
中東情勢が激しく揺れるなか、見落とされがちな視点があります。同じイスラム圏でありながら、イランではなくイスラエルとの連携を深めるアラブ首長国連邦(UAE)の動向です。スンニ派とシーア派の対立を超え、中東の勢力図を静かに塗り替えつつあるUAEの立ち位置を、嘉悦大学学長で国際金融に精通する真田幸光氏が読み解きます。
※本記事は真田幸光オンラインサロン「経済新聞が伝えない世界情勢の深相~真田が現代の戦国絵図を読む~」で公開されたポッドキャストより一部抜粋・編集したものです
中東情勢を語るとき、私たちはついシンプルな構図に引き寄せられます。「イスラム諸国対イスラエル」「スンニ派対シーア派」——そうした対立軸は確かに存在しますが、現実の中東はそれほど単純ではありません。
その象徴が、アラブ首長国連邦(UAE)の存在です。UAEはれっきとしたイスラム国家でありながら、2020年にアメリカの仲介によるアブラハム合意のもとでイスラエルと国交を正常化しました。以来、経済・テクノロジー・安全保障の各分野でイスラエルとの関係を深め、両国間にはすでに直行便が就航し、投資・観光・エネルギー分野での交流も活発化しています。
もともと、イランと距離を置くイスラム国家としてよく名前が挙がるのはサウジアラビアでした。スンニ派とシーア派という宗派の違いに加え、イスラム世界の覇権をめぐる歴史的な競合——メッカを擁するサウジと、ペルシャ帝国の流れを汲むイランという構図——が対立のイメージを強固なものとしてきました。
しかし最近の動向を見ると、サウジ以上にイランと距離を置いているのがUAEです。UAEはイランの軍事的脅威に対して防空システムでの協力体制をイスラエルと構築しており、今年に入ってからのイラン攻撃激化を受けてはアイアンドームの導入も図っています。パレスチナ情勢の悪化でアラブ諸国からの批判が高まる局面でも、UAEはイスラム諸国とイスラエルの和平・対話のパイプ役を標榜し、イスラム教国家でありながら親イスラエル政策を採る独自の立ち位置を貫いてきました。
イスラエル首相府は5月13日、イランとの戦闘が続いていた時期にネタニヤフ首相がUAEを極秘訪問し、ムハンマド大統領と会談したと発表しています。
そのUAEに対し、イランは攻撃を加えています。特に深刻なのが発電所への攻撃です。中東の酷暑地域で電力供給が止まれば、住民の生命に直結する事態となります。発電所を攻撃するということは、その地域の人々に「死ね」と言っているに等しい——UAEがイランとの対立を強めざるを得ない理由は、そこにあります。実際に、一部報道ではUAEによるイランへの報復攻撃も報告されています。
こうした緊張の高まりは、アメリカによるUAE支援の再強化という動きにもつながりかねません。イスラエル寄りに見えるUAEの姿勢が、さらなるイランの攻撃を招き、それがアメリカの介入を呼ぶ——この連鎖が中東の混沌をさらに深める可能性があります。
中東のリスクを読む上で、ホルムズ海峡と並んで注視すべき地点があります。スエズ運河から紅海を抜け、アデン湾・インド洋へとつながるマンデブ海峡です。アラビア半島とアフリカ大陸の間に位置するこの海峡のイエメン側には、イランの支援を受けるフーシ派が展開しています。
対岸のジブチには中国軍が駐屯しているとの指摘もあります。中国とフーシ派が連携してマンデブ海峡を抑えるような事態になれば、世界的な物流の遅延・滞留はこれまで以上に深刻化します。UAEをめぐる緊張は、こうした海上交通路のリスクとも連動しています。
イラン自身も経済的な疲弊が進んでおり、トランプ大統領が訪中の際に習近平国家主席に釘を刺したとも伝えられるなか、イランを支える中国にも一定の圧力がかかりつつあります。停戦に向けた動きが出てきているのは事実ですが、先に一方的に攻撃を受けたイランが簡単に矛を収めるかどうかは不透明なままです。
「和平に向かうか」と思われては再び混沌に引き戻される——それが今の中東情勢の実態です。UAE・イスラエル・イラン・アメリカ・中国が複雑に絡み合うなかで、中東情勢が「落ち着いた」と安心できる日は、当面訪れないかもしれません。
更新:06月10日 00:05