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2013 年 日本が着目すべき10 のグローバル・リスク

2012年12月26日 公開
2023年09月15日 更新

PHP総研グローバル・リスク分析プロジェクト

《PHP総研 「2013年版 PHPグローバル・リスク分析」より》

 政策シンクタンクPHP総研は、来たる2013年に日本が注視すべきグローバルなリスクを展望する「2013年版PHPグローバル・リスク分析」を発表しました。
 ご好評いただいた 2012年版 に続き、国際政治、地域情勢、国際金融、国際経済、軍事、エネルギーの専門家が集中的な検討を行い、その結果を、代表執筆 者が中心になってレポート「2013年の世界において日本が着目すべき10のグローバル・リスク」としてまとめたものです。
 以下、その一部をご紹介します。
 

 

グローバル・オーバービュー

 PHP 総研グローバル・リスク分析プロジェクトが選び出した、2013 年の世界において日本が着目すべき10のグローバル・リスクは以下の通りである。

リスク① 中国「世界の工場」の終わり
リスク② 中国周辺海域における摩擦の激化
リスク③ 大陸パワーに呑み込まれ周縁問題化する朝鮮半島
リスク④ 「新たな戦争」か「緊張緩和」か? ピークを迎えるイラン核危機問題
リスク⑤ 武装民兵の「春」到来で中東の混乱は拡大
リスク⑥ ユーロ危機は数カ月毎の「プチ危機」から「グランド危機」へ
リスク⑦ マイノリティ結集と「分断されたアメリカ」がもたらす社会的緊張
リスク⑧ 外交・安全保障問題化する原子力政策
リスク⑨ 差し迫るサイバー9.11 の脅威
リスク⑩ 顕在化する水と食料の地政学リスク

 各リスクの具体的な内容は「政策シンクタンクPHP総研のホームページ」のPDFで読んでいただくとして、ここでは、個々のリスクがグローバルな文脈の中でいかに位置づけられるかをみていきたい。それぞれのリスクは当然ながら固有の文脈を有しているが、同時にグローバルな文脈に規定されており、また様々なリスクが互いに作用しながらグローバルな文脈を描きなおしていくものだからである。

 本レポートでは、2013 年に考慮すべきグローバルな文脈として、「新政権の学習期間における混乱」「世界的な成長鈍化が加速する統治不全・政経融合」「世界システムの再編」「ゲーム・チェンジャーの到来(サイバー、エネルギー、水)」をとりあげる。

新政権の学習期間における混乱

 2012 年は、米国、中国、韓国、ロシア、フランス、メキシコ、そして日本と世界の主要国が一斉に国政選挙や指導者交代を迎えた。北朝鮮でも2011 年末に金正日総書記が急死し、2012 年は金正恩体制が本格的に始動した年にもなった。

 2013 年は、これら発足間もない新政権が、他の分野同様外交においても学習期間にあることに留意が必要である。新しい政権には勢いがあり、大きな方針転換をはかる好機であるが、鳩山政権が如実にしめしたように、選挙で掲げた野心的なアジェンダを押し通そうとして失敗することもあれば、経験不足による勇み足が災いすることもある。他国が新政権の方向性を試そうと硬軟とりまぜた揺さぶりをかけてくる可能性もある。

 米国ではオバマ大統領が再選され、対外政策において急激な路線変更がおきるとは考えにくい。しかし、アジア回帰(pivot to Asia)などプラグマティックな外交を強力に推進してきたクリントン国務長官やキャンベル国務次官補が退任する見込みであるなど、外交・安保チームの入れ替わりによって、米国の対外政策のニュアンスには多少の変化がみられるだろう。周辺に波及しつつあるシリア内戦、イラン核開発疑惑など、中東からの足抜けも容易ではない。また、日本のみならず中国や韓国など東アジアの主要国が中東のエネルギーに依存していることを考えれば、中東と東アジアを別々に切り離せるものとして考えて後者にシフトする、といった単純な構図は成り立たない。中東でのプレゼンス低下は、東アジアにおける米国の影響力を失わせかねない。

 新たに発足した中国・習近平政権がどのような対外政策をとっていくのか、日本にとっても世界にとっても最大の関心時といえる。習近平外交の本格稼動にはまだ時間がかかると思われるが、人民解放軍やエネルギー部門などのタカ派アクターが首脳部を突き上げるべく、対外的な挑発により緊張状態を作り出す可能性には注意が必要である。

 北朝鮮の金正恩体制は、代替わりによっても基本的な行動パターンを変えておらず、2012 年末にはミサイル発射実験を強行し、遠からず核実験にも踏み切ると懸念されている。韓国ではセヌリ党の朴槿恵候補が大統領選挙を何とか制したが、対北朝鮮政策でどの程度融和的になるか、政敵の攻撃材料となるリスクをおかして日本との関係改善を進められるかどうか、予断を許さない。

 加えて、2012 年に負けず劣らず、地域の重要国で政権選択選挙が実施される。2012 年11 月に、ハマスが実効支配するガザ地区に対する大規模な攻撃を行ったイスラエルでは、2013 年早々に総選挙が実施される。イランでも6 月に大統領選挙が実施され、退任するアフマディネジャド氏に代わる新大統領が選出される。両国の国内政治は、イラン核問題をめぐる駆け引きに不確実性をもたらす要因として働く(リスク④)。

 世界経済の下方リスクの最大の源泉である欧州においては、経済危機克服における最大のプレイヤーであるドイツで総選挙が実施される(リスク⑥)。割安なユーロの恩恵をうけてきたドイツだが、国民の間では財政危機に陥った国の救済のために自国が犠牲を払うことへの不公平感が強い。総選挙を前にメルケル政権が抜本的な解決策にコミットできない可能性は否定できず、たとえ同政権が資金負担に応じたとしても国民を納得させるための様々な条件が付されることになるだろう。また欧州危機への取り組みを拒む政策が選挙で支持されれば、次期政権の選択肢が限定されることになる。スペインに続いて財政問題の火種を抱えるイタリアにおいても総選挙が予定されており、欧州の政治経済状況は予断を許さない。

 日本でも2012 年12 月16 日に総選挙が実施され、自民党が圧勝したが、衆参のねじれ状態は解消されていない。次期政権が安定するには、適切な時間軸で政策を着実に遂行し、2013 年7 月に実施される予定の参議院選挙を勝ち抜く必要があろう。日本政治の観察者の間では、新政権が領土問題に加えて、歴史問題でこれまでになく強い自己主張をしようとすれば、中国・韓国のみならず米国との関係も微妙なものになる可能性があるとの見解も多い。さらに、その統治能力や対外政策の方向性がはっきりしない第三極の存在が日本政治の見通しを一層難しくするとも指摘されている。第三極が台頭すれば、政局は一層流動化し、対外政策の触れ幅はますます大きくなるかもしれない。他方で、ねじれを解消する柔軟性や陳腐化した政策体系へのゆらぎを日本政治に加える可能性もある。
  

世界的な成長鈍化が加速する統治不全と政経融合

 2012 年10 月に発表されたIMF の世界経済見通し(World Economic Outlook October 2012) は、2013年の世界経済について、先進国・新興国ともに下方修正し、しかも下振れするリスクが高いと予測している。世界的な経済減速の中、主要国の政治は短期的に国民を満足させるだけのパフォーマンスを上げられないため、個々の政権の統治能力にかかわらず政権基盤は構造的に弱体化しがちである。経済の低迷によって若者の多くが就労機会を奪われ、そのことが「ウォール街を占拠せよ」(Occupy the Wall Street) 運動のような激しい抗議行動の広がりを生み、またハッカー行為を通じて社会的主張のアピールを目指す、いわゆるハクティビストの温床にもなっている(リスク⑨)。

 シンプルな成長の方程式の不在、高齢化に伴う社会保障費の急増を前にして、日米欧先進国において経済成長と財政健全化を長期的に両立させるナローパスを見きわめることはそもそも難しいが、それを見出しえたとしても、政治不信の中でそれを断行することはさらにハードルが高い。米国では女性、若年層、ヒスパニック、低所得者によるリベラル連合の支持で再選されたオバマ政権と、白人層の支持を背景に下院の多数を制した共和党との亀裂は深く、容易な妥協点は見出しがたい(リスク⑦)。先進国では、安易な中央銀行頼みによる金利の低下と量的緩和を目指した流動性供給が続き、次の金融危機に向けてのマグマを蓄積する事態となっている。

 近年の世界経済を牽引してきた中国、インド、ブラジルなどの新興国でも、経済成長の鈍化やインフレの昂進、人件費の高騰などに見舞われている(リスク①)。新興国ブームが終わったと断じ、今後は国ごとに成長のバラつきが大きくなるとする見解も話題を呼んでいる(Ruchir Sharma,“ Broken BRICs,” ForeignAffairs, November/December 2012)。新興国経済の失速が、日本を含む先進国などの主要貿易相手国の経済にとって打撃となり、それがまた新興国経済の押し下げ要因になるという悪循環に陥るおそれもある。経済の停滞が社会のさらなる不安定化をもたらし、その矛先を、ナショナリズムを利用する形で海外に向けようとする動きが勢いを得ることも懸念材料である。

 各国とも余裕がなく、自国優先主義的傾向が強まる中で、国際協調による問題解決はきわめて難しい。金融規制や不均衡是正などで国際協調の必要性が叫ばれているが、既存の枠組みが実効的な対応策を打ち出せる可能性は低い。リーマン・ショック後は存在感を発揮したG20 だが、2013 年にロシアで開催予定の会合では何ら実質的な決定は行われず、その有名無実化が一層進むのではないか。仮に再度世界的な経済危機が発生した場合、大規模な財政出動を通じて中国が前回に果たしたような役割を演じてくれそうな国は見当たらない。

 こうした中、各国の政治的判断が経済を左右する度合いが高まるだろう。特に中国は、政治問題が発生した国に対する経済的なハラスメントを多用している。その結果、尖閣対立後の日中関係も、かつてのような政冷経熱ではなく、政冷経冷といわれる状態に陥っている。中国が経済を政治的武器として使えば使うほど、アジア太平洋地域における米国を中心とした政治・安全保障秩序と中国を巨大な引力として再編されつつある経済秩序の矛盾が際立ってくる。中国以外の国でも、経済問題が安全保障の論理で語られる場面が増えるだろう。2012年10 月、中国の通信機器大手ファーウェイ( 華為技術)とZTE( 中興通訊) との取引が安全保障リスクをもたらすとして、米下院情報委員会が米国政府に利用回避を勧告するなど、すでにその前兆は見えている。ソフトバンクのスプリント買収でもソフトバンクとファーウェイの取引が問題視されるなど、日本企業にとっても対岸の火事ではない。

 要するに、2012 年の本レポートで指摘した「政治と経済の融合」が2013 年には一層進むものと思われる。世界経済の低迷が各国の統治や社会、そして対外政策を動揺させ、各国の政治は市場とは異なる権力政治の論理で経済を方向づけようとする。経済については政治の介入を受けない市場の論理が貫徹することが望ましく、またそれが可能であるという経済思想は力を失ったが、さりとて国家資本主義がその優位性を誇示できているわけでもない。経済の政治化という現実を直視しながら、市場の力を巧みに引き出していく国が勝ち残ることになるだろう。政治と経済、国家と市場、平和と繁栄を統合的にとらえる視点がますます必要とされることになる。
  

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