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教育再生の本気度は来年度予算で試される

2013年08月13日 公開
2023年09月15日 更新

亀田徹(政策シンクタンクPHP総研教育マネジメント研究センター長)

《PHP総研研究員ブログ 2013年8月12日掲載分より》

 参院選で自民党が勝利したことを受け、安倍総理は会見で「国民の負託に応え、政策実行をさらに加速させていかなければなりません」と述べた。その参院選で自民党が掲げた公約からは、同党の教育重視の姿勢がうかがえる。復興、経済といった9つの政策分野の1つに教育をあげており、他党と比べても教育への意気込みが感じられる公約であった。

 教育重視の姿勢がほんものかどうかは、来年度予算のかたちで見極めることができるだろう。来年度予算は、安倍政権にとって初めて編成過程から取り組める本格的予算となるからだ。教育予算に関しては、小中学校の教職員定数の扱いが焦点となるに違いない。まずは今回の概算要求に注目したい。

 これまで、小中学校の教職員定数については、国の第1次から第7次にわたる定数改善計画にもとづき段階的に定数増がはかられてきた。

 だが、第7次計画が終了した平成18年度以降、改善計画が策定されない状態が続いている。「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げた民主党政権においても、概算要求の時点では改善計画案が示されたにもかかわらず、国の厳しい財政状況のなかで計画が作成されることはなかった。同じく民主党政権のもとでの25年度概算要求にも改善計画案が含まれていたものの、自民党政権に交代した後に編成された本年度予算では計画を策定するにいたらなかった。

 教職員定数を増やし学校の指導体制を充実させることは、多くの自治体や学校が強く要望している施策だ。

 たとえば、いじめ対応を強化するには、教員が授業の時間以外にも子どもたちと話し合ったり、家庭を訪問したりすることが欠かせない。各学校に授業を持たない教員を配置することができれば、そうした指導が可能になる。授業の時間にもう一人教員が教室に入ることにより、課題を抱える子どもへの個別支援を行うこともできる。

 政府の教育再生実行会議も、いじめ問題に関するまとめにおいて「教職員配置を改善充実し、少人数指導・少人数学級の推進や生徒指導に専任的に取り組む教職員の配置を進める」と提言した。

 6月に閣議決定された教育振興基本計画にも「いじめ問題への対応など教育再生につながる教職員等の指導体制の充実について、効果検証を行いつつ、(略)教職員配置の適正化を計画的に行うなどの方策について検討する」ことが盛り込まれている。

 安倍政権は、改善計画の策定を決断すべきだ。

 参院選において、自民党は政策集に「教職員等指導体制の充実を図ります」と掲げ、公明党も「児童支援専任教諭等の常時配置」を公約に明記していた。民主党、共産党、社民党、生活の党も、教職員定数の増加や少人数学級の推進などを主張する。各党とも学校における指導体制の強化の必要性を提示しており、決断の環境はすでに整っているといえよう。

 本年1月、財務省と文部科学省は「教育の質の向上につながる教職員配置の適正化を計画的に行うことその他の方策を引き続き検討」することに合意した。合意に基づき、来年度以降の改善計画策定に向けた作業を進めることが望まれる。

 政策の優先順位は、予算配分にあらわれる。安倍政権における教育再生の本気度は、教職員定数の扱いではかることができるといっても過言ではない。概算要求において新たな改善計画案が打ち出されることを期待したい。

 

<研究員プロフィール:亀田徹>☆外部リンク

 

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