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「政権交代」が現実味を帯びる今だからこそ 政党政治の原点を検証する2冊【書評】

2025年09月01日 公開

奈良岡聰智(京都大学教授)

政権交代が現実味を帯びる現在、あらためて政党政治の政治の原点を検証する2冊『民主主義は甦るのか?』( 慶應義塾大学出版会)『《日本史の現在》5 近現代①』(山川出版社)を京都大学教授の奈良岡聰智氏が紹介する。

※本稿は、『Voice』2024年11月号より抜粋・編集した内容をお届けします。

 

 護憲三派内閣の歴史的意義

今年は、1924(大正13)年に護憲三派内閣が成立してから、ちょうど100年になる(執筆当時)。

護憲三派内閣とは、貴族院を基礎とする内閣に反対した三政党が、政党内閣の確立をめざして憲政擁護運動(第二次護憲運動)を起こした結果、加藤高明を首班として組織された内閣のことである。

この内閣は、総選挙に勝利した野党が政権に就く新例を切り拓いたという意味でも、以後約8年間二大政党が交互に政権を担当する「憲政の常道」と呼ばれる時代の出発点となったという意味でも、重要な歴史的意義を有する。

残念ながら、100年という節目の年であるにもかかわらず、同内閣の歴史的経験を振り返ろうという気運は乏しい。

しかし、自民党への信頼が大きく揺らぎ、政権交代の可能性が僅かながらも論じられている昨今、100年前の政党政治について再検証する作業はあながち無意味ではないだろう。

以下では、同内閣が成立した当時の日本の政党政治が最新の研究でどのように理解されているのかを、最近出版された著作から確認してみたい。

 

民主主義の過剰?

細谷雄一他編著『民主主義は甦るのか?』(慶應義塾大学出版会)は、世界的にポピュリズムが台頭し、自由民主主義的な政治体制が退潮する状況を念頭に置いて、政治学者が戦間期と現代の状況を比較・検討した論考13編を収録している。

戦間期の日本を扱った論考の一つである村井良太「民主主義をめぐる帝国期日本の教訓」は、まず「戦前日本に自由民主主義体制はあったのか」と問い、あったとする。

すなわち、1920年代後半は自由民主主義的時代であり、それは明治の立憲政治の発展の延長線上にあったという。護憲三派内閣については、「元老と選挙を媒介にした政府と反政府勢力との平和的政権交代」だったとし、その重要性を指摘している。

護憲三派内閣は普通選挙法を成立させたが、同時に治安維持法ができたことから、ここで「大正デモクラシー」は終わり、以後戦争への坂道を転げ落ちていったというのが従来の通説的見方であった。

しかし村井氏は、まだこの時点で民主化が終わったわけではなく、1927年には与野党間で政権が交代する「政党内閣制」が成立し、以後の政治状況は「民主主義の過小」というよりはむしろ「民主主義の過剰」として理解できる側面もあるとする。

それゆえ、1945年に日本が受諾したポツダム宣言には、民主主義的傾向の「復活強化」が記されていたが、これは「現在の研究状況から見ても正しい理解である」という。評者も、基本的にはこうした解釈が妥当だと考えている。

 

戦間期の民主主義的政治体制

鈴木淳他編『《日本史の現在》5 近現代①』(山川出版社)は、高校の日本史教科書の記述の基盤となっている最新の研究・議論を、時代ごとに紹介した全6巻のシリーズのうちの1冊で、日本史学者による17編の論考から成る。

戦間期の日本の政党政治については、前田亮介「戦前期の政党政治をどうとらえるか」が検討している。

前田氏は、明治14年政変による二大政党の成立、その全国化、政友会の一党優位確立を経て、護憲三派内閣が成立した1924年以降、平時に政党内閣が連続する「憲政の常道」=政党内閣制の時代に入ったとする。

また、政党内閣制の終点は、五・一五事件によって犬養毅内閣が倒れた1932年とするのが一般的だが、前田氏は、首相を事実上決定していた元老西園寺公望が政党内閣の復活も視野に入れていたことから、同年以降は政党内閣の「中断」と見るべきだとする。

それゆえ、前田氏によれば、政党内閣制が「終焉」したのは、日中戦争の勃発で政党内閣の復活可能性が完全に断たれた1937年だとされる。

異なる見方は可能だろうが、前述した村井氏と同様、戦間期の自由民主主義的政治体制がそれなりに強固なものだったという見方に立っている点が興味深い。

このように、近年の研究では、戦前日本の政党政治は相当程度発展した段階にあったというのが通説的な見方になっており、それゆえになぜ、どのようにしてそれが崩壊したのかにも依然として強い関心が寄せられているのが現状である。

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