2013年03月29日 公開
2023年09月15日 更新
2013年1月24日の第一回規制改革会議において、安倍総理は「規制改革は、安倍内閣の一丁目一番地であります。成長戦略の一丁目一番地でもあります」と冒頭挨拶し、規制改革によって経済の成長を図り雇用を生み出していくことを明確に打ち出した。いわゆるアベノミクスの金融政策と財政政策に市場が好反応を示す中、期待感を腰折れさせることなく実体経済の回復へと繋げられるかどうかが日本経済再生のまさに焦点であり、そのための三本目の矢となる成長戦略に注目が集まっている。その帰趨を握るのがまさに規制改革であると、総理みずから高らかに宣言したのである。
それから2カ月。政権交代とともに復活した規制改革会議は、直ちに4つのワーキンググループ(健康・医療WG、環境・エネルギーWG、雇用WG、創業等WG)を設置し、既に5回の本会議と3回のWG会合を開催するなど(※3月26日現在の公開資料より)、政権の方針を受け会議議員および担当事務局が精力的に取り組んでいる様子が窺える。
また、この6月迄に最優先で取り組むべき事項として、一般用医薬品のインターネット等販売、保育サービスの規制緩和、石炭火力発電に対する環境アセスメントの緩和、電力システム改革の4テーマを掲げる一方、ワーキンググループの検討項目として33項目(うち優先11項目)を列挙するなど、総花的な議論に陥らないよう具体に踏み込もうとしている姿勢には一定の好感が持てる。
問題は、これで切れ目のない改革が進み、期待感を現実感へと誘う政策・施策へと早期に、かつ具体的に結びつけられるかどうかだが、現状には疑問が残ると言わざるを得ない。
そもそも、規制改革会議が介在する規制改革には、どうしても時間がかかる制約条件がある。
ひとつは政策プロセスに由来する。規制改革会議は、あくまで総理の諮問機関のひとつであり、政策決定および実施の権能を有する行為主体ではない。それ故、会議の意志を政策に反映させるには、まずは各省協議を経た上で閣議決定を行うのが通例である。ここで初めて内閣の公の方針となる。それを受けて、各府省が具体的改革案の検討・審議・調整を行い、法令の改廃や運用の改善を図ることになるのだが、規制改革会議での検討開始からここに至るまでには相応の時間(場合によっては数年)を要さざるを得ない。この間の与党調整や国会審議を含めればなおさらである。
もうひとつは、取り扱うテーマや事項の出自に由来する。本来、関係者間の利害の衝突がなく、目的の妥当性や法の下での適正性が容易に担保される事項であれば、各府省の通常業務の中で適切に処理され解決し得るものである。それが規制改革会議で取り扱われるという時点で既に、案件の大小を問わず社会的・経済的・政治的対立が内包され障壁となっていることを意味している。「規制改革を阻んでいるのは各府省の抵抗」というステレオタイプは、必ずしも問題の本質を表してはいない。
こうした前提に立ちながら、要所を押さえた改革の工程を描かなければ、規制改革を実効たらしめることは難しく、いくら良い議論を重ねても画に描いた餅となりかねない。そのためには、
(1)改革テーマの冷静な政策分析と具体的な案件化
(2)既決定方針に基づく各府省の取り組みに対する適切なフォローアップ
(3)内閣の明確な意志とそれを体した各府省の政務三役のリーダーシップ
の3点について、それぞれに的確に取り組むことが不可欠である。と同時に、これらが相乗的に機能するよう、いわば「規制改革の三本の矢」として進捗を図ることが極めて重要である。
だが、現在の規制改革をめぐる議論は、(1)の端緒となる規制改革の「目玉づくり」に注力する一方で(2)と(3)については目立った動きがない、ように見受けられる。6月にも策定されるであろう新たな「骨太の方針」に盛り込むための検討・審議の段階ということなのだろうが、もしや使命感や高揚感から来る政策的関心事の追求という罠に陥ってはいないだろうか。それは、さまざまな会議を立ち上げ個々の政策検討に没入した、まるで民主党政権の発足当初の重ね写しのようで、今日の時間的制約を鑑みるとなおさら先行きが懸念される。
幸いにして、1月11日に閣議決定された『日本経済再生に向けた緊急経済対策』では、「既往の閣議決定事項を着実に推進するものとする」と明記されている。また、優先的に取り組む4テーマや33検討項目についても、例えば保育における株式会社やNPO等の参入促進のための条件整備などのように、その多くは既に閣議決定を得て各府省が具体化を図るべきフェーズにある。今日の経済状況を腰折れさせることなく間断なく三本目の矢を放つためには、まずはこれらを早期に具現化し、一刻も早く成果を社会・経済に浸透させることが何より必要だ。そこで規制改革会議には、これまで以上に各府省の取り組みを厳しく監視するとともに、官邸と政務三役のリーダーシップの発揮を促し、連携して各府省の政策立案の現場を動かしていくことが強く求められる。
議論から実行へ。それこそが、まさに成長戦略の要となる規制改革を実現するために、規制改革会議が果たすべき役割ではないだろうか。
<研究員プロフィール:熊谷 哲>☆外部リンク
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更新:11月22日 00:05