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「日本は弾薬も買えない」は真実? 元外務次官が問う“防衛費11兆円”の妥当性

2024年03月25日 公開

薮中三十二(元外務省事務次官)

防衛費の増額

2027年度から、防衛費がGDPの2%に引き上げられる。これまで年間5.5兆円規模であったものが11兆円を超え、世界第3位の水準となる。一方で、日本の債務残高はGDP比258%という天文学的な数字となっている。戦争が頻発する今、防衛費倍増は「やむを得ないこと」と見なされることが多いが、本当に妥当なことなのか。

※本稿は、薮中三十二著『避戦論』から一部を抜粋・編集したものです。

 

防衛費が年間5.5兆円から11兆円に

日本が一定の防衛力を整備・強化する必要があることは、現在の国際政治の状況を見れば当然のことである。問題は、何のために、どれだけの防衛力が必要かの吟味である。

日本の防衛費は、長年、GDP比1%の枠内という政策目標に沿って抑えられてきた。といっても、丸腰というわけではなく、世界では2023年で第10位の防衛費となっている。

第二次安倍政権下において、防衛費の拡充を目指したものの、その伸びは小さなものであり、2012年度の防衛費が4.7兆円だったものが、2020年度には5.3兆円であり、7年8カ月で6000億円増大されたにすぎず、GDP比1%の枠内に収まるものだった。

その防衛費を岸田総理は、一気に倍増することを決定した。日本が2027年度に防衛費をGDP比2%に引き上げるとすれば、5.5兆円規模であったものが11兆円を超え、世界第3位の水準となる。防衛費だけで見れば、世界有数の軍事大国となる。

他方、中国の防衛費は2000年以降、経済成長に伴い大きな伸びを示し、今や日本の5倍近くとなっており、日本がGDP比2%の水準に引き上げても、中国の防衛費の三分の一程度である。中国と同程度の防衛力を日本が持つべし、などということになれば、GDP比6%程度が必要となり、不可能な水準である。

 

香田元自衛艦隊司令官の論評

さて、日本の防衛費の水準を考える時、何のために防衛費の増額が必要かを具体的に検討すべきなのはいうまでもない。やみくもに「防衛力を抜本的に強化するのだ」と唱え、一気に現行の防衛費を倍増するというのはいかにも乱暴である。

「ロシアのウクライナ侵略のようなことが起きるので、NATO並みは当然だ」というのは責任ある政府のやるべきことではない。ウクライナの状況と日本を取り巻く状況は同じではなく、日本としてNATO諸国と同じレベルの防衛費を支出すべきだ、というのはお粗末な思考である。

NATO諸国並み、というのであれば、その中核のドイツ、フランス、英国などの財政規律も見てみるべきだろう。EUは加盟国に対し、債務残高がGDP比60%を超えないこと、予算年次ごとの財政赤字をGDP比3%以内に抑えることを求めている。

日本の債務残高はGDP比260%という天文学的な数字となっており、NATO諸国と全く異なる財政状況にある。日本政府の債務はほぼ全てが円建てであり、日本は資産があるから大丈夫だ、といった主張が日本国内にあるが、少なくとも世界標準の議論ではなく、いずれ持続可能ではなくなると考えるべきであろう。

これまで、日本の防衛費があまりに少なく、砲弾も買えない、という指摘が頻繁に聞かれた。確かに砲弾のストックが十分なレベルにないというのは事実だが、今後5年間で43兆円の防衛費を予算に組み込むと決定した時に、砲弾費用はいくらかと見れば、弾薬・誘導弾で2兆円だそうである。

「弾薬も買えない」、だから大幅な防衛費増額を、というのは防衛費増額のためのプロパガンダだったのかもしれない。

2022年度の防衛予算の内訳は、人件費などが42%、基地対策経費が9.1%、残りの49%、2.5兆円が自衛隊の装備、維持費となっている。今後、この防衛費に年間5兆円以上が加わることになれば、人件費はそれほど増えるはずはなく、装備費などが3倍以上も増えることになる。

それだけの規模の増額が具体的に何に必要となるのか、よほどにしっかりとした検討が必要であり、その内容についても、わかりやすい説明が国民になされなければならない。

この関連では、防衛の現場にいた香田洋二元自衛艦隊司令官の著書『防衛省に告ぐ』(中公新書ラクレ)が警鐘を鳴らしている。

防衛省の装備計画を見てのことだと思うが、「マッハ5以上の極超音速誘導弾」や「12式地対艦誘導弾の改良」、情報収集する「衛星コンステレーション」など思いつきを百貨店的に並べた印象で、点数もつけられないと酷評し、自衛隊の身の丈を超えたものを買い物リストに入れていないですか、と述べており、傾聴に値するコメントである。

今後、5年間で43兆円の防衛費という時、本当に何が必要なのか、十分な精査が必要なことは言うまでもなく、また、2027年度以降、GDP比2%のレベルで防衛費を計上していく必要が本当にあるのか、今一度、「数字ありきではない」という原点に立ち返り、日本を取り巻く安全保障環境と日本のあるべき防衛力レベルを総合的に勘案し、厳しく吟味することが必要である。

日本の債務残高は1068兆円、GDP比258%(2023年)という天文学的な数字になっている。さらに日本は今、あまりにも多くの課題を抱えており、とりわけ少子化の問題は「異次元の対応」がまさに求められている。

防衛を担う自衛隊でも、定員割れが深刻になっている。若者がいない日本には未来も、国防もなく、少子化が日本の安全保障上、最大の課題であると言っても過言ではない。しかし、少子化対策についてはすぐに財源の問題が提起され、なかなか「異次元の対応」が取られない現実がある。

その一方で、防衛費となると、財源問題など関係がないと言わんばかりの対応は不可解である。戦前の日本では、こと戦争のことや軍隊のことになれば、財源を含め、全てに優先されたが、その行き着く先は太平洋戦争であった。

繰り返しになるが、私も一定の防衛力の整備・強化はしなくてはいけないと考えている。しかし、GDP比2%と決め打つのではなく、身の丈に合い、真に必要なものを整備することが肝心であり、その観点からの吟味を行っていく必要が当然ある。

 

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