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地方経済を再生させる「企業とまちのたたみ方」〔1〕

2014年11月06日 公開
2023年09月15日 更新

冨山和彦(経営共創基盤[IGPI]代表取締役CEO)

 

地方に足りないのは「高質」な仕事

冨山 人手が不足している局面では、企業に雇用を吸収してもらう必要はなくなります。むしろ期待すべきは、生産性と賃金をあげること。「地方に仕事がない」とよくいいますが、地方でバス会社をやっている実感からするとウソです。都会よりも生産労働人口が先行的に減っているので、量的な意味での仕事は相対的に十分にあるんです。地方に足りないのは「高質」な仕事です。賃金水準が高く、雇用形態が安定的な仕事がない。現実に、地方で公共工事を増やしているけれども消化できずにいます。あれだけ労賃が上がっているのに、やる人がいないんです。理由は簡単で、仕事がハードということもあるけれど、工事が終わったら仕事がなくなるということをわかっているから。一方で、継続的に雇用されるサービス業の方は相対的に賃金が安い。そうすると、高質な仕事はなんとなく東京にあるように錯覚して、「都会へいってみよう」ということになる。ところが実は、東京でも事情は同じで、一般事務職の正社員という雇用はほとんどないんです。地方から出てきた若者が、気がついたらコンビニや居酒屋のバイトだった、ということになっています。

荒田 都会に出て行っても、地方で就ける仕事と大差なくなっていると。

冨山 そうなってしまうんです。これは不幸な状況です。もちろん、運のいい人は最近のユニクロみたいに正社員化の流れに乗ったりします。この流れを全国に広げるべきです。なぜユニクロが正社員化できるかというと、高生産性だからです。赤字の会社に賃金を上げろといってもできません。つぶれますからね。まず、赤字の会社が生産性を上げて黒字にするのが先なんです。黒字になったら賃金を上げられます。これが地方の企業のやるべきことです。

荒田 今回の地方創生の成否を占う尺度として、若者の流出に歯止めがかかるかがあります。潜在的な大都市への憧れに対抗できるだけの、働く場としての地方都市の魅力をいかにつくるかが問われていると思います。ご著書では、退出と集約が進んだ後の課題として、寡占的安定と適度な規律の両立が重要と指摘し、それを実現する仕組みの一つとして「非営利ホールディングカンパニー」という概念を提唱していますが、どのような形態なのでしょうか。

冨山 株式会社と公益法人の中間形態として、医療・介護をはじめとした公共性の高い分野で成立可能とみています。サービス産業はもともと公共性の高い分野ですから。公共交通も当てはまるかもしれません。教育もいけるかもしれませんね。そうした領域で生産性を高めていくためのフォーマットとして、このやり方があるのかなと思います。サービス産業の中でも、社会福祉系に加えて地方公共交通は隠れた成長産業なんです。要は高齢者が増えるからです。

 こうした産業分野は、資本価値の最大化だけの価値観で走られたのでは困るんです。典型的なマルチステークホルダー型の企業形態です。社会や公共の利益と株主の利益、従業員の利益、サービス受益者の利益それぞれを持続的にバランスを取る。地域の中で共創共生的にやっていくための会社のガバナンスのあり様なんです。だから、資本の構成は工夫する必要があります。近年、アメリカでも広がっています。

荒田 日本でも再生可能エネルギーを大手資本でなく地域主導で進めていこうという問題意識をもった地域で、似たようなスキームが生まれています。たとえば長野県の飯田市では市民出資の「おひさまファンド」を活用して、公共施設や一般家庭の屋根にソーラーパネルを置いて太陽光発電の普及を進めています。ここでも持続性が活動のキーワードになっています。

冨山 エネルギーも公共的ですから、似ていますね。持続性というのがとても大事なんです。G(グローバル)の論理でいくと、グローバル競争に生き残るための持続性の方が大事になってしまうから、L(ローカル)における持続性は犠牲にして、グローバルでトータルに生き残るという志向になります。このグローバル経済圏の論理を地域に持ち込むと必ず軋轢が生じます。地域はあくまで地域循環型のモデルを考えなければなりません。

荒田 持続的な地域循環モデルを構築するためにも、退出と集約を進めるべき分野があるのかもしれません。医療・介護に加えて、公共交通、エネルギー、場合によっては教育はどうでしょうか。

冨山 教育の生産性格差も極めて大きいと思います。今日の公共サービスは、経済的な自立力と公共的な責任との関係がトレードオフではなくて、経済的自立力が高いから、より少ない税金でより高い公共サービスを担うことができるという関係になっています。したがって、より高い生産性や付加価値をより高い効率で実現するということからすれば、生産性の低い人は公共性という付加価値をつけることができないということになります。結局のところ、良い経営をするという点においては、教育機関も同じだと思います。

 短期的な収益性を追求するだけなら、バス会社でも古いバスを使い続けて排気ガスもどんどん出せばよいということになります。しかし、それでは地域と折り合いがつかなくなります。持続性がないのです。そういう会社で働きたいと思う人も減っていきます。地域と持続的に共創共生していくという命題が入った瞬間に、先ほどのトレードオフの議論はナンセンスなものになってしまうのです。

 Gの世界の人はLの世界から逃げも隠れもできるんです。地域から逃げも隠れもできない存在が大事で、だから金融でいえば、地域金融機関が大事なんです。ほかの地域では競争力もなにもないから(笑)。彼らは、地域の中でやっていくことにこそ比較優位があります。

〔2〕につづく

 

冨山和彦

(とやま・かずひこ)

株式会社経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO

1960年生まれ。ボストン コンサルティンググループ、コーポレイト ディレクション代表取締役を経て、2003年、産業再生機構設立時に参画し、COOに就任。解散後、IGPIを設立、数多くの企業の経営改革や成長支援に携わる。
現在、オムロン社外取締役、ぴあ社外取締役、経済同友会副代表幹事、財務省・財政投融資に関する基本問題検討会委員、内閣府・税制調査会特別委員、文部科学省・国立大学法人評価委員会「官民イノベーションプログラム部会」委員、経済産業省・「稼ぐ力」創出研究会委員、金融庁・コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議メンバー、公正取引委員会・競争政策と公的再生支援の在り方に関する研究会委員等を務める。
著書に、『会社は頭から腐る』『結果を出すリーダーはみな非情である』(以上、ダイヤモンド社)、『カイシヤ維新』(朝日新聞出版)、『挫折力 ‐ 一流になれる50の思考・行動術』『30代が覇権を握る!日本経済』『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(以上、PHP研究所)などがある。<著者紹介>

 

荒田英知

(あらた・ひでとも)

政策シンクタンクPHP総研 地域経営研究センター長 主席研究員

1962年、福岡県生まれ。85年、鹿児島大学法文学部を卒業。同年PHP研究所入社。 87年から、同研究所内に松下幸之助が設立した新政策研究提言機構「世界を考える京都座会」の事務局に勤務し、 各種研究プロジェクトのコーディネーターを務める。89年に京都座会の国土創成研究会が提言した「ジャパン・コリドール・プラン」は、 リニアモーターカーの活用による均衡ある国土利用の実現をめざしたもので、 新聞などで「民間版四全総」とも評された。これを契機に、 地域政策分野の研究に専念。 独自の視点からの自主研究や講演活動に取り組んでいる。
これまで、全国各地の地域連携や広域行政、市町村合併などを数多くフィールドワーク。 「平成の大合併」以降の市町村のあり方についての諸方策や、大都市制度・地域主権型道州制について研究・活動している。

 

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