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自公政権は参院選までにエネルギー政策の中身を示せ

2013年01月10日 公開
2023年09月15日 更新

佐々木陽一(政策シンクタンクPHP総研地域経営研究センター主任研究員)

 昨年末の衆院選で、エネルギー政策は重要な争点の1つと見られていたが、多党乱立のなかで原発を筆頭とするエネルギー政策論議は深まらなかった。自民党の圧勝を受けて、民主党政権下で議論されてきたエネルギー政策はリセットされる公算が大きい。特に、ベース電源である原発を巡っては、昨年末の自公連立政権政策協議で、「可能な限り原発依存度を減らす」という抽象的な表現に留まった。自公政権は中長期的なエネルギー政策を参院選までに提示すべきである。

 選挙後、安倍首相は、安全な原発の再稼働を明言。原発新増設を認める可能性も示唆している。しかし、有権者が同党の原発政策に賛同したとは言い切れない。選挙の際、自民党は「10年以内に持続可能な電源構成のベストミックスを確立する」と繰り返すだけで、原発=ベース電源に触れることは少なかったからだ。

 たしかに、原発に替わるベース電源を確保するのは容易ではない。先の衆院選で、与野党が推進で一致していた再生可能エネルギーを例にすると、昨年7月の固定価格買い取り制度開始以降、11月末時点で認定された発電所の出力は、原発1基分以上に相当する144万キロワットに急伸した。かりに、この趨勢が3年後まで続けば原発10基超分(1299万キロワット)になるが、設備利用率(太陽光発電で12%程度とされる)を考慮すると、原発(54基・4884万キロワット)の代替電源とは言い難い規模である。

 このように見ると、今後のエネルギー政策のポイントは、少なくとも10~20年後を見据えた中長期の政策の中身ということにならざるを得ない。自公政権に明示が求められる原発依存度の低減政策に関する論点の第1は、衆院選マニフェストで曖昧だった電力システム改革、電力全面自由化、発送電分離の方向性を最低限明確にすることである。第2は、電力の安定供給と新電力事業者の育成政策である。遠隔地の原発に依存してきた電力供給を見直し、電力の地産地消を目指す政策を打ち出せるか。2000億円規模(10万キロワット級の火力発電所が20か所程度建設可能)を投融資する官民協働の発電事業に着手した東京都のような取り組みを、国も示して欲しい。第3は、原発停止後からフル稼働している火力発電所などの置き換えだ。原発を代替する老朽発電施設を、CO2排出量が少ないコンバインドサイクル発電施設へ更新するなどの方策を明示すべきである。第4は、規制緩和である。安全性を最優先にした上で、原発を除く発電施設の新増設手続きを簡素化する政策を打ち出すべきである。

 参院選を見越して、自公政権が原発再稼働に関して方向性を提示するのは7月以降と見る向きがある。しかし、自公政権が正面からエネルギー政策を議論する機会を逃すような動きを見せた場合にも、今後の政策の方向性を見極める好機がある。6月をめどに策定される新しいエネルギー基本計画だ。それが、かつて自民党長期政権下での原発依存政策に先祖返りした内容になっていないか、また、民主党政権時代の何を継承し何を変えようとするのか。国民もしっかりチェックしたい。

 <研究員プロフィール:佐々木陽一>☆外部リンク

 

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