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橋下徹が、政治家時代に感じた「嫌いな権力者にNO!と言える」日本の素晴らしさ

2024年10月18日 公開

橋下徹(元大阪府知事)

橋下徹

政治家の裏金問題など、政治に対する不信感が広がっている。政治家は本当に必要なのか、選挙に行く意味はあるのか...そんな疑問を抱く人も多いだろう。そんな中でも橋下徹氏は「日本の政治システムは素晴らしい」と語る。その理由とは?  書籍『2時間で一気読み 13歳からの政治の学校』より解説する。(写真:的野弘路)

※本稿は、橋下徹著『2時間で一気読み 13歳からの政治の学校』(PHP新書)から一部を抜粋・編集したものです。

 

「政治」を根本から考える必要性

「政治家は本当に必要ですか?」
「選挙って行く意味ありますか?」

こんな質問を受けることがあります。昨今の政治家の裏金問題によって広がる政治不信が、こうした発言の背後にはあるのかもしれません。大人からも子どもからもこうした質問を受けますが、いちばん問題なのは、当の政治家本人たちもじつはよく理解していないのでは? と思う瞬間があることです。

「政治家はなんのために存在しているのか、理解できているのだろうか?」

そんなふうに首をかしげる瞬間が、これまでもしばしばありました。政治や司法、日本国憲法の内容、経済の仕組みを皆、学校で一通り勉強するはずですが、世の中に出たら意外と忘れ去ってしまうものです。立派に見える大人が、「政治」についておぼろげな知識しか持ち合わせず、しかし表面上は知ったふうに取り繕って生きている......。そんな人は、じつはあなただけではありません(笑)。

「偉そうなことを言っておいてお前はどうなんだ」という声が聞こえてきそうです。もちろん完璧だと言うつもりはありませんが、弁護士という職業柄、憲法や法律に関しては専門的に学んできた自負はあります。

また大阪府知事・大阪市長・国政政党代表という行政の長や政治家の経験もあります。弁護士からコメンテーターに、コメンテーターから行政の長・政治家に、そして再び弁護士兼コメンテーターに。その都度、膨大な勉強を重ね、専門家にも教えを請い、自分の頭でも必死に考えてきました。

弁護士にしろ、行政の長にしろ、政治家にしろ、人の人生に大きく関わる職業です。誤った法律の知識や偏見に満ちた政治の理解では、人びとを幸せにできません。その分、一般の方よりも多く勉強を重ねてきたつもりです。

加えて大阪府知事・大阪市長になると、自分は絶大な権力を持っていると勘違いしそうになる瞬間もあります。その都度、身を引き締めると同時に、「ああ、日本はこのような仕組みによって"権力の暴走"を防いでいるんだな」と、実感したものです。

僕はいま政治家を引退して、以前どおり弁護士として仕事をしながら、コメンテーターや文筆家として活動しています。世界では次々に予測不可能な事件や紛争が起こり、そのたびに意見を求められます。しかし、目まぐるしく変わる社会状況、国際情勢のなかにあっては、問題が複雑すぎてどこから手をつけていいのやら迷うことがあります。

またSNS時代において世間や専門家たちが、ある一つの意見に強くまとまって、そのうねりが非常に強くなるときがあります。そういうときには、僕は必ず「政治とは何か」という原点に立ち戻るようにしています。

すると、目の前を覆っていた霧の先に光が見えるときや、世間の大きなうねりがじつは間違った方向に進んでいるんじゃないかと感じるときがあるんです。

 

権力者に「NO!」と言える国、ニッポン

僕がまだ現役の政治家だった頃の話です。当時の僕は、大阪府政・市政を改革しようと奮闘していました。多くの仲間や支持者に支えられ、しかし同時に、反対者やアンチも多かった時期です。ワイドショーやネット空間では、僕への批判や誹謗中傷が飛び交っていました。そんな様子を、当時まだ小学生だった息子も察知していたのでしょう。一緒にシンガポールを旅した際、こんなことをぽつりと言ったのです。

「日本もシンガポールみたいに、政治家の言うことに国民が従う国だったら良かったのにね」と。

ご存じのとおり、シンガポールは1965年の独立以来、経済発展が目覚ましく、世界有数の観光立国・経済立国です。しかし、政治形態は事実上の一党独裁。世界でも稀な"成功した独裁体制"として異質の存在感を放っています。

この一党独裁状態に息子は感じるところがあったのでしょう。父親の悩みを軽減してあげたいという子ども心もあったのだと思います。そんな彼の気持ちには感謝しつつ、僕はこう言いました。

「日本の国民は、嫌いな政治家に『NO!』と言える権利を持っている。徹底批判できる。政治家という権力者を怖がらなくていい。だからこそ日本は素晴らしい国なんだよ」と。

たしかに一握りのリーダーが国民をけん引する政治体制は、強力なリーダーシップを発揮できます。その結果、シンガポールのように経済発展を遂げ、教育水準も高められ、世界から移住してくる高度人材が増えるのであれば、一見、問題はないように思えます。

しかし、繁栄が永遠に続く保証はどこにもありません。経済が発展している間は良くても、停滞したときにどうなるのでしょう。リーダーが権力に固執し始めたらどうなるのでしょう。より強烈な独裁体制に暴走し始めたとき、それを国民が止める仕組みはあるのでしょうか。

権力の暴走。僕らはいまそうした現実を目の当たりにしています。ロシアや中国、北朝鮮にイスラエル......。国のトップのタガが外れても、誰も止められない。国民が戦争を止めたくても止められない。市民がどれほど飢えようとリーダーはお構いなし。お年寄りや生まれたての赤子が殺されても、それを正義だという人びとがいるという現実に、僕らはどう向き合えばいいのでしょう。

見かけだけの選挙、見かけだけの国民支持で押し切る"強力すぎるリーダー"のもとでは、国民の声や、国際社会からの訴えはかき消されてしまうのです。

他国ばかりではありません。戦時中の日本でも、暴走する軍部や政府を国民が止められなかった経験を持ちます。結果的に日本はどうなったのか、僕らは歴史の授業で習ったはずです。

でも、僕らはたくさんの悲劇を乗り越えて、少しずつ学んできました。多くの教訓から、「権力者が暴走しないための仕組み」「人びとが幸せになるためのプロセス」を整えてきたのです。

「政治家が目指す方向が間違っていると国民が感じたとき、『嫌だ!』『自分たちは違う政治を望んでいる!』と堂々と言って、殺し合いをしなくても選挙を通じて、政治家から権力を奪うことができるいまの日本の政治は素晴らしいものなんだよ」

この言葉を、僕は息子に限らず、多くの若い人たちに声を大にして言いたいのです。

 

著者紹介

橋下徹(はしもと・とおる)

元大阪府知事

1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。98年、橋下綜合法律事務所を開設。2008年に38歳で大阪府知事、11年に42歳で大阪市長に就任。大阪府庁1万人、大阪市役所3 万8000人の組織を動かし、大阪都構想住民投票の実施や行政組織・財政改革などを実現。15年、大阪市長を任期満了で退任。現在はテレビ出演、講演、執筆活動を中心に多方面で活動。

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