
ホストクラブに頻繁に通い、多額の金銭を投じる「ホス狂い」といわれる女性たちの実態とは?高校生の頃から歌舞伎町に足を運び、トー横キッズやホストなどの現場を取材してきたライターの佐々木チワワ氏は、著書『歌舞伎町に沼る若者たち』にて、歌舞伎町やホストクラブに通う女性のリアルを社会学的に分析し、その諸問題の解決策までを提言している。
佐々木氏によると、ホストクラブとキャバクラはそれぞれ接待等飲食営業に該当しているが、内実においてジェンダー対照的な存在であるとは言い難いそうだ。同書より解説していく。
※本稿は、佐々木チワワ著『歌舞伎町に沼る若者たち』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです
ホストクラブは業態区分として許可制の風俗産業であり、「接待飲食等営業」に区分される。ホストクラブと言えば現在は歌舞伎町だが、ルーツは1965年に東京駅八重洲口前にオープンした「ナイト東京」であるとされている。ナイト東京は富裕層の女性が社交ダンスをすることを目的としており、店で個人事業主として活動する男性をパートナーに指名し、金銭を渡すという制度が元になっているのだ。
しかし、このシステムではホストが生計を立てるのは難しかったため、次第に女性を客として接客する女性専用クラブというホストクラブの原型が形成されていく。そこで頭角を表した愛田武(本名:榎本武)によって、1973年に歌舞伎町初のホストクラブ、「愛本店」が誕生する。
愛本店はそれまでホスト側が店に支払っていた「場代」を撤廃し、最低時給を設けるなど現在のホストクラブのシステムの基礎をつくり上げてきた。
愛本店は2020年6月に建物の老朽化に伴い閉店するまで、老舗ホストクラブとして歌舞伎町に君臨し続けていた(2025年1月現在、新しく建設されたビルで営業を行なっている)。旧愛本店ではナイト東京のルーツを汲み、女性がホストと社交ダンスを踊るためのステージが用意されていた。
しかし現在のホストクラブでは、女性が社交ダンスをするためのステージを設置している店舗は存在しない。代わりに、日の売り上げが最も高いホストが好きな曲を歌える「ラストソング」や、ホストたちがアイドルのようにダンスするといったパフォーマンスのためのステージが設置されている店舗は多い。
ホストクラブでイメージしやすいシャンパンタワーなどはこのステージに設置されることが多く、女性客が主体となって輝くための「ステージ」から、ホストが女性客に金銭を投じてもらって輝くための場所へと変化してきたのだ。
同じく接待等飲食営業に該当するキャバクラとはどのような違いがあるのか。社会学者の武岡暢は著書『生き延びる都市 新宿歌舞伎町の社会学』(新曜社、2017年)のなかで、「キャバクラでは主として男性客が『女性従業員(=キャスト)と会話しながら飲食すること』に対して対価を支払う」とし、その接待と呼ばれる特殊なサービスの売買こそがキャバクラを強く規定する中核的な要素であると述べている。
「基本的にキャバクラにおけるサービス提供者と消費者のジェンダーを入れ替えたような業態」であるホストクラブだが、武岡も、ホストクラブが業態の内実においてジェンダー対照的な存在であるとは言い難いと指摘している。その最大の理由は、ホストクラブの永久指名制度にあるという。
「ところが、指名を変えられない、というこの一点において、指名制度は大きく異なる帰結を導く。ホストクラブでの接客において主導権を握るのは、客ではなくホストなのである。つまり、客がホストの歓心を買おうとする、という構図が観察されるのだ。もちろん、客はホストに満足しなければ店に来なければいいのだが、どこかで逆転した認識枠組みが生まれ、もはや変更することのできない指名をしたホストに対して、来店して売上を上げさせることで、関心を引こうとするのである」(『生き延びる都市』)
たしかに、キャバクラとの違いとして永久指名制度の存在は大きい。しかし、接客において客よりもキャストが主導権を握るのは、キャバクラでもありうる構図である。ホストクラブの永久指名制度によるキャバクラとの違いは、筆者が考えるに次の2点だ。
1つ目は、ホストは永久指名を獲得するため、客に「育て」と呼ばれる先行投資をすることだ。キャバクラはホストクラブに比べ最低料金も低く、指名替えが容易なため、客も「とりあえず」での指名が可能である。しかしホストクラブは永久指名制のため、客が指名に慎重になりやすい。そのためホストは、指名を得るために毎日の連絡や電話、時には店の外で食事をするなど時間を投資し、今後の指名客を獲得するという労働がキャバ嬢よりも発生しやすいのだ。
2つ目に、ホストクラブではキャスト間のチームワークが発揮されやすいことだ。永久指名制度によって店舗内で指名客を奪うことができないため、指名以外のヘルプホストたちは、チームとして指名ホストをサポートする業務に徹することになる。ホストクラブではこうしたチームワークが生まれることも、キャバクラとの違いだろう。
また、ジェンダー規範に基づくキャバクラとホストクラブの違いもある。それは、キャバクラでは店舗外で客と過ごした際に発生する費用を客側が負担するのに対し、ホストクラブではホスト側が負担することだ。給料を前借りしてでも店の外では客に投資するホストも存在する。これはホストの「男らしさ」に対する価値観と、客側のニーズが合致した結果とも言える。
「店の中では、誰よりも男をお客様に立ててもらっている。だから店の外で女の子を立ててエスコートするのは当たり前。普通の男以上に男らしく振る舞うことが求められるのがホスト。結果的に店の外では電車移動はダサいからタクシー移動が多いし、高い店を予約したりハイブランドのプレゼントを渡すといった行為で女性を喜ばせることが求められるんだよね」(20代ホスト・月間2000万プレイヤー)
このような「男らしさ」の価値観がホストクラブには存在する。実際に店の外でのサービスとして提供されているため、キャバクラと違って女性客が「ホストにどれだけ金銭をかけてもらえているか」という点が評価基準に入り込むことになる。営業後のアフターの場所が毎回自宅だとケチられているように感じる、誕生日にもらったプレゼントの金額が低いと落ち込む、などである。
ホストクラブに通う女性は、指名ホストからの店舗外の時間・金銭によるリターンを「還元」と呼び、「私の担当(指名ホスト)は還元率が良い・悪い」といった評価軸をもつ。
ホストの特徴は、客に対して営業時間外の「時間」の提供や後述する枕営業などの「性的サービス」だけではなく、金銭による奉仕と提供も行なうことだと言える。こうしたホストの特殊性について、ジェンダー研究者のアキコ・タケヤマは「ホストが金で女性的な役割を演じる時、不自然に見え、逸脱的で欺瞞的で下品であると見做される」上で「ホストは自身の規範的非対称性をよく理解している」(Staged Seduction)と述べている。
女性的な感情労働を強いられつつも、男らしさというジェンダー規範を商品にしているホストの特殊性が垣間見えるだろう。
更新:05月18日 00:05