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政治は幸せをつくれるか? 岸谷蘭丸氏が語るデジタルネイティブの行動原理

2025年12月05日 公開
2025年12月05日 更新

岸谷蘭丸(MMBH株式会社代表)

岸谷蘭丸

「若者は政治に関心がない」「政治家にはなりたくない」といわれる。しかし現在、国民民主党や参政党の台頭で若者の政治意識はむしろ上昇傾向にある。実業家・インフルエンサーが語る潮目の変化とは。

※本稿は、『Voice』2025年12月号より抜粋・編集した内容をお届けします。

 

石丸伸二現象の大きさ

――岸谷さんは、教育事業の運営とともにSNSやYouTubeを通じて若者の政治意識を高め、「将来は政治家をめざす」と発言されています。現在の日本政治をどのようにご覧になっていますか。

【岸谷】明らかに時代の節目であり、風向きが変わっていると思います。とくに石丸伸二現象が与えた影響の大きさをいま、まざまざと感じています。

2024年7月、東京都知事選挙で石丸伸二候補(41歳、当時)がSNSを駆使して約165万票を集め、蓮舫候補(56歳、同)や田母神俊雄候補(75歳、同)を抜いて次点になりました。

従来、若者にとっての都知事選挙は「おじいちゃんA、おばあちゃんB、おじいちゃんCのなかから選びなさい」という選択。もし石丸さんが出馬しなければ、現状を変えたい人は泣く泣く蓮舫氏に入れるしかない、という状況でした。

ところが、あのときは初めて自分たちに近い、上司にあたるような世代の何者かが候補として現れた。おじいちゃん、おばあちゃんに代わるオルタナティブな選択肢が生まれ、自分たちで選ぼうというムーブになった、ということでしょう。

驚いたのは、SNSのダイレクトメッセージで「石丸伸二は悪人なのか」「石丸さんってどうなの?」という問い合わせが友人から次々に届いたこと。インターネット界隈で若者がざわめき出し、ようやく選挙が自分ごとになった感があります。とくに「蓮舫を倒した」という成功体験は大きい。

あのとき「政治を変えるうえで、東京の存在は大きい」と痛感しました。大阪府知事選挙であれば、同じような変化は起きなかったでしょう。石丸現象で芽生えた若者の政治意識がSNSやYouTubeで一般層まで浸透し、2025年7月の参議院選挙で表面化しました。

――国民民主党の玉木雄一郎代表が「国民の手取りを増やす」と訴え、与党の自民党・公明党が過半数割れ。19歳、20代前半と後半、30代前半と後半の投票率はいずれも10ポイント以上、上がっています。

【岸谷】手取り政策に加え、参政党が訴えた外国人問題など、政策がぐっと身近になり、選挙が自分ごとになった感があります。

――政治家が自分たちのほうを向いてくれた。

【岸谷】「インフレ率を上げる」「金利を下げる」「夫婦別姓を実現する」という話は生活とつながりを感じづらく、若者にとっては気持ち悪かった。政策が自分ごとになった、という意味では本当に局面が変わったし、政治が現代にアップデートされたのではないでしょうか。

――消費税の減税も大きな争点になりました。

【岸谷】増税か減税かはいまや「宗教」の違いで、他人の信条に口を出すつもりはありません。ただ一点、「生活が苦しいから消費税を減らす」というのはわかるけれど、それを餌に投票をさせるのは「悪」だと思います。

確実にいえるのは、消費税を減税した分、お金が多く戻るのはお金持ちのほうだ、ということです。貧富の差が縮まるわけではないのに、消費税を減らせば貧困層の生活がよくなる、と宣伝するのは詐欺に近い。

 

インスタグラムを握った政治家が勝つ

――政治家や政党のSNSをどうお感じですか。

【岸谷】政治の変化という面で注目しているのは、常時接続のインスタグラムです。XやTikTok(動画アプリ)も生活密着型のSNSだけれど、個人の生活に24時間、入り込むという意味では、インスタグラムの力がいちばん大きい。

インスタグラムの基本は、「生活のすべてをシェアする」こと。ストーリーズ(写真や動画を24時間限定で公開・共有する投稿)で流れてくるのは、自分がいかに高い食事をしたか、良いホテルに泊まったか、豪勢なパーティへ行ったか、素敵な仲間と過ごしたか。

そんな日常におけるイベントを良くも悪くも見せつけるSNS空間にまで進出できた政治家は強いな、と思います。石丸さんのときがまさにそれで、ふだん政治に興味を示さない友だちがかなりの数、ストーリーズで彼のことをシェアしていました。

――TikTokはどうでしょうか。

【岸谷】TikTokは新しい人やもの、出来事と出会える生産性があります。若者のニュースソースもTikTokが多く、ニュースサイトとしての機能を果たしています。政治の話題についても、Xの発信から生まれた火種が徐々にTikTokへ広まっている。

――政治利用も懸念されます。

【岸谷】利用というか、世の中で起きている話題として政治や政治家がTikTokに進出するのはむしろ自然だと思います。

ただ、デジタルネイティブ世代とおじ様おば様世代が上げるものはそうとう乖離があるとは感じていて、TikTokを上げたからといって簡単に若者にリーチできるかというと、そうでもない。

ネイティブ世代が感覚で捉えられる〝TikTokのトンマナ“(Tone & Manner)を攻略できるか、が鍵だと思います。例外は国民民主党の玉木さん。そうとう使い込んでネイティブに近付いている。おじさんなんだけどギャルみたいな雰囲気すらあるな、という印象です。

XからTikTokに向かう流れは、いずれインスタグラムに波及するでしょう。当時、石丸さんがインスタまで現象の波を届かせたように、プラットフォームを貫通できるほどのムーブメントが起きれば、そこで有権者を握れた政治家が勝っていく時代が来るのかな、と見ています。最後はインスタグラムで有権者を握った政治家が勝つ、と思います。

――自民党のデジタル活用については。

【岸谷】追いついていないですよね。SNSやデジタルに強い議員は一定数いると思うけれど、デジタルの世界で趨勢を決めるのは「好きかどうか」。彼らからは好きそうなオーラを感じない。

何だかんだいって僕もXの空間が好きで、Xに落ちている情報の収集や発信に、呼吸をするような居心地の良さがあります。だからこそ、そこまで苦労せずSNSを続けられている。

ただそれも自然だと思っていて、楽しみ方というのは、教わるものではなく身につけるもの。とくに、同時代かどうかで差がつくのは否めません。

高度成長期、1970年代のディスコブームでも、楽しみ方がわからない世代は「何だ、このわけのわからない英語の歌や歌詞のない音楽は」といってディスコミュージックを毛嫌いしたはずです。

SNSに消極的な政治家は、要するに世代じゃなさすぎてデジタル空間が好きになれていないんです。インターネット空間はゴミ箱だと感覚的に思う人がいて、たしかに俗物も色物も多いので否定はできません。

とはいえ、Xに興じる人たちを上から見下して「SNSの言論まで下りていく」という表現をする議員がいる。ネット時代の選挙にやる気を感じないし、負けるのも当然です。

参院選のとき、僕のYouTube動画やSNSがバズり、各党から続々と出演依頼が届きました。自分のチャンネルでは玉木さん、チームみらい党首の安野貴博さん、他のチャンネルでは石丸さん(参政党の神谷宗幣さんはABEMA Primeに全党が呼ばれた週にたまたま。党首格ではないものの自民も出ていました)、YouTubeの「公明党のサブチャンネル」にも出ました。

共産党を除いた主要政党で声を掛けてこなかったのは、自民党、立憲民主党と維新だけです。

 

すべては教育

――岸谷さんの活動についてお伺いします。メディアに登場して政治の啓蒙を行なうかたわら、実業家として教育事業を行なうバランスをどのように見ていますか。

【岸谷】最初は政治をめざすのか教育をめざすのか、タレントになるのか、方向性がバラバラで、抑制のないまま活動していました。でも最近は、自分のなかでのつながりや連続性が生まれています。

ウェイトでいえば、いちばん大きいのは教育事業。メディアの活動はもともと得意で、事務所もマネージャーもアドバイザーもいなかったので、プロデュースも含めて1人でなんとかやってきました。

必死こいて頭を使ってきましたし、自分の見せ方にはつねに気を払っているので、もはや見せ方ネイティブといってよい(笑)。長年、ネット配信を続けた経験から、コメントの反応に合わせて見せ方や発言をコントロールし、ブラッシュアップすることは人よりはできるかな、と。ある程度の得意分野だし、勝てる感触もあります。

一方、事業の分野はまったくもってネイティブではなく、ライバルやめちゃくちゃすごい先輩たちがたくさんいて、どうしたら勝てるのかもまったくわからない。感情の動きをキャッチしながら人間関係を保つのも大変で、つくづく会社経営は難しい、と感じます。

自社のアドバンテージは、自分のメディア活動と連関し、教育というジャンルでの唯一性が担保されていること。僕の世代であれば、守備範囲は音楽やファッション、カルチャーが大半で、たまに社会・政治系のライターがいる程度。同世代がいない教育のフィールドに立つことで、特殊な個として認められてきました。

そして、僕自身が広告塔になることで広告費を一切使わず、結果として適正価格で良い品質の教育を提供できています。

教育に加えて、最近は福祉や小児医療の分野にも軸ができつつあります。僕自身が重い小児リウマチの患者だったこともあり、子どもや社会のために仕事をしたい、という意識があります。

インフルエンサーとして手にした影響力も、運よく社会から与えてもらったものでもあるし、せっかくなら人のために使いたい。小児医療に対する関心から病院の現場を視察し、小児慢性特定疾病と向き合う子どものためのプロジェクト「WonderMeta×PABLOS美術館」の公式アンバサダーとしてクラウドファンディングを行なっています。

2025年9月、同プロジェクトが小児がん支援チャリティイベント「ゴールドリボンフェス2025」と合同開催した子どものアート作品の展示会と表彰式、アンバサダー就任式(香川県高松市)に参加しました。

ABEMAと日テレ、TBSを呼んで特集を組んでもらい、「ABEMA Prime」では小児慢性疾患の医療における実態、社会復帰の難しさについて話しました。

僕個人の発信によって自社の教育事業の知名度や評価が高まり、メディアに出ること自体が広告になる。したがって、MMBH留学を広告費ゼロで展開できるという圧倒的な強みがあります。

広告に金をかけまくってブランド価値をつくって、他社との効果に大差ない教育商品を高値で売るような事業のカウンターとしてやっていきたい。

他人からの評価それ自体が価値として走っていくような、岡田斗司夫さんが「評価経済社会」だというふうに論じていたものに感銘を受けて意識していたけれども、個人としての活動と事業、そしてキャリアを通じて大きな波をつくってみたいな、と思っています。

教育ビジネスにおける不正義を駆逐したい、という思いもあります。教育事業が打算的であってはならないと考えていて、情報を持っていない人びとに高値で授業を売りつけたり、そもそもほとんどのサービスが前払いで高額の授業料を取っているのがまずおかしいだろう、と思う。

ビジネスにおける短期的な利益よりも社会のなかでどうあれるか、に意欲をもつタイプで、事業においても可能なかぎり「善」の道を歩みたい。

――岸谷さんをいまのような人格へ成長させた要因は、何でしょう。

【岸谷】しつけと教育、これに尽きますね。人間を人間たらしめる思考やコミュニケーションの能力とスキル。人の気持ちを慮るとか、自分がされて嫌なことは他人にしない等々、社会生活と仕事の基礎。ものすごく人よりも欠陥が多い分、優しさとか愛情の部分でソフト、ハードともに万遍なく与えられ、鍛えてもらったという自覚があります。

アメリカの高校にも通わせてもらいましたが、国が広すぎて、徒歩でどこかへ遊びに行くことができない。だからアメリカ人は、テレビやネットで見る娯楽が大好きです。

したがってアメリカの政治はTVショーであり、完全なエンタメ。人気歌手のテイラー・スウィフトが大統領選挙で投票を訴える光景は、ある種のカオスです。トランプのような人間がヒーローとなり、また悪役にもなって注目を集めるゆえんです。

大学ではイタリアに留学し、アメリカや日本が世界の中心ではないことを学びました。イタリアはある種、日本に近い国です。小さいし、狭い。

ミラノやローマ、ヴェネチアは美しいけれども、東京に比べてやることがない。音楽が大好きなんですが、クラブ(エレクトロニック・ミュージックやヒップホップが流れるダンス・交流の場)が苦手なので、住みたいと思うほどのパッションは感じません。

僕の通うボッコーニ大学はマクロ・ミクロ経済学の講義が多く、一方でイタリアの法律が必修になっていたりと、意義的にしんどいものもあります(笑)。

――日本の受験勉強についてはどう思われますか。

【岸谷】金銭的理由は別として、わが子に中学・高校受験をさせない親はかなりもったいない。中学受験という経験の有無でその後、本気を出したときの馬力が異なります。言語を使って論理的に考えるトレーニングを集中的に行なった人と、そうでない人のパフォーマンスには違いがあります。

また、受験は志望校や点数、周囲との比較によるベンチマーク(指標)が明確で、努力と目標までの距離感や達成度を明確に測れます。「目的をもって頑張る」という行為を高い強度と耐久度で実行した経験が将来、物をいうわけです。

――偏見ながら、詰め込み教育否定の「個性尊重」のゆとり教育で育った人ほど個性が薄い気がしますが。

【岸谷】たしかに、それもあるかもしれません。人間の成長には、何らかの「圧」が必要です。やりたいことがない、わからない若者が多いのも、じつは圧が足りないから。

たとえば10代の子が親から「明日から自分でお金を稼ぎなさい」といわれると、初めて自分の好きなことや嫌いなこと、やりたいことを考えるようになります。

不幸にも、ゆとり世代は圧がないがゆえに選択を迫られることもなく、成長の機会が奪われていたのかもしれないですね。その意味で、やはりすべては教育にかかっているんです。

 

幸せとは未来の見通しのことである

――結局、政治に幸せはつくれるのでしょうか。

【岸谷】社会のマイナスを極力減らすこと、不幸の総量を減らすことは可能だと思います。しかし、個人が幸せになれるかどうかは、結局のところ個人の努力や見方しだい。

たとえば南米やアフリカの一部の国のように、政治のガバナンス(統治)が崩壊した国であっても、幸せそうに見える人びとが多くいる。

僕は「幸せとは未来の見通しのことである」と考えています。理想と現状の自分のあいだにギャップがない状態、とも言い換えられます。

衝撃的だったのは以前、医療がかなり発展途上なカンボジアで病院を視察したときのことです。足に腫瘍ができた子どもが歩けず、壊死を止めるために手術で足を切らなければならない、という。サッカー好きの子で、切断手術を受けた日は泣き叫び、目も当てられない状態でした。

ところがさらに驚いたことに翌日、その子はサッカーゲームの「ウイイレ(ウイニングイレブン)」で遊んでいた。自分なら、少なくとも半年はサッカーに関するものは目に入れたくない、と思います。いったいどういうことなのか。

思うに、人間は将来が見えてしまうがゆえに不安になり、弱くなるのではないか。豊かさや進歩ゆえの代償というか、情報を知れば知るほど未来のマイナス面を想起し、精神的に脆くなるように感じます。

たぶん彼は、足を失ったことによって待ち受ける〝かもしれない”将来の苦労や不幸を見ていない。その姿に、強さを感じました。

政治が未来の不安を取り除き、考えても仕方のないような〝嫌な世界線の未来”を考えないようにしてくれれば、それは不幸の総量を減らすんじゃないかと思います。

 

東京都知事になりたい

――岸谷さんは「最終的には東京都知事をめざす」と公言されています。なぜ、都知事なのでしょうか。

【岸谷】前述の東京から起きる変化のインパクトに加え、やはり僕は東京が好きで、大変さを承知したうえで魅力的な仕事だと思ったからです。昔から政治には関心があって、政治家になりたいと考えていました。

――国会議員は志望されない?

【岸谷】自分が肌に合わないのは、JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー、伝統的日本企業)の体質。自民党という組織は、まさにJTCの権化でしょう。一定数以上の当選回数、勤続年数がなければ大臣になれません。

年功序列制は人生の時間を溶かすクソゲーで、成果を出さず、波風を立てずに務め上げることだけが目標になってしまう。その点、都知事には一発逆転があります。どんな人でも選ばれれば就任できるので、夢がある。

個人的な野望であるとともに、「30代で大成したい」という若者のロールモデルになれる、という思いもあります。僕自身、母(岸谷香氏)の若いうちの成功に学ぶところが大きかったので。

僕が30歳で都知事になったら、それだけで若い人が日本という国に希望をもつようになるでしょう。一度は見てみたい、と自分でも思っています。もし仮にダメな都知事だったら、そのときは容赦なく次の選挙で落としてください(笑)。

著者紹介

岸谷蘭丸(きしたに・らんまる)

MMBH株式会社代表

2001年、東京都生まれ。早稲田実業学校中等部からアメリカのニューヨーク、プリンストンの高校へ転入し、現在、イタリアのボッコーニ大学に在学中。大学受験や留学、IELTSやTOEFLの資格取得希望者に向けたオンライン塾「MMBH留学」を運営する。実業家・インフルエンサーとして発信を行ない、メディア出演多数。岸谷香氏と岸谷五朗氏の長男。

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