
ホストクラブに頻繁に通い、多額の金銭を投じる「ホス狂い」といわれる女性たちの実態とは?高校生の頃から歌舞伎町に足を運び、トー横キッズやホストなどの現場を取材してきたライターの佐々木チワワ氏は、著書『歌舞伎町に沼る若者たち』にて、歌舞伎町やホストクラブに通う女性のリアルを社会学的に分析し、その諸問題の解決策までを提言している。
2023年に国会でも議論された、ホストクラブの「売掛問題」。2024年には全廃されるも、いまだ「ツケ払い」を顧客に要求する慣習は続いているという。本稿では、同書より売掛に代わる"立替"について解説。その根本的な問題を紐解く。
※本稿は、佐々木チワワ著『歌舞伎町に沼る若者たち』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです

2023年11月、歌舞伎町を中心としたホストクラブの利用客が高額の借金を背負う「売掛問題」が国会で話題に上がった。同月30日には、消費者庁が「ホストクラブなどにおける不当な勧誘と消費者契約法の適用について」として、デート商法に基づき悪質売掛を含む支払いを取り消せる可能性に言及した。
筆者は売掛システムに全面的に反対の立場を取るが、それは何も「ホストが若年女性を騙して風俗に沈める悪質なもの」だからではない。そもそも売掛システム自体が不健全であり、ホストも客も自らの首を絞める制度だと考えるからだ。
本稿ではまず売掛システム、また類似したものとして立替システムについて説明し、その制度によってホストクラブ産業にどのような影響を与えているのか、そして今後付随する問題をどう解決すればいいのかを考える。
売掛金とは簡単に言えば、店舗へのツケ払いだ。店舗ごとに毎月決まった日にちに「入金日」が存在し、その日までにツケを支払えば、月の売上として計上される。売掛金の支払いが間に合わない場合、担当ホストの給与から天引きされる。ホストと客の信頼関係の上で、ホストに営業の幅を、客に支払いの猶予をもたせるシステムである。
売掛が昨今問題になっているのは、返済のために(売掛だけではなく、そもそもホストクラブで遊ぶ代金を稼ぐためでもあるのだが)性風俗や違法売春を行なう女性が後を絶たないからだ。売掛金はいわば借金である。
女性客が返済のためにホストから売春を強要されるのみならず、逆に女性客がわざと売掛金をつくり、その支払いを怠ることでホストに借金を肩代わりさせるなど、ホストと客双方に影響を及ぼしている。
売掛のシステムが常態化していたときのホストクラブでは、月の売上の3割以上が売掛金でつくられていることも珍しくなかった。ちなみに、ホストクラブでは現金払いがスタンダードだ。2024年4月より前は、クレジットカードの決済手数料としてプラス10%かかる店舗が多く、夜職で日払い・現金払いで得た金銭を使う女性が多かったためである。
先ほど述べた2024年4月は、歌舞伎町の大手ホストグループらが売掛金の全廃を表明した時期である。だが、売掛システムがなくなって万事解決......とはならない。売掛とは別に、「立替」という仕組みが残っているからだ。
売掛と立替は何が違うのか。歌舞伎町のラストオーダー直前によく交わされる、ホストと女性客の会話を見てみよう。
ホスト「今日ラスソン取れそうだから、シャンパン入れていい?会計50万円くらいになるんだけど」
女性客「ええ、入金日来週だよね?いま現金10万円しかないから、売掛(ツケ)になっちゃうし、さすがに1週間でいまから40万円稼ぐのはキツいかな......」
ホスト「いくらなら入金できる?」
女性客「うーん、半分の20万円くらいなら......」
ホスト「じゃあ20万円でいいよ。残りは俺が立て替えておくから、来月中に返して。お前のこと、信用してるし。今日ラスソン取れたらアフターして朝まで一緒にいよ」
女性客「本当に一緒にいてくれるの?じゃあうん、立替ならいいよぉ」
このように、売掛では顧客が店側にツケ払いをするが、立替ではホストが顧客の代わりに支払いを済ませ、個人の貸し借りにする。歌舞伎町では、入金日までに支払える金額なら売掛、難しい場合は立替にするのが一般的だった。
売掛が全廃された2024年4月以降は入金日自体がなくなったが、顧客が手元に現金をもたなくても飲食代を借金させ売上を立てる立替のシステムは残っている。
「『売掛なくなりました!』とか『ウチは100%現入(現金で全額支払うこと)です!』とかいう店舗がありますけど、ほぼ噓だと思っていいですよ。売掛は店管理、立替は個人管理って体裁はあるけど、立替も店舗管理にしている店もありますから。店がホストに金を貸して、その金で立替させるとかもありますよ。立替の時代って感じですね」(30代・月間1200万プレイヤー)
そもそも、売掛にせよ立替にせよ、なぜツケ払いの慣習はなくならないのか。遊ぶための金が手元にないにもかかわらず、「娯楽」であるホストクラブで大金を使ってしまうのはなぜなのか。
客の心理的要因として挙げられるのは、担当に頼られた嬉しさ、売上に貢献したいという思い、ライバルに勝ちたいという競争心、担当ホストから好かれてより良い扱いを受けたいという承認欲求などだろう。
また、歌舞伎町に顕著な事例としては「また稼げば返せるか」という楽観的な思考もあるだろう。その稼ぐ手段はまさに、パパ活や風俗、立ちんぼなど、女性性を売ることである。
「風俗で1日12時間出勤すれば最低でも5万円は稼げるから、10日あれば50万円までの売掛は大丈夫だろう」と、稼ぐ見込みに基づき遊ぶことが習慣になる。
売掛の返済日前になると夜の出勤時間をいつもより長くしたり、普段より安い金額で路上に立ったりして現金をかき集めるホス狂いが増えるのは、女性性を売ることでツケ払いを担保する歌舞伎町の文化にほかならない。
そもそも、「なぜホスト側も女性客に売掛をさせるのか。接客当日に金を回収してしまったほうがいいのでは」と疑問に思われるかもしれない。
ホスト側からすれば、女性客に売掛をさせることで、客として「囲い込む」ことができるのである。金銭によって持ちつ持たれつの構図をつくり、互いの関係性を深めていく。しかしこの手法が行き過ぎると、自分に金を使わせるために夜の仕事を強要することにつながってしまう。
「ホストクラブに行き始めた友達の話ですけど、ホストって1回2、3万円でも遊べるから、自分の収入に見合った額ならいいんじゃないって思ったらしいんです。アイドルのコンサートとかと比べたら、好きな人と真横で話せるわけだし。でもホスト側に呼ばれたら嬉しくて行くようになっちゃって。シャンパンとか入れたいって言われてて。月収20万円くらいの子だから当たり前に貯金は吹っ飛んで、カード限度額ギリギリまでいってて。本人も断らないで了承しちゃってるの見て、やばいかもなって......。
いま担当ホストから『夜の仕事やらないの?』って言われてるみたいです。『俺がお前くらい可愛かったら、ギャラ飲みとかキャバやって月100万円くらい稼ぐけどね』って。女の子のことも褒めてるじゃないですか、可愛いって。うまいなって思いましたよね」(のちの取材で、彼女の友人はその後2カ月でデリヘルを始めて担当ホストに貢ぎ、さらに1カ月後には昼の仕事を辞めていたことが判明した)(20代・女性)
売掛金という借金を勢いでつくらせ、返済するまでは関係性が切れないことで客との関係性を固める。やっと返したと思ったら、また新たな売掛金をつくる......。俗に言う「掛け縛り」をすることで女性の稼ぎのリミッターを徐々に解除していき、立派な「太客」に育て上げるホストも存在する。
毎月決まった金額を使ってくれる固定客がいることで、自分の売上の皮算用を立てることができる。女性性で稼ぐ客も、顧客のメンタルと稼ぎ次第で売上が変わるホストも、つねに泡銭の皮算用で生きていると言えそうだ。
更新:05月12日 00:05