中国の経済規模は日本の4倍以上となり、背中も見えない状況だ。2024年にはドイツに抜かれて4位となり、25年にはインドに抜かれることが確実と言われる。わが国はどこへ向かうべきなのか。自民党総裁選に出馬した40代の総理候補が明かす外交戦略について、書籍『世界をリードする日本へ』より紹介する。
※本稿は、小林鷹之著『世界をリードする日本へ』(PHP研究所)から一部を抜粋・編集したものです。
先の大戦から80年という節目が近づいている。しかし、世界を見渡せば、長引くウクライナ戦争、暴力の連鎖が懸念される中東情勢、アメリカ社会の分断、欧州の政治不安定化など、激動の国際情勢は混沌を深めている。
「令和」の時代を迎えた日本は、希望に満ち溢れた、新しい時代の到来に期待したものの、日本を取り巻く環境はますます厳しさを増している。まさに「歴史の分岐点に立っている」とも言われる時代になった。これから数年間の私たちの歩みが、数十年後の日本と世界の進路をも大きく左右することになると考える。
民主主義と資本主義が制度疲労に直面する一方、世界では権威主義の高まりも見られる。過渡期を迎えた国際社会であるからこそ、日本の取るべき進路は、真に自律し、毅然とした国家運営をするとともに、国際社会から必要とされる国になっていくことにほかならない。
日本を「世界をリードする国」にすること。この思い一つでこれまで政治家としての歩みを続けてきた。これからの日本の舵取りは、今後も当事者であり続ける私たちの世代こそが主体的に担っていかねばならない。
まず「信頼される」という点では、国家間で締結した約束や決められたルールを遵守することである。私たち日本人にとっては当然のことではあるが、国際社会においては、こうした日本の一貫した姿勢は各国から一定の評価を得ている。
国、自治体、企業、アカデミア、NPOなど、様々な主体によって重層的に展開された外交活動による成果とも言えるであろう。この信頼こそが、わが国の外交上のアセット(資産)になっている。
しかし、今日の外交は「信頼」だけでは成り立たない。経済力と防衛力も外交の地歩を固めるものであり、そのうえで双方の経済的利益や文化的交流など様々な要素が絡み合って外交は成り立っている。
とくに近年、強大な経済力をもって外交を進める国があるなかで、日本が他国から「必要とされる国」であるのか、あり続けられるのかがわが国の外交上、大きな課題であると思う。
経済安全保障の最大の目的は何よりも経済成長だ。それを支える4つの柱の中に自律性の確保と不可欠性の獲得がある。自律性の確保としては主としてサプライチェーンの強靭化があるのだが、たとえば重要鉱物の場合、特定国への依存度を下げるため、輸入先の多角化が必要である。
そこで対象となるのが、インド、ASEAN、アフリカ、南アメリカ、太平洋島嶼国などのグローバルサウスと称される国々である。
わが国は長年、それぞれの国に対してきめ細かい外交を展開してきたため、日本に対して強い信頼を寄せる国もある。わが国の外交資産であるこの信頼関係を基にしつつも、今後将来にわたりわが国とグローバルサウス諸国(以下、GS)が「信頼」と「共通の利益」で結ばれ、わが国が、経済社会の繁栄を「共創」するパートナーとしてGSに「選ばれること」が重要である。
そのためには、GS諸国が有する食料・重要鉱物などと、日本が有する高度な産業技術や国内外の産業集積といった強みで互いを補完することで、互いの弱みを克服し、経済的発展につなげるWin−Winの関係を構築することが必要である。
近年、人口増加、経済力の向上、そして、豊富な天然資源を保有していることなどを背景に、GSの国際社会における発言力が増している。わが国の国益を確保するためにも、また、地域や国際社会の秩序を維持するうえでも、GSとの関係強化が重要である。
自民党において、2023年秋に「日・グローバルサウス連携本部」が設置され、現在、私が本部長を務めている。2024年6月に取りまとめた提言のサブタイトルは「パートナーとして選ばれる国へ」とした。
世界のGDPに占める日本のGDPの割合は、1995年には17.6%に達したが、現在は約4%と、1980年以降で見ると過去最低となっている。
ゴールドマン・サックス社の「グローバル・ペーパー 2075年への道筋」による世界GDPランキングによると、2022年のトップ15の中にGSはインド、ブラジル、メキシコの3カ国のみであったのが、2050年には7カ国、2075年には8カ国になると予想されている。
これは、2075年のGS全体の人口が世界の人口全体の7割を超えるほど人口増加が著しいことが、一つの要因であると考える。
一方で、日本の場合、2022年に3位であったGDPランキングは2075年に12位まで低下するとの予想である。こうした状況のなかで、新興国・途上国から見た日本の位置づけも当然、変化することが想定される。
そのため、わが国としてGSとの関係を戦略的に構築していく必要があるのだ。
そもそも「GS」と一言で表現しているが、国によって文化・歴史的背景、政治・経済の状況、価値観など、置かれている状況は様々である。
また当然、各国は自国の国益を追求して行動するわけだが、比較的多くのGSに共通する傾向として、①歴史的な経緯、新型コロナウイルス蔓延時の対応、イデオロギーの「押しつけ」などにより、欧米先進国に対する不信・不満を抱えている、②一部の国による持続可能性を軽視した支援について「債務の罠」に関する懸念が広がってきている、③GS諸国内での連帯を重視する、といった点にも留意が必要である。
したがって、一律的なアプローチではなく、それぞれの国に応じたテーラーメイドなアプローチと互いの国益に適う関係づくりが必要だ。
わが国の外交・政策上のリソースには自ずと限りがあることに鑑みれば、複眼的な視点、つまり①わが国の国益、②相手国の状況(国家戦略、課題およびニーズ、政治状況、資源や技術力などの経済的能力、地政学的重要性、市場規模・成長性、わが国との文化・歴史的つながり、他国との関係)、③同志国との役割分担などを精査し、とくに重視すべき国や地域を政府内部で共有し、戦略的に対応することが求められる。
更新:11月21日 00:05