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[日台関係] 漁業交渉妥結に向けたリーダーシップを望む

2013年03月18日 公開
2023年09月15日 更新

前田宏子(政策シンクタンクPHP総研国際戦略研究センター主任研究員)

◇良好な日台関係維持のために

交流協会のプログラムにより台湾高雄にある中山大学に派遣されてから1か月が経つ。プログラムの目的は、日台の研究者を相互に派遣することにより、相互理解を深めることである。親日的なイメージが強い台湾だが、台湾側で日台関係を支えてきた知日派が高齢化し、他方、日本の政治・経済を研究する人材は減少している(サブカル含め、日本文化に対する関心は依然として高いが)。そのような状況に対する危機感から、このプログラムが立ち上げられたのだと訪台前に説明を受けた。

台湾で知日派が減り、かつてほど親日的ではないという話は以前から聞いていたが、実際に台湾で暮らしてみると「いったい前はどれほどだったのか」と思うほど親日的である。商店には見慣れた日本の製品が並んでおり、書店に行けば日本に関する書籍や日本人作家の翻訳本が多く見られる。だが何よりも特筆すべきは、台湾の人々の態度だ。
人々は親切で、日本に対する印象も総じて良い。尖閣(台湾では釣魚台と呼ぶ)問題への関心はこちらでも高く、説明や見解を求められることが多い。中山大学アジア太平洋センターで開催された国際関係セミナーでも、尖閣問題に関する分科会がもっとも多くの聴衆を集めていた。台湾の人々は、日本側の対応や言い分に満足しているわけではないだろうが、議論の最中に人々が激昂し場の雰囲気が険悪になることはない。尖閣という一つの問題のために、これまでの交流の歴史や友好が忘れさられることも、今のところはない。

ただし、例えば台湾の新聞の尖閣問題に関する報じ方などは、強烈な不満を示すものが多い。新聞の論調と、実際に人々と話をしていて得る感触の間には温度差があり、不思議に思っているところだが、原因の一つは、私の居住する地域が南部の高雄であるからかもしれない。尖閣問題に関し、台湾政府に圧力をかけている利益団体の一つは北部の漁業関係者だが、この点、南部の人間にはほとんど関係がない。また南部には、民進党を支持し中国との連携に警戒心をもつ人が多い。しかし、彼らも尖閣問題に対して無関心なわけではなく、この問題が対日イメージに影を落としているのは事実である。

いくら日台関係が良好だからといっても、尖閣のような問題で感情的に対応するわけにはいかない。尖閣を台湾領と考える根拠は、中国のそれとほぼ同じであり、日本として到底受け入れられるものではない。しかし、尖閣問題のために日台関係が悪化したり、あるいは台湾内で中国との連携を求める声が高まる事態は防ぐ必要がある。馬英九政権は、尖閣問題をめぐり大陸と連携することはないという方針を打ち出したが*、中国側がそれを面白く思うはずもなく、馬政権は、まず中国、ついで日本、米国、そして何らかの成果を求める国内から圧力を受けている。その中で、馬政権が成果としたいと力を入れているのが漁業権交渉の問題である。

過去、1996年から2009年まで計16回も協議を重ねながら、日台間の漁業交渉は物別れに終わってきた。EEZや領有権に関わる問題で妥協できなかったためであるが、何らかの政治的成果をあげたい馬政権内で、譲歩もやむなしという雰囲気が強まっている今が、交渉のチャンスである。先日、東京で正式な漁業交渉の再開に向けた予備会合が開催されたが、会合の具体的な成果は示されず、今後も話し合いが続けられることが確認された。しかし、会合の後の記者発表で、台湾の林永楽・外交部長は「日本政府が台湾との漁業交渉に重大な関心を払い、日本外務省も交渉妥結のために熱心な支援をしてくれていることに対し感謝する」と発言し、これまで台湾が主張してきた「暫定執法線」(尖閣諸島を含む)に変わり、緯度を基準とする案を準備していることをほのめかした。日台双方の指導者がイニシアティブを発揮し、交渉の妥結に至ることを期待したい。
 ※ 台湾外交部声明については、小笠原欣幸教授(東京外国語大学)の解説が詳しい。

研究員プロフィール:前田宏子☆外部リンク

 

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