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今だから話そう、大震災のあの時あの現場―【第15回】

2014年03月10日 公開
2022年12月08日 更新

熊谷哲(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

【第15回】小さな現場ほど深刻なんだ 

 現地入りしてからの約1週間。足を運べたのは、大槌町、釜石市、陸前高田市、気仙沼市、そして常駐する大船渡市。内陸部は遠野市と住田町。総理はじめ政務三役(大臣・副大臣・政務官)や中央省庁担当官の視察に同行すること5回、現地状況と避難所状況のレポートは計8通。すべての拠点避難所と周辺の避難所をまわることができたのは大船渡と陸前高田だけだったものの、他の市町も共通するいくつかの問題が見えてきていた。

 大船渡と陸前高田では、おおむね行政区の「町」単位に災害対策地区本部を設置していた。この地区本部には担当の市職員が決められていて、有事の際には本部に駆けつけ、現場対策を担いつつ市役所との窓口になる。「町」の中では、およそ集落単位の「地区」ごとに避難所が設置され、区長と担当市職員が集まる地区対策会議において情報共有と方針確認がなされる。多かれ少なかれ、津波の被害が想定されている三陸沿岸部では、このような態勢が震災前から準備されていた。

 これが満足に機能していると見受けられたのは、この両市のみだった。他の市町では、例えば、市役所の職員が常駐できていない。「町」の自治機能(例えば公民館や防災組織)が働かず、地区本部としての役割も果たせない。他地区や他「町」から受け入れた避難者との間でコミュニケーションの断絶がある。そもそも、かたちは想定だけで、実際の運用はまったく考慮されていなかった。などなど、さまざまな課題が見受けられた。

 両市もまた、問題を抱えていた。ある「町」ではやはり自治が機能せず、情報共有や物資配送に手間取っていた。また、地区本部といっても情報伝達の役割にとどまることが多く、常駐している市職員みずから、出先機関としての役割に疑問や限界を感じ始めていた。震災発生から1か月を迎えようとする中で、こうした態勢を見直す必要性が高まっていた。ただ、どこの市町にも目の前のことに手一杯で、そんな余裕はなさそうだった。

 避難所の現場を歩くと、さらに個別の問題が山積みだった。ある避難所は、はじめは市の第三セクターが管理する宿泊・入浴施設に避難していたが、4月1日づけで営業を再開するからと追い出され、ずっと稼働していない特産品授産施設に移されていた。山中でまわりには何もなく、携帯も通じない。あまりにも限られたスペースに約30人の避難者という環境に耐えかねて、馬小屋の一角を借りて避難する世帯もあった。

 ある市では、国に報告するリストに載っていない避難所があった。高台にある空き家や空き工場に、数十人単位で避難していたにもかかわらず、だ。市の見解では、あくまで公共施設や市の指定したところが避難所。当然のことながら、市の物資配送リストからも漏れている。救いは、実情をつかんでいた自衛隊が、自主的な判断で支援物資を運んでくれることだけだった。

 まったくもうさぁ、一度こっちに来て、直接その目で見てくれないか。

 通り一辺倒の報道や報告書類に頼るだけでは間違いを生む。レポートの送り先以外でも、この状況を把握した上で政策判断して欲しい。そう思った私は、ある政党本部に勤める親友に連絡した。青森空港から、盛岡~一ノ関間が再開したばかりの新幹線で。はるばるやってきた彼を、これでもかというほど連れ回した。時間や距離の壁があって、なかなか視察の人が足を踏み入れない小さな避難所や現場ほど事態は深刻なんだ、と。

 嫌な顔ひとつせず、時折目頭を押さえながら真剣に見て回ってくれる彼の様子に、やっぱり彼を呼んでよかったと私は思った。と同時に、慌ただしく駆けずり回った日々が、少し救われたような思いがしていた。明日からまた頑張ろう。彼を見送り、盛岡に着いたと連絡をもらい、ちょっとほっこりしていた風呂上がり。そこに、遠くから地鳴りのような音が響いてくる。地震だ、これは震度6はあるか。4月7日の真夜中、あの瞬間、私は悪夢が繰り返されないことだけを祈っていた。

(つづく)

研究員プロフィール:熊谷 哲☆外部リンク

 

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