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行政事業レビュー成功の鍵は外部の視点にあり

2013年05月20日 公開
2023年09月15日 更新

熊谷哲(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

国の全事業を総点検するのが行政事業レビュー

 「現在の官僚は頭脳的に優秀であり、立案過程には努力を惜しまないが、その業務の成果を認識し、反省しようとしない。これは会社経営の成果のごとき判然とした測定が困難であるからだろう。この際、行政組織にも会社のごとき業績の考課制度を採用することも一案かと思われる」

 一見すると、今日の行財政改革についての評論のような一文。実は、今から66年前の1947年(昭和22年)に発行された、月刊『PHP』創刊第2号の巻頭言の一節である。戦後わずか2年も経たない時期に、民間の経営的視点でこのような指摘がなされていたことは驚きである。と同時に、現代にも十分通じてしまうところに、行政の構造的な問題が垣間見える。予算の額とその消化に重きを置く「予算重視の行政」から、事業実施の効果と客観的な評価に重きを置く「成果重視の行政」へ。何度も改革案が提起され実行に移されてきたが、実際に構造転換に結びついてきたとは言い難い。

 そうした現状を打ち破るため、2010年にスタートした「行政事業レビュー」。5,000を超える国のすべての事業について、それぞれの事業内容や成果、資金の使途・流れなど前年度の執行状況を各府省が的確に把握する。それに、外部有識者の所見や自己点検の結果、点検結果の予算への反映状況などを加え、全府省共通フォーマットの「レビューシート」にまとめ、公表する。これによって国の全事業を総点検するとともに、国民の目で監視することをめざしたのが行政事業レビューの取り組みである。復興予算の被災地以外での使い道が明らかになったのも、2011年度補正予算に計上された復興予算すべてにレビューシートの作成・公表が義務づけられたからだ。

実施方法の見直しがお手盛りとならないか

 行政事業レビューは、2012年の政権交代により行政刷新会議が廃止されたことに伴い存続が危ぶまれたものの、「良いものは引き継ぎたい」(稲田行革相)として継続する方針が早々に示された。4月5日には新たな閣議決定も行われ、今年度の取り組みも本格化し始めている。その実施要領を見ると、新たに基金や交付金を対象に加えるなど透明性を高める工夫が見られるが、同時に、前政権との気になる相違点も浮かび上がってくる。

 まず、各府省における自己点検チームが、前政権の「予算・監視効率化チーム」から「行政事業レビュー推進チーム」へと衣替えした。それに伴いチームの編成も見直され、副大臣がチームリーダー、政務官がサブリーダーだったものを、原則として官房長をリーダーとする方針に改められた。加えて、自己点検と外部評価とを明確に区分するためとして、外部の民間有識者がこのチームから外され、各府省の職員のみで構成されることになった。

 外部の民間有識者は、新たに設置される「外部有識者会合」のメンバーとなり、レビューの実施にあたることとなった。また、これまでの全事業チェックから、「前年度からの新規事業」「最終実施年度などの節目の事業」のチェックへと対象が限定されることとなった。「全事業が、少なくとも5年に1度は外部有識者の点検を受ける」ことも併せて示されたが、逆に言えば、その年度に外部有識者の目に触れるのは、これまでの1/5の約1,000事業のみということになる。

 また、評価方法も改められ、これまでの「廃止」という項目がなくなり、「事業全体の抜本的改善」「事業内容の改善」「現状通り」の三通りで示されることとなった。なお、外部有識者の点検では、このような評価結果を提示することは求められておらず、各府省の「サマーレビュー(自己点検)」の前段階において所見を表明するのみとなっている。

 このように、「政務三役主導で事業を見直す」チーム構成からの変化、「外部の視点で事業を見直す」外部有識者の位置づけと役割の変化、「存廃も含めそもそもから事業を見直す」評価のあり方の変化などが明確に示されている。その多くは、実務的な見直しを意図したものと思われるが、こうした変化が緩みにつながり、内向きの手続的な点検や「お手盛り」な評価となりはしないか懸念される。

外部の視点を徹底して質の高いレビューを

 行政事業レビューの最大の特長は、「組織外部からの視点が施策の改廃などについて重要な役割を担う」ところにある。実務志向の運用改善に外部の視点を徹底的に組み込み直すことで、客観性と緊張感を高め、かつ「お手盛り」の懸念を払拭し、質の高いレビューを実践していくことが重要だ。

 そのために、例えば外部有識者には所見のみならず、評価づけも行ってもらってはどうか。外部有識者の見解とレビュー推進チームの自己点検結果との対比が明確になれば、国民の目にもわかりやすく、二次的な評価に結びつくことも期待される。加えて、外部有識者から得られた所見を、外部有識者の目に触れない残り4/5の事業の点検にも活用する(いわゆる横串を刺す)ことで、外部の視点をすべての事業に行き届かせることも欠かせない。さらには、サマーレビュー(自己点検)の結果について、外部有識者の再評価をいただくことも一考すべき課題だ。これらを組み合わせて、レビューの取り組みへの信頼感を高めていくことが求められる。

 また、国民からの意見という、さらなる外部の視点を事業見直しに結びつけていくことも重要だ。実施要領では、レビューシート最終公表後の行革担当事務局の点検に活用するとのことだが、必要に応じて直接対話の機会を設けるなど、積極的に外部の意見を取り入れる手立てを講じていくべきである。他方、客観的で質の高い意見を求めるには、レビューシートの記載内容が十分すぎるほどに充実していることが不可欠である。レビューシートの中間公表から最終公表、行革本部の点検結果取りまとめ、さらに財政当局の予算調整までは非常にタイトな日程となっているが、各府省と行革担当事務局それぞれに一層の努力と工夫、そして真摯な協議を重ねることを求めたい。

 行政事業レビューは、成果重視の行政を、引いては開かれた政府を実現するための最も重要な礎である。政権交代でも引き継がれたその精神と手法が、外部の視点と内部の献身が相まってより深化し、期待に応えられるものとなるどうか。まずは、6月に予定されている、省内版事業仕分けとも例えられる「公開プロセス」から注目していきたい。

(※冒頭の引用部分は、筆者の責任において旧字体を新字体に置き換えています)

研究員プロフィール:熊谷 哲☆外部リンク

 

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