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デービッド・アトキンソン「観光業の基本はトヨタにあり」

2016年02月02日 公開
2023年01月11日 更新

デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長)

デービッド・アトキンソン

「文化スポーツ観光省」をつくれ

――受賞作では、人口減少が日本の経済成長に及ぶ影響について詳しく言及されています。それは同時に、日本が観光立国をめざすべき理由になっています。

【アトキンソン】私の本を読んだ人のなかには「あなたは反日か」という人がいますが、たんに事実を指摘しているだけです。たとえば、「一人当たりの名目GDP」という指標でみると、日本は世界28位です。

――意外に低くて驚きます。

【アトキンソン】そう、事実として低い。しかし、それに気付いている日本人は少ないでしょう。先進国ではない中国を除くと、GDPの世界順位は、アメリカ、日本、ドイツ、フランス、イギリスです。ところが、この順番を技術の違いや働き方の違いなど、優劣の問題だと勘違いしている日本人が多いのではないでしょうか。

――たしかに、「世界第3の経済大国」と聞いたとき、それを自分たちの優秀さの証明だと思っている日本人は多いかもしれません。

【アトキンソン】この前もテレビを見ていたら、戦後の日本は追い付き、追い越せでやってきた、そしてヨーロッパを追い越した、と語っていました。しかし反感を承知でいえば、戦後の日本経済が急成長した大きな理由の一つは、子づくりに専念したからです。

日本の高度経済成長は、ベビーブームに象徴される人口の激増が大きく関係しています。これは先進国では例のない現象なのですが、日本の経済の教科書をみても、こうした議論はほとんど目にしません。なかには私に対して、「イギリスは日本の技術なしでは成り立たない」といってくる方もいますが、「その技術は誰が教えたのですか」と言い返したくなります(笑)。

――日本の近代化はイギリスをはじめ、ヨーロッパが手本になったことは間違いありません。

【アトキンソン】もちろん私は、日本の技術が優れていることを否定しているわけではありません。先進国同士を比較した場合、GDPの大きさは、技術力以外の人口など他の要因が大きく関係している、という客観的な事実について述べているだけなのです。

そしてご存じのとおり、日本では少子高齢化が始まっています。当社のお得意先であるお寺や神社にも、「このまま放っておくと、拝観収入が半減しますよ」といっています。たいてい「えっ」という反応が返ってきますが、日本は現役世代が減っていくのですから、当然のことです。

拝観収入を維持するためには、国内のリピーター客を増やすか、一人当たりの客単価を上げるか、外国から客を呼んでくるしかありません。

そうした戦略を考えるのは、私のいまの本業ではありませんが、たまたまビジネス上、日本の人口減が当社のお得意先のマイナスに直結するため、また相手の観光客は外国人なので、私が外国人観光客を呼ぶための戦略を提供しているのです。私は評論家ではありません。私の提案がたんに「興味深い議論でした」で終わってしまうのであれば、残念としかいいようがありませんね。

――大事なのは、まさに実践ですね。

【アトキンソン】実際に日本は観光分野において、潜在的な競争力で非常に恵まれています。業界としても、順調に伸びてきている。そうでありながら、まだまだやるべきことは多い。目の前には宝の山が眠っています。

これから私が一つポイントになると考えているのは、観光庁が予算を増やすかどうかです。それと同時に、文化財というコンテンツの管理を担う文化庁が予算を増やすか。こうした点に、日本の本気度が表れるでしょう。

さらにいえば、なぜ観光「庁」、文化「庁」なのか。日本がほんとうに観光立国をめざすのであれば、両者に加えて、さらにスポーツ庁を一つにまとめ、「文化スポーツ観光省」に昇格させるべきでしょう。

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