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2014年に日本が注視すべきグローバルなリスク 10

2014年01月06日 公開
2023年09月15日 更新

PHP総研グローバル・リスク分析プロジェクト

 PHP総研グローバル・リスク分析プロジェクトは、2014年に日本が注視すべきグローバルなリスクを展望する「2014年版PHPグローバル・リスク分析」レポートをまとめました。好評をいただいた2012版、2013年版に続く第3回目のレポートとなります。国際政治、地域情勢、国際金融、国際経済、軍事、エネルギーの専門家が集中的な検討を行い、その結果を、代表執筆者が中心になってまとめたものです。

 以下、その一部をご紹介します。

 

◆ グローバル・リスク2014 ◆              

 リスク 1.新南北戦争がもたらす米国経済のジェットコースター化

 リスク 2.米国の量的緩和縮小による新興国の低体温化

 リスク 3.改革志向のリコノミクスが「倍返し」する中国の社会的矛盾

 リスク 4.「手の焼ける隣人」韓国が狂わす朝鮮半島を巡る東アジア戦略バランス

 リスク 5.2015年共同体創設目前で大国に揺さぶられツイストするASEAN諸国

 リスク 6.中央アジア・ロシアへと延びる「不安定のベルト地帯」

 リスク 7.サウジ「拒否」で加速される中東秩序の液状化

 リスク 8.過激派の聖域が増殖するアフリカ大陸「テロのラリー」

 リスク 9.米 - イラン核合意で揺らぐ核不拡散体制

 リスク 10.過剰コンプライアンスが攪乱する民主国家インテリジェンス

 

 自公連立が衆議院選挙に続いて参議院選挙を制し、第二次安倍政権は日本における久々の安定政権としての基盤を確実なものにした。偶然にも、米国、中国、台湾、韓国、北朝鮮、ロシア、豪州、ドイツといった日本にとって重要な国々の多くも新たな政権、新たな任期をスタートしたばかりであり、安倍首相はこれらのカウンターパートとしばらくの間付き合っていくことになる。だが、そのことは安定した外交関係や国際情勢を必ずしも意味しない。強力な構造的要因が、国際環境を流動化の方向に向かわせるからである。

各リスクの具体的な内容は「政策シンクタンクPHP総研のホームページ」のPDFで読んでいただくとして、ここでは、個々のリスクを理解する上で考慮すべき2014年のグローバルな文脈として、「2014年の先進国の行方は政治指導力次第」「米国金融政策動向に振り回される新興国経済」「『協争』の東アジア」「共振する中東秩序の再編とエネルギー市場の地殻変動」をとりあげる。

 

2014 年の先進国の行方は政治指導力次第

 角度の高い成長方法の不在、高齢化に伴う個人消費の押し下げ、福祉負担増等による財政赤字の拡大といった構造的要因に、リーマン・ショック、ユーロ危機が重なって、ここ数年は多くの先進国経済が低迷を経験してきた。

 しかし、ここへきて先進国に復活の兆しもうかがえる。失われた10年、失われた20年などと言われ、先進国病の象徴のようであった日本は、Japan is back ! の号令一下、アベノミクスによる巻き返しをはかっている。米国経済も、10月の米雇用統計が政府機関一部閉鎖にもかかわらず上振れし、住宅や自動車の販売が堅調であるなど、底堅さをみせている。シェール革命のバブルは小休止とはいえ、それがもたらすエネルギー・コストの低下は米国経済全体にとって引続き好条件である。

 ユーロゾーン危機はまだ去っていないものの、欧州経済も何とかプラス成長に転じている。ただし、より本格的な復調に向かうかどうかは、ひとえにドイツが政治的決断ができるかどうか次第である。ユーロ圏の低迷がもたらしたユーロ安の恩恵で史上最高の経常黒字を記録するなどドイツ経済には債務危機支援をまかなうだけの十分な体力があり、しかもEU欧州委員会が過剰な不均衡かどうか調査に乗り出すなど、国外からのプレッシャーは増大している。ドイツが欧州支援に舵を切れば、欧州経済は復調への足がかりをつかむことができるが、その実現はCDUとSPDの大連立の運営に左右されそうである。大連立下では、主要政党が責任を分担し、統合欧州維持のために不可欠ながら国内的に不人気の欧州支援に乗り出す可能性もないではない。逆に、両党ともが次の選挙を念頭に人気取りに終始してドイツ政府が決断できなければ、欧州の本格的回復はさらに先送りされ、危機再燃のリスクが持続することになる。

 持続的な成長軌道に乗るために困難な政治決定が求められるのは日本も同じである。参議院選挙を制した安倍政権が久々の安定政権となる可能性は高いが、2014年4月に消費税率を8%へ引き上げるとの判断を経て、成長戦略の目玉である国家戦略特区や規制改革で既得権者の抵抗を排して海外の投資家や企業が魅力を感じる具体策を展開できるのかどうか、旧来型の分配政策への回帰を求める党内からの圧力に抵抗できるのかどうか、原発再稼働によりエネルギー・コストを縮小できるのか、中長期的な成長の突破口となるはずのTPPに関して国内をまとめられるのか、経済再生に向けた政治指導の真価が問われるとみなす声が大きい。

 とはいえ、先進国の中で、経済が最も政治に左右されそうなのは米国である。米国経済にとって量的緩和縮小(テーパリング)の副作用以上に懸念すべきは、民主・共和の党派争いの悪影響である(リスク1)。2013年、財政の崖をめぐる攻防はついに政府機関の一部閉鎖にまでいたった。2013年12月、両院超党派委員会が財政協議で合意し、2014年1月の暫定予算期限切れで政府機関が閉鎖される事態は避けられそうだが、2月7日には再び連邦債務の上限引き上げ期限が控えている。共和党を悪役にするオバマ大統領の戦略を回避するため同党が軟化する可能性もなくはないが、2014年11月の中間選挙に向けた党派争いは様々な局面で熱を帯びるだろう。こうした米国政治の不透明感は企業や投資家に模様眺めの姿勢をとらせることになる。

 経済面同様、外交・安全保障面でも、国内政治が米国復活の妨げになりそうである。債務上限問題の影響で、オバマ大統領の東アジア訪問がキャンセルになり、地域諸国には、「オバマ政権のアジア重視は所詮口先だけ」との認識が広がった。オバマ大統領はTPP交渉にも欠席し、アジア回帰の要との触れ込みのTPPへの本気度も疑われた。与野党のチキンゲームがもたらした歳出削減の影響は、訓練や海外ローテーションの縮小など、じわじわと米軍の屋台骨を揺るがしており、軍事的なアジア回帰の実現性にも疑問符が投げかけられている。将来戦のための投資と現在の作戦に必要な費用とのどちらかを選ばざるを得ない状況にも追い込まれつつある。スノーデン事件をうけて、9-11テロ以降膨張したNSAなどインテリジェンス機関の活動への風当たりが強まっており、歳出削減のお手軽な対象となったり、政争の中で過剰な制約をかけられたりと、米国のインテリジェンス能力の低下を招くおそれもある(リスク10)。

 しかし、米国の影響力やプレゼンスを低下させるのは、国内政争であるよりも、米国の覇権的地位を維持することへのオバマ大統領の意欲の欠如である。そのことを如実に感じさせたのはシリア介入をめぐるオバマ政権の混乱した対応であった。無論、あのままシリア介入に突入した方がよかったとはいえないが、介入するかしないかの責任を議会に負わせようというオバマ大統領の態度は、責任ある政治家のそれではなく、後述するように中東地域をはじめ、グローバルな米国の威信を低下させた。シリアにおける化学兵器廃棄の進展にもよるが、大量破壊兵器使用をめぐる閾値を下げてしまったことは否定できない。だが、それ以上に気になるのは、親米国に対するオバマ大統領の態度である。アラブの春では、長らく米国の中東政策の要であったエジプトのムバラク大統領があっさりと見捨てられた。今年のシリア危機をめぐっては米英の介入を求めるサウジ等のアラブ諸国の期待を裏切り、イラン核協議をめぐってはサウジやイスラエルの猛反発にも関わらず、暫定合意をまとめるにいたった(リスク7、リスク9)。オバマ大統領には、目先の成果のためには親米国を袖にすることをいとわない面があることに留意が必要だろう。

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