2013年03月27日 公開
2023年09月15日 更新
藤沢市の鈴木恒夫市長は2月の市議会において、自治体行政の最上位計画と位置づけられてきた「総合計画」を廃止する方針を打ち出した。昨年2月に当選した鈴木市長が、海老根靖典前市長が2011年3月に策定した計画を、真っ向から否定したことになる。前市長の下で策定された総合計画は、20年後のビジョンを示した基本構想、基本構想を実現するための基本計画(12年間)、さらに基本計画を達成するための実施計画(3年ごと)という3層構造をとっていた。
このような長期的な計画を立てても、環境の変化が激しい中で実効性の確保が困難であることや、計画が総花的で形骸化していることなどが、廃止の理由として挙げられている。2011年の地方自治法改正により、総合計画策定の国による義務付けがなくなったことで、こうした対応が可能となった。廃止後は、市長任期と合わせ、期間を4年(最初は3年)に縮めた「市政運営の指針」を基に、自治体経営を進めていくことになる。
これによって何が変わるのか。第1に、この「市政運営の指針」は1)長期展望、目指す将来像2)市民との約束(市長公約等)3)重点政策4)主要な施策5)重要・主要事業6)地区別まちづくり事業、という六つの構成をとる。つまり、すべてを網羅した計画ではなく、重点化を図った方針・計画になるということだ。こうすることで、藤沢市として、何に力を入れていくのかについて、市民にわかりやすく示せるようになることが予想される。
第2に、市長の選挙公約を「市政運営の指針」の構想部分に明確に位置づけたことだ。このように公約の位置づけが明示されることにより、市長候補は公約のあり方を考えざるを得なくなる。それはすなわち、公約が施策の羅列ではなく、経営方針としての側面を強めて行くことになり、結果として経営者としての自覚を促す事につながるのではないか。
第3に、市民や議会が「市政運営の指針」に対して提案を行う機会を設けたことだ。市長や市民、議会と共通の目標が形成されることで、議会もその目標を達成するために活発な質疑を展開するようになることが期待できる。その際、議会の各会派としても、方針の策定へ向けて提案するときの拠り所となる基本的な考えなり、政策を持ち合わせていることが重要になり、それが会派公約の作成につながる可能性がある。
一方で懸念される点もある。まず、「市政運営の指針」は条例で規定されてはおらず、議会のチェックを受ける仕組みが確立されているわけではない。公約が必ずしも妥当な政策ばかりとは限らないので、費用対効果がよく吟味されていない公約などについて、歯止めをかける仕組みが必要となろう。
また、既存の道路・施設の維持・更新など、市民生活に必要なインフラの整備を含め、中長期的な見通しのもとに進めるべき分野もある。総合計画が「市政運営の指針」に代われば、それらについては、抜け落ちる可能性がある。こうした、継続的に進めなくてはならない政策分野の位置づけを、明確にする必要が出てくるだろう。
総合計画策定の国による義務づけが廃止された今、自治体自身が総合計画をどのように位置づけるかについて、様々な取り組みが出てくること自体はよいことだ。藤沢市の「市政運営の指針」が、最終的にはどのような制度設計になり成果をあげるのか、注視していきたい。
<研究員プロフィール:茂原 純>*外部サイト
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更新:11月22日 00:05