2026年07月27日 公開

「将来子どもが欲しくない」と考える未婚女性の割合は2025年に6割を超え、過去最高となった(ロート製薬調査)。背景には、経済的不安やキャリアの中段への懸念があるとされる。こうした状況のなか、2002年という早い時期から、家庭と仕事の両立を可能にする働き方の創出に取り組んできた企業がある。
聞き手:編集部(田口佳歩)
★本論稿は、意見集約プラットフォーム「Surfvote」と連動しています。
※本稿は、『Voice』2026年6月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。
――ビースタイルホールディングスでは、子育てや介護などによりフルタイムで働くことが難しい「しゅふ」に向けたパートタイム型人材派遣サービス「しゅふJOBスタッフィング」を2002年に開始し、数多くのビジネス賞を受賞されています。あらためて当時の問題意識を教えてください。
【三原】2002年の創業当時は、「寿退社」という言葉が当たり前に使われていた時代であり、女性は結婚や出産を機に仕事を辞めるのが一般的でした。一方で、総合職として働く女性も増え、結婚前には男性と同様の仕事を担うようになっていた。それにもかかわらず、スキルや経験をもつ優秀な人材が離職してしまう状況を、私は非常にもったいないと感じていました。そこで、家事や育児と両立しながら働ける仕事を増やしたいと考えて起業に至りました。
派遣会社として取引先企業の開拓をするなかで、私たちは男性ばかりのメンバーで起業したこともあり、「なぜそのコンセプトで起業したのか」と不思議がられることも多くありました(笑)。それが結果として、テレビや雑誌からの取材を多く受けることにもつながったのですが、私たちの考えは極めてシンプルで、「家庭と両立できる仕事を増やすべきだ」という一点に尽きます。
――それほど強い確信があったのですね。
【三原】ええ。人は誰しも生まれ、育てられてきた存在であり、育児は本来肯定されるべきものです。それにもかかわらず、育児がキャリアの「足枷」になったり、自由な選択ができなかったりする社会には問題があると考えていました。実際、周囲を見ても、仕事にやりがいを感じ、組織のなかで自己表現ができていた人ほど、その選択に悩んでいました。
いまでこそ、キャリアと家庭を両立する選択肢は広がっていますが、当社の創業当時はほとんど存在していませんでした。ホワイトカラーであっても柔軟な働き方は限られており、いまでは考えられませんが、朝9時出社を一時間後ろにずらして10時にするだけでも大きなハードルがあった。企業側には「決められたルールに従うべきだ」という意識が強く根付いていました。
そのような状況のなかで求人企業の開拓を進めるにあたっては、企業にとってのメリットを地道に訴求していきました。求職者が優秀であること、そして「しゅふ層」が報酬よりも家庭との両立を重視していることを粘り強く伝えることで、ようやく企業側も採用を検討するようになりました。当時は「人に合わせて仕事を設計する」という発想が乏しく、私たちの取り組みは「営業」というよりも、むしろ「啓蒙」に近いものであったと感じています。
さらに、私たちより「本当に9時から18時の勤務が必要なのでしょうか」「残業が50時間増えたからといって、一人月分(160時間)の労働を追加するのは合理的なのでしょうか」といった問いを投げかけることで、企業側の従来の働き方そのものの見直しを促していきました。実際、一人月を追加して残業が解消されたとしても、業務の進め方や役割分担によっては、効率化につながらない可能性もあります。過剰な労働時間は必ずしも生産性向上にはつながりません。
また、時短勤務者がいると「引き継ぎが大変になる」といった声も多く聞かれましたが、詳しく聞いてみると実際にはそれほど大きな負担ではないことも多い。こうした現場の課題に一つひとつ耳を傾け、丁寧に解消していくことで、事業を軌道に乗せていきました。
――現在では「しゅふJOBスタッフィング」に加え、ハイスキル人材向けの「スマートキャリア」や、しゅふに特化した求人媒体「しゅふJOB」、さらにはDX推進支援など、幅広い事業を展開されています。それぞれの事業の背景には、どのような課題意識があるのでしょうか。
【三原】根底にある目的は一貫しており、「家庭の事情などと両立して働ける仕事を集約する」ことです。従来のリクルーティングサービスは、正社員・派遣社員・パートタイムなどといった雇用形態軸や、業界・職種軸に分類されるのが一般的ですが、当社は「ライフスタイル軸」という切り口でサービスを展開しています。
また、DX推進支援事業に参入した背景には、少子化による人口減少と労働力不足という構造的課題があります。これに対応するためには、企業は代替労働力の活用を進める必要があります。正社員以外の雇用形態の活用はもちろん、しゅふやシニア、外国人など、雇用対象そのものを広げていくことが求められるでしょう。それと同時に、テクノロジーを活用して労働生産性を高めることも不可欠です。現在ではDXを推進するエンジニアを約70名擁し、AIなどのテクノロジーと人間が担うべき業務を適切に棲み分けながら、企業に対してソリューションを提供しています。
――「ライフスタイル軸」という特徴のほかに、差別化のポイントはありますか。
【三原】求人媒体における最大の競争優位は、認知度であると考えています。当社のサービスは女性の登録が多く、女性労働者だけでも3000万人規模の市場があります。共働き世帯は約1300万世帯にのぼり、家庭と仕事を両立しながら働く人は増加しています。なかでも「しゅふJOB」という求人媒体が着実に成長しており、2024年の調査では全国の認知度ランキングで6位に位置しています(子どもと同居かつ育児の負担がある、求職中または求職する可能性のある30~59歳の女性が対象)。こうした認知の積み重ねが、当社の競争優位性につながっていると感じています。
さらに50代、60代の採用も進んでいます。女性の場合、依然として年齢とともに再就職が難しくなる現実がありますが、当社の求人媒体に掲載されている企業は「しゅふであること」を歓迎しています。そのため、求職者にとって心理的なハードルが低い点も特徴です。たんなる人手不足を補うための採用ではなく、ライフスタイルに寄り添ったマッチングを重視しています。
――柔軟な働き方には、昇給の機会が限られるといった課題もあるのではないでしょうか。
【三原】おっしゃる通りです。とくに近年は共働き世帯が増えており、当社としても新たな取り組みが求められています。男性も仕事に加えて家事・育児を担う必要がありますし、夫婦双方がキャリアを築いていかなければなりません。また、一度いわゆるマミートラックに入った女性が、リスキリングを通じてキャリアアップしていく仕組みも重要になるでしょう。
こうした社会の変化に柔軟に対応できる企業を、私たちはエージェントとして発掘していかなければならないと考えています。この20年間で「働きやすさ」は大きく進展し、働く場所や時間の柔軟性は高まりました。これからは、それに加えて「働きがい」をいかに実現するかが問われる時代になるのではないでしょうか。
――三原さんは大学時代に人材派遣会社の営業としてアルバイトをされて以来、一貫して人材業界に携わってこられました。この2、30年の労働環境の変化をどのようにご覧になっていますか。
【三原】大きな変化の一つは、男性の働き手が家事や育児に取り組むようになったことです。家事育児を夫婦で協力し合う風潮が広がったことは、非常に重要だと考えています。どちらか一方が家事育児を担う状況では選択肢が限られがちです。しかし互いに協力できる環境が整えば、家族やライフプランについてより柔軟に考えられる余地が生まれるはずです。
人口が減少し続ければ、経済はどうしても停滞します。だからこそ、安心して子どもを産み育てられる労働環境を整えることが重要であり、それは私たちが事業を通じて解決したいもっとも大きな課題でもあります。
――一方で、制度面における課題についてはどのようにお考えでしょうか。
【三原】柔軟な働き方の導入は進みつつある一方で、その取り組み状況は企業ごとに異なります。とくに「働く時間の柔軟性」は、可能な限り高めるべきだと考えており、私は企業に対して「フルフレックス制」の導入を提案しています。
仕事をレースにたとえるなら、家事や育児に費やす時間は一時的な「ピットイン」のようなものです。家事育児を終えた後、本来であればすぐにレースへ復帰できるはずなのに、「朝9時から始業」といった制約があるために、それまで待たなければならない。たとえば、子どもを寝かしつけた後に少しでも仕事ができれば、時間を有効に活用することができるはずです。このような仕組みは、仕事の成果を大きく高めると考えています。
――4月からは正社員や契約社員を対象に、週休4日制や1日最短6時間勤務を可能にする制度を導入すると発表されていますね。育児や介護などの理由を問わない点も画期的です。
【三原】これも一つの挑戦です。週休4日ということで、記者の方からも「(3日ではなく)4日ですか?」と何度も聞かれました(笑)。
導入したばかりですので、どの程度活用されるかはまだ分かりません。ただ、この制度と同時に社員には「時間当たりの経済効果を追求する」ことを求めています。休暇を増やすこと自体が目的ではありません。ビジネスの価値は「時間」ではなく「結果」で測られるべきだという意識への転換が必要だと考えています。非常にチャレンジングな取り組みではありますが、私たち自身が実践しなければ、他の企業に広がることはありません。その意味でも、今回の導入を決断しました。
――これまでのご発言からは、三原さんが仕事に対して強い情熱をもち続けていることが伝わってきます。そもそも「働く」とはどのようなことだとお考えですか。
【三原】私は、仕事におけるキャリアを「社会的影響力」と定義しています。目の前のお客様はもちろん、上司や同僚に対して、経済的・社会的にどのような影響を与えられるか。その影響力の範囲が広がり、深まっていくことが、キャリアを積むということだと考えています。
たとえば、世界的なアーティストは、世界に対する影響力をもっているからこそ「世界的」と呼ばれますし、メジャーリーガーも同様に、世界的な影響力をもつ実力があるからこそ、その舞台で活躍できる。ビジネスパーソンも同じで、社会に対してどれだけ広く、深い影響力をもてるかを考えることが重要ではないでしょうか。
当社の場合でいえば、登録企業への影響力、求職者の「働くこと」に対する影響力、さらには日本社会の未来に対する影響力があります。また、上場企業である以上、株主に対する影響力も無視できません。こうした多方面に影響力をもち続けるためには、あらゆる場面で決断と挑戦が求められます。
――社会に目を向けると、さまざまな事情で働きたくても働けない人や、次の仕事が見つからない人もいます。そのような方々に、まず何を伝えますか。
【三原】転職には必ず何らかの目的があるはずです。まずはその目的を明確にすることが重要でしょう。目的が明確になれば、おのずと優先順位も見えてきます。最低限満たすべき条件である「マスト」と、実現したい希望である「ウォント」を分けたうえで、自分の資産――――マインド、スキル、ナレッジ――――を整理することが必要でしょう。
企業側は、この三つの要素ができるだけ高い人材を求めていますから、そのあいだで折り合いをつけていくことになります。ただし、本当に入社を希望する企業があるのであれば、エージェントを介さずに直接アプローチすることも一つの方法でしょう。とはいえ、一人で目的を明確にしたり、自分の資産を棚卸ししたりするのは容易ではありません。だからこそ、私たちのようなエージェントの存在意義があるのだと思います。
――同僚から見ると非常に優秀でも、会社からの仕事の評価が低かったことで落ち込み、最終的に仕事を辞めてしまうような場合もあると聞きます。
【三原】残念なケースです。ただ、もしかすると見直すべきポイントはそこにあるのかもしれません。仕事において重要なのは、会社や顧客が何を求めているのかを理解し、それにどう応えるかという点です。
たとえば、恋愛でも相手を好きであるあまり、気持ちが先走って相手が望まない行動をとってしまい、かえって失敗してしまうことがありますよね。この場合、逆にいえば冷静に考えて「相手が望む行動」をとることができれば、良い関係を築けたかもしれない。会社との関係性も同じことで、「何が求められているのか」という視点が欠かせません。
もっとも、個人の特性などによってそれが難しいケースもあります。その場合には、アーティスティックな仕事やプロダクト開発のように、専門性を活かせる分野のほうが適していることもある。実際、昨日ある化粧品会社の代表取締役との対話のなかでも「業界が成熟している現在では、顧客ニーズに応えるだけでは売れない。顧客の想像を超える商品を開発しなければならない」と話されていました。
当社においても同様で、他社が実現できないレベルの価値を提供しなければ競争優位は維持できません。100%の成功をめざしても、結果は50点にとどまることもある。だからこそ、200%の成功を見込める水準をめざすことで、仮に失敗しても150%の成果を確保できる。これこそがもっとも重要なリスクテイクだと考えています。
更新:07月28日 00:05