2015年09月25日 公開
2022年10月27日 更新
次の段階で問題になるのは株価下落と追証による破綻問題ということになる。中国では信用取引の割合が高い。中国の信用取引であるが、証券会社によるものは4倍程度と日本と大きくは変わらないのであるが、中国には全土で1万社以上の「外部配市」という証券専門の金融会社が存在し、株式を担保に資金を貸し出しているのである。そして、そのレバレッジは平均で10倍以上になっている。外部配市は株式が担保であるため、空売りができず買いしかできなかったわけである。
株価の急落はこのような信用取引を行なっていた人を大変な事態に追い込むのである。10倍のレバレッジで取引していた場合、買った価格よりも1割株価が下落すると全損扱いになってしまう。今回の急落では大きな値動きがあったため、これに該当する人が多数出ていると考えられる。今年に入り、中国の証券口座の数は昨年末の1億8000万口座から2億2500万口座に4500万増加した。この多くの人たちは膨大な損失を抱える結果になっているだろう。中国の旺盛な消費は、このような新興富裕層に支えられていたことは間違いなく、株価下落によりこれが抑制されるのは間違いのないところであろう。このような人たちの損失補てんのための資産売りもこれから始まるものと思われる。
なぜ、中国人が資産運用に熱心かといえば、これには歪んだ急速な発展に伴う社会保障制度の未整備が指摘できる。中国では公的年金制度が整備されておらず、自己の老後の資金を自ら用意しておく必要がある。また、1979年から始まった一人っ子政策により、老後の扶養を子供たちに容易に頼れない構造にもある。一人っ子政策開始から30年以上が経過し、1人の子供に両親とその祖父母がのしかかる構造になっている。今回の暴落は、資産を維持しなくてはいけない高齢者にも被害が及んでいる可能性が高く、これはデフォルトが増加傾向にある理財商品とともに大きな社会問題化する可能性も高い。
すでに、中国は重大な構造的問題に直面している。
1つは先ほど述べた少子化による人口ボーナスから人口オーナスへの変化であり、低賃金の若年層労働者が多く発展しやすい社会から、中高齢の高所得労働者が増加し効率の低下する社会への変化である。もう1つは「中進国の罠」と呼ばれる賃金上昇に伴う国際競争力低下である。年間の平均賃金が1万ドルを超えると、国際企業はさらに低賃金の地域に活動拠点を移し、国内企業は賃金コスト上昇により国際競争に勝てなくなるというものである。この問題を解決するためには、知的所有権やオンリーワンなどそこでしか作れないものを多数保有する必要があるが、中国の場合、いまだ組み立てなど「人口集約型産業」が中心であり、このプロセスに移れている企業はほとんどない状況なのである。
挙げればきりがないのだが、何よりの問題は中国の国家的粉飾ということになる。中国政府が出す数字は信用できない。鉄道貨物の輸送量を示すデータが10%以上のマイナスであり、電力消費量も低下するなかでGDPのみが7%成長を維持する。地方政府のGDP合計と中央政府のGDPで4兆円以上の誤差があるなど、中国の公表数字は何1つ信頼に値しない。英国の独立系調査会社ファゾム・コンサルティングによると、同社の試算では実際の成長率は公式統計の半分以下だったとされているのである。
これは国だけの問題ではない。国以上に企業の中身もわからないところがある。日本が関係するものとして、LIXILが買収した中国子会社の粉飾発覚と破産、江守グループホールディングスの中国子会社の粉飾による破綻がその典型といえるのだが、中国企業の決算とその内容には不透明な側面が強い。このような粉飾の多くは手元資金の枯渇により発覚する。企業は赤字でもつぶれない。企業の倒産原因は手元資金のショートであり、融資でも何でも手元資金さえ確保できれば倒産しないわけである。そして、企業が破綻した場合、売掛金の回収不能などの形でその関係企業にも影響が及ぶ。企業の倒産は連鎖するのである。
また、今回の株式バブル崩壊は、「財テク」で手元資金の流動性を確保してきた企業の粉飾を表面化させる可能性が高いといえる。日本でもバブル崩壊期、企業の投資失敗による破綻が大きな問題になったが、中国でも同様の事態を迎えるケースが増加すると思われる。そして、これは銀行や保険会社など貸し手側にも波及する。
企業同様、中国の銀行のバランスシートや資産内容には不透明な部分が多い。中国の4大銀行はすべて事実上の国営であり、共産党の意思でいかようにも動く部分があり、その実態もよくわからない部分が大きいのである。じつは遡ること2年前、2013年6月、中国の銀行間市場に大きな異変が起きていた。一部銀行の信用不安と銀行の手元資金の枯渇から銀行間金利が高騰し、オーバーナイト(翌日返却)の金利が一時30%以上まで上がっていたのである。中央銀行による銀行への特別融資によりこれは解消されたわけであるが、本質的な体質改善が行なわれている形跡はなく、今年に入っても特別融資が行なわれている実態がある。
最後に、バブル崩壊による日本経済への影響だが、これが株式市場に限定されているかぎり軽微であるといえる。なぜならば、今回崩壊した中国の株式市場は主に中国人向けのものであり、中国国内の貸し出しのほとんどが人民元建て取引であるからである。ある意味、自由化されていなかったことが他国への波及を抑制する形になっているわけである。
しかし、バブル崩壊は連鎖し、消費の減退と不良債権処理などを通じて、日本にも大きな影響を与える可能性が高い。都心の不動産価格上昇は、中国人の積極的な投資が大きな要因になっており、都心部の百貨店などの消費も中国人観光客が支えているのも事実。また、日本企業のなかでも中国関連の事業の割合が高い企業があるのも事実で、中国の経済悪化がそのような企業の業績を悪化させる可能性も高い。しかし、中国関連企業といってもさまざまなものがあり、すべてを同列に語るのは間違いであろう。中国のバブル崩壊で最も影響を受けやすいのは、中国で生産し輸出している企業ではなく、中国の内需向け割合が高い企業ということになる。
すでにこれは日本の株価にも反映されつつある。中国関連株は中国の指標や株価に連動するのである。投資家は企業の業績予測を基に株式の売買を行なっている。株価が一種の未来指標といわれるゆえんでもある。当然、これは当事者である企業側も意識しており、まともな経営者ならば適切なリスクマネジメント体制を敷くことになる。そして、結果的に企業業績へのリスクが軽減されていくことになるのである。
しかし、深入りしすぎてしまった企業や依存度が高すぎる企業にはこれは容易ではないだろう。中国の場合、計画経済的側面と政府による大胆な強行策が取れるため、一般論で語るのは難しい部分もあるが、一般的にバブルの崩壊が始まってから、それが実体経済に反映され、影響が顕著化するまで半年程度かかるといわれている。この残された時間にどのような経営判断をするかが、今後の企業の命運を決めるかもしれない。
<掲載誌紹介>
2015年10月号
いよいよ中国のバブル崩壊が現実味を帯びて論じられるようになった。日本経済も何らかの影響を免れない。そこで、10月号は「どん底の中国経済」との総力特集を組み、津上俊哉氏をはじめ、日高義樹氏、古森義久氏、福島香織氏、田村秀男氏、渡邉哲也氏の論考を掲載した。
注目記事は、3本の対談。第95代総理大臣の野田佳彦衆議院議員とパナソニックの津賀一宏社長が「日本の課題」を、地方創生担当大臣の石破茂氏と京都市長の門川大作氏が「地方創生」を、ケント・ギルバート氏と呉善花氏は「韓国問題」を、それぞれ論じた。
今月号も、日本を取り巻く経済や外交、安全保障の近未来を占ううえで不可欠な視点を提供している。ぜひ、ご一読を。
更新:11月22日 00:05