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財政健全化に不可欠なマイナンバー制

2012年09月05日 公開
2023年09月15日 更新

宮下量久(政策シンクタンクPHP総研政治経済研究センター主任研究員)

宮下量久

 社会保障と税に関して共通の番号を国民に割り振るマイナンバー法の成立が、秋の臨時国会以降に先送りされることになった。政府の方針では、2015年1月からの利用開始が示めされており、導入の準備期間を考えると法案審議に残された時間は十分にあるとはいえない。

 「社会保障と税の一体改革」の中で、マイナンバー制は社会保障の負担や給付における公平性を実現する上で重要な役割を担うと考えられている。現状では、税務署が農業や自営業の課税所得を正確に捕捉できず、業種によって税負担が異なるという問題がある。国税や地方税の各徴収事務にマイナンバーを活用すれば名寄せや突合せが容易になり、個人所得を正確に把握することが可能になる。その結果、政府は所得の過少申告や不正還付を防げるようになる。年金・医療・介護などの各社会保障サービスの情報も集約化されるため、給付漏れや二重給付の防止にも効果的である。例えば、生活保護の担当者が他制度の給付状況を確認した上で、支給の必要性を判断できるようになる。

 また、マイナンバーは各省庁に点在する個人情報の共有化を実現し、税や社会保険料の徴収を効率的に行うことも可能にする。現在、国税庁が国税、日本年金機構が社会保険料を徴収しているが、将来的にはこれらの事務を一元的に行う歳入庁の創設が俎上に載せられるかもしれない。実際、民主党政策集には歳入庁創設のために「税と社会保障制度共通のマイナンバー制導入」が記載されている。

 一方、マイナンバーの導入により、国民は税や社会保障に関する情報を入手しやすくなる。利用者は医療保険・介護保険等の費用や社会保障制度改正の情報をパソコンなどから容易に閲覧できるようになる。また、自分の給与や社会保険料控除対象の保険料のデータも簡単に手に入ることで、迅速かつ正確な確定申告が可能になる。社会保障や税金に関する情報整備が進み、行政サービスに関心をもつ国民が増えてくれば、財政健全化や増税への理解も広まると思われる。

 つまり、マイナンバーは財政再建を着実に進めるために不可欠な情報インフラなのである。民主・自民・公明の三党はともに、その必要性を認識しており、実際、消費増税に伴う低所得者対策の一環として同制度の早期導入に合意していた。低所得者に対する消費増税の影響を緩和させるために、個人の情報を正確に把握し、低所得者を特定するのが狙いである。食品などの生活必需品の税率を低くする方法もあるが、これでは差別化が困難であるとともに、高所得者も恩恵を受け、税収の増加もあまり期待できなくなる。

 国が個人情報の管理を強化することに、プライバシーが侵害されるのではないかという不安を感じる人もいるであろう。個人情報が他人に悪用される危険性も完全には否定できない。政府が2月に法案を衆議院へ提出したにもかかわらず、法案審議が先送りされたのは、近いうちに行われるであろう総選挙の前に、一部の国民から出ると予想される強い反発を、いずれの党も回避したいと思ったからではないだろうか。

 財政再建はもはや待ったなしの状況である。マイナンバー制が財政再建に効果ありとするならば、政治は反対を避けて通るのではなく、国民にその重要性をきっちりと説明し、納得してもらうべきなのである。それが国民の安心を解消する方法にほかならない。秋以降の国会、そして来るべき総選挙において、マイナンバー制の導入に関する議論が活発に展開されることを期待したい。

 研究員プロフィール:宮下量久☆外部リンク

 

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