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越前市の事例にみる公共施設「屋根貸し」事業の意義

2013年01月16日 公開
2023年09月15日 更新

金坂成通(政策シンクタンクPHP総研地域経営研究センターコンサルタント)

 自治体が所有する公共施設の屋根を、太陽光パネルの設置場所として民間事業者に貸し出す「屋根貸し」事業を、全国の自治体が相次いで発表している。福井県越前市でも、日本海側の降雪地域としては初めて市有施設の「屋根貸し」による太陽光発電事業の実施を決定した。その手法や意義について考えてみたい。

 固定価格買取制度は、太陽光発電など再生可能エネルギーを利用した発電電力を、固定価格(太陽光で42円)で電力会社に一定期間の買い取りを義務付けるものだ。民間の「屋根貸し」は、この売電事業を行う事業者のために屋根を貸す事業をいう。ただし、公共施設の場合、屋根の貸借契約を結ぶのではなく、市が行政財産である屋根の使用を許可し(行政財産の目的外使用許可)、民間事業者はその対価として使用料を支払うというスキームとなる。

 越前市の場合、昨年11月に募集要項を発表して、民間事業者からの企画提案を募集し、選定を経て12月末に事業者を決定した。屋根貸しの条件を満たす8施設について事業者を募集したところ、5施設の応募があり、それぞれ事業予定者が決まった。この事業で、新たに194kWの発電設備が設置され、住宅用太陽光発電設備40軒分に相当する発電量になるという。市への使用料は年間28万円程度、20年間で約550万円の収入を見込んでいる。

 この事業の目的について、公募要項には「災害時等における公共施設機能の強化を図るとともに、再生可能エネルギーの導入を促進し、併せて地域経済の活性化を図ること等を目的とする」とある。公募施設が災害時における避難場所であることから、太陽光発電施設を非常用電源として利用すること、再生可能エネルギーの導入を促進すること、地域経済を活性化することの、主に3つがこの事業の目的として挙げられていることがわかる。

 事業者選定において、その目的をどのように担保したのだろうか。公募提案の「条件」と「審査項目」には、災害対応については、「災害発生時の非常用電源の提案」、再エネ導入促進については、「施設運営にメリットがある取り組みの提案(環境教育の教材としての活用など)」を求めている。また、地域経済の活性化については、発電事業者を市内に限定していないが、「太陽光発電設備設置工事の施工は、市内に主たる事務所を置く事業者が行うこと」として、市内事業者の事業への参画を条件としている。

 事業予定者は、実際にどのような貢献を行うのだろうか。災害対応の非常用電源としては、勤労者研修センターなど3施設で計19個のコンセントが設置される予定だ。さらに、各施設に発電表示装置等が設置され、環境学習に役立てることが予定されている。また、地域経済の活性化に関しては、5事業予定者のうち4社が越前市、1社が金沢市に本社を置く事業体となっており、地域の再エネ事業者の育成に適うかたちになった。

 これらに加えて、越前市の屋根貸し事業には、地域の再エネ事業の創出育成の観点からも大きな意義がある。日本海側の降雪地域での公共施設の屋根貸し事業は、国内初めての事業となる。現状では、降雪地域は雪による発電リスクが高いため、通常の太陽光発電事業よりもコストがかかり、民間の事業が成立しづらい。しかし、自治体が屋根貸しをすることで事業を成立させ、降雪地域の発電データを蓄積することができる。そのデータは降雪地域での発電リスクを適切に把握する情報となり、コストを下げ、民間事業の創出に資すると期待される。

 越前市に続き、新潟県でも県・市町村共同で、屋根貸しによる発電事業者の公募が開始された。これらについても、降雪地域の太陽光発電事業データの蓄積・公開を適切に行い、地域の事業者の創出・育成のための活用が望まれる。

  ★研究員プロフィール:金坂成通 <外部サイト>
  

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