2013年08月27日 公開
2023年09月15日 更新
《PHP総研研究員ブログ2013年8月27日掲載分より》
8月19日、ワシントンでヘーゲル米国防長官と中国の常万全国防相の会談が実施された。会談後の記者発表では、米中安保協力を進展させていくことの意義について双方が合意したこと、米中のハイレベル軍事交流の拡大、中国側がヘーゲル国防長官の訪中を要請し米側が承諾したことなどが発表された。また、来年実施される予定の環太平洋合同演習(リムパック)に、中国が初めて参加することを再確認し、その意義についても改めて強調された。
他方で、常万全国防相は、アメリカのアジア・リバランス戦略に対する不満、領土や海洋権益を巡る強硬な姿勢を示し、中国もサイバー攻撃の被害者であるという従来の姿勢を繰り返すなど、米中の意見の隔たりが依然として大きいことも伺わせた。ある日本の新聞は「米中国防相会談で中国が攻勢」と報じていたが、どちらかといえば、中国はいつも通り自国の主張を繰り返していたのに対し、アメリカ側が米中協力の姿勢を強調する方により重点を置き、対立を顕在化させるのを嫌ったという印象である。
中国国防部の報道官によれば、常万全国防相は、米中の軍事協力を阻む3大要素として以下の点を挙げた。1つ目は、アメリカの台湾に対する武器売却、2つ目は、米国議会の米中軍事協力の発展に対する敵対的姿勢、3つ目は、米軍艦艇・飛行機による中国の排他的経済水域(EEZ)における偵察行動である。ただし、中国メディアですらも、これらの主張について、中国側が「新型の大国関係にもとづき」、「中国側の主張をはっきりと伝えた」と記すのみで、米国側の了承を得られたとは一言も書いていない。「アメリカのリバランス戦略、北朝鮮の核問題、釣魚島(尖閣諸島)問題、南シナ海問題、サイバー問題についても、率直な意見交換がなされた」と簡単に言及するにとどまっているのは、これらの問題について米中の意見が折り合わなかったことを意味する。
ただ、アメリカの台湾に対する武器売却に関し、作業部会を設置することで合意したという点は要注意である。実際には、米中間にはこれまでも台湾に対する武器売却をめぐり、非公式な意思伝達の場は存在したはずだが、この作業部会は、これまで存在していたものを公的なものとするにとどまるのか、あるいはそれ以上の意味を持つものとなるのか、注視していく必要がある。
その他、米中は、人道支援・災害救援、アデン湾における海賊対策などで軍事協力を進めていくことについても合意したとのことである。「人道支援」「災害救援」「環境保護」というテーマは、戦略的に対立している国家間でも協力が進めやすく、対立を緩和するため、あるいは表面化させないようにするために取り上げられやすい。しかし、このような協力を象徴的なものと捉えるのは間違いであり、これらは軍事的にも重要な意味がある。ある会議で、中国の元海将は「中国の海軍の実力はまだ日米にも及ばない。なぜ、中国の海軍力が脅威とみなされるのか」と抗議し、それに対して日本側が、海自船舶に対するレーダー照射の件、あるいは日本の自衛艦が中国の船舶に遭遇した際、所属や任務を尋ねても応答もしないで急接近してくるような行為、これらは国際的に見ても非常識で、衝突を引き起こしかねない大変危険な行為であると説明すると、中国側も「それは我々も改めるべき点だ」と納得していた。人民解放軍が外国の軍と協力を進めていきながら、そのような慣習について学んでいくことの意義は大きい。
米中協力が進むと、日本ではいつもそれを不安視する声があがる。しかし、冷静に考えれば日本にとっても米中の衝突は望ましいものではなく、米中軍事協力が進むことにより、中国が国際慣習や危機管理の方法を習得していくのは歓迎すべきことである。日本にとって、たとえば尖閣問題でアメリカが中国に譲歩するようなことがあれば問題だが、今のところそのような傾向は見受けられない。同盟国として、米中国防相会談の公表されていない部分で、どのような対話がなされたのかなどをアメリカに確認し、日本の要望を伝えつつ、日本が自国の防衛体制の強化に努めることが重要であろう。
さらに、米中国防相会談の内容を見て思ったのは、なぜこの程度のことが、日中間で出来ないのかということである。米中間でも、利益が対立する点については、何も合意がなされていない。しかし、話し合いを続けていくことが重要だということで、できる範囲での協力を進めていこうという方針が取られている。中国側に、対日政策についても、同様の方針を取ることが有益であると説得していくべきである。
<研究員プロフィール:前田宏子>☆外部リンク
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更新:11月22日 00:05