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潮匡人 北朝鮮の暴走は第二次朝鮮戦争の前触れだ

2016年09月24日 公開
2022年11月09日 更新

潮匡人(評論家/拓殖大学客員教授)

北朝鮮も感情で動く

発射実験の域は超えた

 8月24日早朝、北朝鮮が半島東岸から東北東に向け、新型SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)「KN11」(推定)を発射、約500km飛翔させ、日本の防空識別圏(ADIZ)内にあたる日本海上に着水させた。自衛隊による破壊措置は取られなかった。

 8月22日から始まっていた米韓合同軍事演習に北朝鮮は「敵に先制攻撃を加えられるよう決戦態勢を堅持している」、「我々の領土、領海、領空に、わずかでも侵略の兆候を見せれば、核の先制攻撃を浴びせ、挑発の牙城を灰の山にする」(軍総参謀部)と反発していた。

 北朝鮮は昨2015年以降、SLBMの発射実験を重ねてきたが失敗を繰り返し、今年4月の飛翔距離も約30kmに終わっていた。ただ、これまで北朝鮮が公表した画像や映像が捏造でないなら、空中にミサイルを射出したあとに点火する「コールド・ローンチ」システムの運用に成功している。それも従来の液体燃料ではなく、不意急襲的な実戦運用に適した固体燃料が使用された可能性が高い。

 それが7度目となる今回、飛翔距離が大幅に延びた。案の定「固体燃料エンジン」(金正恩・党委員長)が使用され、機体の1段目と2段目の分離にも成功した(と推定する)。しかも今回は「最大の発射角度で行なわれた」(同前)。通常の角度なら1000km以上、燃料を増やせば2000km以上飛んだ計算になる。深刻かつ重大な脅威である。

 北朝鮮は8月3日にも半島西岸から弾道ミサイル「ノドン」(推定)を東北東に発射。約1000km飛翔させ、日本の排他的経済水域(EEZ)内に着水させた。今年3月にも一昨年3月にもノドンを日本海に向け西岸から半島を横断させ発射した。間違いなく「ミサイルの性能や信頼性に自信を深めている」(最新平成28年版「防衛白書」)。

 ノドンは「我が国に対する安全保障上の重大な脅威」(防衛省)であり、防衛大臣は「引き続き、情報収集・警戒監視に万全を期せ」と指示したが、それは難しい注文である。

 現にノドン発射の兆候すら探知できなかった。このため海自イージスMD艦も、空自パトリオット(PAC-3)ミサイルの事前展開も、「Jアラート」の発信もなく、政府は自衛隊に破壊措置命令を出すことすらできなかった。『毎日新聞』(8月4日付)紙上で「政府関係者」が語ったとおり「もし日本の領土まで飛んで」いたら「迎撃できなかっただろう」。

 翌々日の8月5日には、中国公船が尖閣諸島周辺の領海に侵入。その後も、領海や接続水域への侵入を繰り返した。自衛隊は“二正面作戦”を強いられている。これほど深刻かつ重大な脅威が迫っているのに、NHK以下マスコミ報道の扱いは小さい。この間、テレビや新聞はリオ五輪関連のニュースで埋め尽くされた。

 マスコミはノドンの着水地点を「秋田県沖」と報じたが、的を射ていない。標的は秋田県ではなく、青森県の米陸軍「車力通信所」であろう。車力は発射軌道の延長線上に位置し、早期警戒レーダー「Xバンド・レーダー」が配備されている。韓国への配備が決まった迎撃システム「THAAD(ターミナル段階高高度地域防衛)」のレーダーでもある。つまりTHAAD配備への反発に加え、実際に車力を攻撃するための発射訓練であった。もはや発射実験の域は超えた。私はそう考える。

 もとより米軍は事態を深刻に受け止めた。米国から要請があったと聞く。日本政府は今後、自衛隊がつねに迎撃態勢を取れるよう、破壊措置命令を常時発令することとした(政府は発令を肯定も否定もしていない)。関連法の想定を超えた異常な発令だが、現行法令上なしうる実効的な対処はほかにない。憲法上、自衛隊は軍隊ではない。ゆえに根拠法令がなければ、迎撃はおろか出動すらできない。

 今後は(非公表の)破壊措置命令を根拠として、迎撃ミサイル「SM-3」を搭載した海自のイージスMD艦や、空自のPAC-3が常時展開される。

 だが現実問題、イージスMD艦は4隻しかない。定期的な点検や整備の必要上、同時に運用できるのは最大で3隻。そのうち1隻を訓練や演習に充てれば、残りは2隻しかない。じつは2隻あれば、ほぼ日本全域をカバーできる。……ひと安心、というわけにはいかない。なぜなら、MD艦の乗員とて人間だからである。当たり前だが24時間、365日は戦えない。2隻を常時展開するのは“机上の空論”にすぎない。

 

ロフテッド軌道によって迎撃がより困難に

 さらにいえば、空自のPAC-3による迎撃網も穴だらけ。海自のSM-3と違い、PAC-3の迎撃範囲は小さい。すべてフル可動させても日本列島をカバーできない。おそらく都心や米軍基地など特定の拠点防空に絞った迎撃態勢となろう。だとすると、大阪の空にも、名古屋の空にも穴が開く。

 ならば、どうすればよいか。MD艦と、能力向上型迎撃ミサイル(SM-3ブロックⅡA)の整備を進める。加えてTHAADを導入する。それらが整えば穴は塞がるが、それは最短でも2年後以降。それまでは今後も脅威にさらされる。

 ノドンに加え、「ムスダン」の脅威も忘れてはならない。いずれも日本を射程に収める弾道ミサイルだ。しかもTEL(発射台付き車両)に搭載され移動して運用される。ゆえにSLBM同様「その詳細な発射位置や発射のタイミングなどに関する個別具体的な兆候を事前に把握することは困難である」(白書)。

 北朝鮮は今年4月15日にムスダンを初めて発射させ、失敗した。その直後、私は「今回は失敗したが、次は発射に成功すると想定すべきだ」、「最近の(中略)一部航跡がロフテッド軌道を辿った」、「意図的に高く撃ち上げた可能性が高い。どうやら北朝鮮は本気だ」と警鐘を鳴らした(「時事評論」5月20日号拙稿)。

 6月22日、北朝鮮は再び(正確には6度目)ムスダンを発射。高度は1000kmを超え、約400km飛翔し、日本海上に落下した。最新版「防衛白書」を借りよう。

《高い角度で発射され、通常の軌道に比べて高高度まで打ち上げる一方で、短い距離を飛翔させる、いわゆる「ロフテッド軌道」で発射されたものとみられる》

 さらに白書はこうも注記した。

「ロフテッド軌道により弾道ミサイルが発射された場合、一般的に、迎撃がより困難になると考えられている」

 上述のとおり通常軌道でも迎撃網には穴が開く。「迎撃がより困難になる」ロフテッド軌道なら、どうなるか。具体的には海自イージスMD艦が搭載する「SM-3ブロックⅠAミサイル」の迎撃高度より、はるかに高い軌道を描く。そのため自衛隊による迎撃は不可能となってしまう。

 そこで日米は現在、先述した「SM-3ブロックⅡAミサイル」を開発中だが、最短でも2018年まで配備できない。年内や来年に再発射があり、もしロフテッド軌道を辿れば、日本への着弾が現実の脅威となってしまう。仮に核弾頭が搭載されれば、被害は甚大となろう(詳しくは拙著『日本人が知らない安全保障学』中公新書ラクレ)。

 こうした軍事技術の進展に加え、見過ごせない問題がある。再び白書を借りよう。

「仮に北朝鮮がこうした弾道ミサイルの長射程化をさらに進展させ、同時に核兵器の小型化・弾頭化等を実現した場合は、北朝鮮が米国に対する戦略的抑止力を確保したとの認識を一方的に持つに至る可能性がある。仮に、北朝鮮がそのような抑止力に対する過信・誤認をすれば、北朝鮮による地域における軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性もあり、わが国としても強く懸念すべき状況となり得る」

 

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