2012年12月17日 公開
2024年12月16日 更新
第46回衆議院選挙は自民党の圧勝で幕を閉じた。今後の政治日程では、12年度補正予算や13年度予算の編成が控えている。新政権の財政運営によっては、危機的な国家財政がさらに深刻な状況に陥る恐れもあり、今後の国会審議の行方を注視していく必要がある。
自民党の政権公約を見ると歳出拡大策が目立つ。今後3年間で15兆円を集中投資する「国土強靭化法案」がすでに国会へ提出されているため、防災目的の公共事業がマニフェストに数多く列挙されている。例えば、避難路・津波避難施設の整備、河川堤防の整備やダム建設の推進、津波を回避する高台移転費用の支援などがあり、自民党は公共投資をばらまく政党に先祖返りしてしまった印象を受ける。
さらに、公約の中には「地域生活に不可欠な道路等については、B/C(費用便益比)にとらわれることなく、積極的に整備を進めます」という記述もあり、自民党は費用に見合う便益が見込めない道路等の整備を国民に約束したことになる。仮に、新政権が客観的基準もなく各地からの要望で公共事業を次々に決定していけば、歳出は雪だるま式に増えていくだろう。また、保育料・幼稚園費の無償化、子どもの医療費無料化といった社会保障の充実も自民マニフェストに盛り込まれた。筆者の試算によれば、公約にある公共事業と社会保障の拡大によって、国の歳出は少なくとも年間9兆円ほど増加する見込みである。自民は経済成長による税収増や公務員人件費の削減に今後取り組むようだが、歳出増加分の財源を確保できる保証はないため、財政状況をさらに悪化させてしまうかもしれない。
そうであっても、新政権は歳出拡大策を公約どおりに実施するだろう。その理由は主に2つある。第1の理由は、来年7月に行われる参議院選挙でも勝利を収めるためである。自民党は今回の総選挙において過半数の議席を確保したが、参議院では公明党と合わせても過半数に届かないため、さらなる議席獲得を目指して参院選前に積極的な歳出増加を行うと予想される。第2に、新政権は消費増税を実現するために、来夏ごろに景気を回復させなければならない点が挙げられる。先の通常国会で成立した消費増税法は、「名目3%、実質2%」という経済成長率の実現を14年4月からの税率引き上げ条件として定めている。自民党は増税の判断を来年10月に行うと公約に示しており、その検討はGDP統計作成上のタイムラグを考慮すると来夏のデータを基に行われることになる。したがって、新政権は夏の好景気を実現するために、あらゆる政策を総動員すると考えられる。
ただ、野党がこれらの歳出拡大策に素直に賛成するとは思えず、新政権の財政運営は混乱することが予想される。自民党が財政再建をするつもりがあるならば、民間資金を活用した公共事業の積極的推進や社会保障の効率化を本気で検討すべきだろう。安倍総裁には「民間にできることは民間に」という構造改革の原点を踏まえた財政運営を期待したい。
<研究員プロフィール:宮下量久>☆外部リンク
更新:12月28日 00:05