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どん底の中国経済―バブル崩壊は止まらない

2015年09月25日 公開
2022年10月27日 更新

渡邉哲也(経済評論家)

 

第2のサブプライム問題か

 まずは、不動産から見ていこう。不動産は価格と家賃から利回りが算定できる。たとえば、月5万円の家賃が得られる物件があったとしよう。この場合、年間に得られる家賃は5万×12で60万円ということになる。この物件の価格が1000万円ならば年利回りは6%ということになる。これが2000万円まで値上がりすれば年利3%、3000万円まで値上がりすれば年利2%という計算になる。じつはすでに中国の都市部の不動産利回りは2%以下まで低下しており、1年物の定期預金金利以下の状態になっていたわけである。すでに不動産は投資対象にならない状態だったのである。

 日本でも中国人の日本国内の不動産購入が話題になっているが、これは中国の国内不動産では運用利回りが稼げないためであり、日本の不動産利回りが中国を大きく上回るからにほかならない。日本でもバブル末期、日本人の海外不動産購入が話題になったが、これも同様の理由からであった。

 次に債券を見ていこう。中国の債券市場の市場規模はシャドーバンキング(銀行システム以外の融資)などを含めると600兆円以上といわれている。そのうち、比較的安全な社債だけでも150兆円程度といわれているわけであるが、この社債市場にも暗雲が広がり始めたのである。中国の社債発行企業の多くは大企業であり、中央政府や地方政府、そして、その親族などが関係する企業である。このため、中国人の多くが、政府が救済に入るため倒産することはないと見ており、安全な商品として取り扱われてきた。これを「暗黙の保証」と呼ぶ。しかし、中国政府は他国政府からの強い批判とその額の拡大から、破綻を容認する方針に切り替え始めた。これにより、中国の社債市場の政府による暗黙の保証は崩れ去った。当然、暗黙の保証がないとなれば、リスクが強く認識され、社債の価格は下落し、投資する人は大幅に減少する。

 じつはサブプライム問題の本質もここにあり、フレディマックやファニーメイなど米国政府機関債に対する暗黙の保証が失われたことで、債券価格が暴落した影響が大きい。債券には政府保証がないと明記されていたが、民間企業ではあるが政府機関債である以上、最終的には政府が保証すると投資家が勝手に信じていたのである。しかし、これが否定されたことで、債券の価格が暴落し、銀行などに膨大な損失をもたらしたのであった。

 比較的安心とされる社債市場がこの状況になったわけであり、それより危険度が高いシャドーバンキングは、それ以上のリスクが認識される結果になっていた。中国のシャドーバンキングには、大きく信託会社などが販売する「信託商品(ファンド)」と銀行などが販売する主に個人向けの「理財商品」というものがある。信託商品というのは、銀行などを介さず、資金を必要とする先に信託会社が直接融資を行ない、それを販売しているものである。理財商品というのは「融資平台」を用いて、融資を行ない、それを小分けして銀行などが販売している金融商品である。

 この「融資平台」が最も活用されたのが不動産関連融資である。中国の中央政府は地方政府による債券発行を禁じていた。また、中央政府が地方政府の財源の多くを奪ってしまったために、地方政府としては独自の財源確保をせざるをえなかった。そして、地方政府の財源確保に利用されたのが先ほどの「融資平台」というものである。簡単にいえば、地方政府が別会社をつくり、不動産を担保に金を借りて、不動産開発を行ない、それを分譲することで利益を得ていたのである。銀行などがこの債権を小分けして顧客に小売りしていたわけである。この仕組みは不動産価格が上昇を続け不動産開発が成功するという条件のもとでしか成立しない。不動産価格が下落に転じるなどで原価割れしたり、不動産開発が途中で止まってしまった場合、破綻してしまうのである。

 じつは、この構図は、サブプライム問題での銀行の簿外債務やバブル崩壊で大きなダメージを負ったドバイとほとんど同じものであり、先述の不動産利回りなどから多くのものが借入金利よりも利益が少ない逆ざや状態に陥っている、または陥るものと思われる。この場合「資本蚕食(利払いなどで資本が食われる)」が発生し、最終的に資本を食い尽くしたときに破綻が表面化することになる。中国の各所で発生している「鬼城(開発途中で止まってゴーストタウン化した街)」の金融部分はこれが支えているわけである。当然、このような状態であれば、債券市場は不活性化し、債券市場からのキャピタルフライト(資金逃避)が発生する。この資金の流れた先が株式市場であったとも考えられるのである。

 そこで、中国の株式市場の市場規模は1年で4兆ドルから、中国のGDPと同レベルの10兆ドル程度まで拡大した。この拡大資金は、不採算に陥った不動産や債券市場から流れ込んだお金と「信用取引」などにより膨れ上がった「フェイクマネー」であったと考えられる。これが一気に失われたのが6月中旬からの株価下落(400兆円以上)であったといえる。この事態を受けて中国側は大胆かつ強行的な政策を取ったわけである。

 それは、IPO(新規上場)の停止、大口投資家や経営陣などに対する1年間の株式売却禁止、「悪質な空売り」の禁止、下落株の売買停止など規制措置と証券会社などによる株式買い上げPKO、信用取引向け融資を行なう国営中国証券金融による証券会社に対する資金供給、中国人民銀行による証券会社向け特別融資(特融)などである。

 市場は市場原理で動く。価格は売り手と買い手の需給バランスで決まり、買いよりも売りが少なければ上がり、売りよりも買いが少なければ下がる。意図的に売りが出ないようにして、買いを増やし価格の操作を行なったのである。そして、その規模も非常に大胆なものであった。1番の急落を示した7月8日の売買停止銘柄は全株式の49%に及び、ストップ安を含めると74%にも達したのである。つまり、市場の4分の3が売りたくても売れない状態に置かれたわけである。

 このような一連の政策により一時的な回復を見せた中国の株式市場であるが、これは安定した流れにはならなかった。7月28日に約8・5%下落するセカンド・ショックが訪れたのである。この原因はさまざまだが、国際社会からの強行的な政策への批判から株価対策が打ち切られるという噂や「中国の実体経済を示す指数などが悪かったこと」が大きな要因といわれている。いくら株価を釣り上げたところで、実体経済が悪く企業業績が改善されなければ、配当は減少し、破綻リスクも高まるわけである。現在 中国本土の予想配当利回り(PER)は20倍程度であるが、非金融分野だけでみれば40倍以上であり、高すぎる水準にあったし、いまもあるといえる。これが改善されるためには景気が改善され、実体経済がプラスに転じる必要があるが、現在のところこれは厳しいといわざるをえない。

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著者紹介

渡邉哲也(わたなべ・てつや)

経済評論家

1969年生まれ。日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務した後、独立。複数の企業の運営などに携わる。国内外の経済・政治情勢のリサーチおよび分析に定評がある。主な著書に『世界と日本経済大予測』シリーズ(PHP研究所)などがある。

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