2014年10月03日 公開
2024年12月16日 更新
《社会変革プラットフォーム「変える力」より》
「一衣帯水」の隣国であり、切っても切れない関係にある中国。だが、日中関係は21世紀に入ってから、短期間の小康状態を挟みつつ、悪化する一方であるように見える。ただし、これは政治関係に限った話であって、経済活動の場面では、政治に関係なく利益に基づいて行動する人々の姿があり、実際に互いの国で活動する人々は、淡々と交流や協力を続けている。
最近では、日中関係といえば暗い論調ばかりが目につくが、実は、それほど悲観すべき状況ともいえない。ある外国の中東研究者は、「日中に深刻な問題があるとは思いません。何が問題なのですか」と発言したことがある。なるほど、日中では「嫌悪」感情は高まっているかもしれないが、それは「憎悪」と呼べるほどのものではない。日中双方の人々が、自国が平和な環境の下で発展を実現したことを知っているし、その状態を崩したいとも思っていない。
とは言え、最近の中国外交が、他国に不安を与えるものとなっているのは事実である。そのようなとき、単に相手を嫌う人が相手を貶めるために言うことと、相手に思い入れを抱き、そのためを思って言うことでは、たとえ内容は同じでも、不思議と受け止められ方は異なる。丹羽氏との対談では、意見が異なる部分もあった。しかし、中国に長くビジネスマンとして関わり、駐中国日本大使も務めた丹羽宇一郎氏のメッセージは、中国の人々にもより真摯に受け止められるのではないだろうか。
<聞き手:前田宏子(PHP総研主任研究員)>
前田 ご著書『中国の大問題』の前文で、「かつての日本が80年代に『ジャパン・アズ・ナンバーワン』と言われた時と同じように、最近中国にも少し驕りというようなものが見える。しかし国内では数々の問題に直面している」ということを書かれていましたが、私もそのとおりだと思います。
ざっくばらんな質問ですが、今後、10年、20年、30年というスパンで見ていった時に、中国はどういうふうに変化していく、どのような国になっていくと思われますか。
丹羽 分からないですね、それは。日本の20年、30年後の姿もわからないのに、まして、よその国の20年、30年後はね。でも、確実に今までと異なるのは、やはり、インターネット革命やグローバリゼーション、そういう環境の変化が、中国国内の政策や対外政策に影響を及ぼすだろうということです。
だから、国際的な価値観にできるだけ近づくような方向へ、アメリカも日本も中国を誘導していく必要がある。それが、アメリカにとっても、日本にとっても、世界の平和と安定のために欠かせないことです。また実際に、そういう方向へ動いていくのではないかと思います。人権問題や経済的な問題についてもそうですが、政治体制や経済体制、社会の色々な規制のあり方、いろいろな面で、ひとりよがりなガラパゴスではなく――日本も他国のことは言えませんが――国際的な価値観にできるだけ沿うような方向へ進んでいくのではないでしょうか。
前田 例えば、安全保障や外交という観点からみると、一番危険なのは、今後10年間ではないかと思います。経済成長は、もちろん速度は落ちてきますが高成長率を維持し、世界的なプレゼンスも更に大きくなる。力をつけてきて、「中国はもっと尊重されるべきだ」という自信も強くなっていく。
他方で、国内においては、『中国の大問題』でも指摘されているように、いろんな問題が存在しています。格差の問題とか、大学を卒業しても必ずしも良いところに就職できないとか。農民工の子供たちなどの戸籍の問題もありますし、何しろ問題が山積していて、世界的な大国になりつつあるという自信と、国内での不満というのがミックスされて、対外的に強硬な姿勢になる危険があります。
ただ、15年、20年と経つと、さすがに国内の問題のほうが重要だと気づくのではないでしょうか。中国の敵は外ではなく――外部の敵の脅威は、実は現在だって大きいわけではありませんが、100年前の歴史、列強に侵略されたというトラウマみたいなものがあって、強くないとだめだという意識がすごく強いですよね――20年後は、中国の一番の脅威は国内に存在するということを多くの人々が認識するようになる。そして国内問題のほうが大事だということになって、その解決に集中するために、平和的な国際環境が必要だという認識に立つことになるのではないかという見方をしているんですが。
とは言え、この10年は、周辺国にとっては忍耐が必要な時代になるのではないかと予測しています。そういう見方についてはどのように思われますか。
丹羽 経済発展や国家の発展史を見ると、どの国も発展の過程に大きな違いはないと思うんです。中国の資本主義経済は始めてからまだ数十年ですから、実に初歩的な段階です。これからどうなるかというのも、日本やアメリカの経済の発展の歴史を振り返ってみれば、大体見当はつくのではないでしょうか。資本主義が発展する段階において、アメリカも日本もそうでしたけれども、汚職などが発生する。日本で言えば造船疑獄や会社の合同・合併などによる政治の介入、環境汚染。そういうことは日本も経験しています。今、中国はそういう時期に差し掛かっていると考えると、中国だけが取り立てて変な国ということではない。ただ、非常に大きな国だから、その分いろんなアンバランスな部分の振幅が大きいということでしょう。中国人だけが極めてすぐれた民族というわけでもないし、極めて劣った民族というわけでもない。
我々は中国よりも資本主義社会としては歴史がある国なのだから、そういう目で温かく見守っていくということが、国際社会における先進国としての役割だと思います。アメリカのオバマ大統領の基本的な姿勢もそうでしょう。ですが、日本には、競争相手というか、敵対的というか、そういう気持ちが少し残っている。だから、中国の経済が悪くなったりすると、「ざま見ろ」とか、「やっぱりそうか」とかいう声が出ますが、世界の経済の安定にとっては何の意味もないことです。
中国は、体は非常に大きくなったけれど、まだまだ日本やアメリカに比べれば資本主義社会としての歴史が短いだけに、精神的にはかなり遅れをとっていると思います。それに対し、大局的な立場に立って、「こうしようよ」と誘導していくのが日米の役割だと思います。
今ちょうど中国が、日本の30年ぐらい前、1980年から90年の域に近づきつつある。そういうことから言うと、中国の大きな崩壊はまずないと思われますし、崩壊したら世界中が崩壊します。今や中国抜きには語れない状況になっていますから。ギリシャやスペインの経済危機とは比較にならない。中国が崩れたら、日本もですが、世界が激動の時期になってしまうので、それは避けなければなりません。
もう少し日本が自信を持って、大人の対応をしなければいけない。いつまでも中国を子供と思ったり、日本よりも劣ると思ったり、そういう気持ちで、韓国や他のアジアの国々も含めて、おつき合いしてはいけないと思います。同じ人間として、同じような能力を持っている国民として、日本は中国だけではなく世界全体を考えなければいけない立場にあります。
中国が失敗すると「ざま見ろ」と言ったり、日本の利益にならないことをやると罵ってみたり、どの国もそういう気持ちはあるけれども、私が思うに、日本人は非常に狭量です。日本人だけではないけれども、その度合いが、世界に比べると、中国に対しては非常に厳しい。今の質問も、そういう前提が感じられる気がしますね。
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更新:12月27日 00:05