挑発行動に走る可能性も含め、不確実性が増しているとも考えられる」

 昨年、(北朝鮮軍で対外工作を担当する)偵察総局の幹部(大佐)と、アフリカ駐在の外交官が相次いで韓国に亡命した(別途、2名の上将、中将と少将の計4名の将官も亡命)。今年4月には、中国のレストランで働いていた男女13人が集団で韓国に亡命した。8月17日には、駐英公使の韓国亡命も明らかになった。「今年に入って、北朝鮮のエリート層の亡命が相次いでいる。(中略)北朝鮮になんらかの異変が生じつつある」(8月23日付「産経抄」)。

 これらは白書が懸念する「不確実性」の増大を強く示唆する。6月のムスダン発射、8月のノドン発射と今回のSLBM発射。それら発射の相次ぐ成功は「軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性」(白書)を飛躍的に増大させた。

 もはや、いつ何が起きても不思議でない。

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