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ウクライナはロシアに勝てる? 西側諸国の「支援疲れ」が生む悲劇

2024年01月17日 公開

佐々木孝博(元在ロシア防衛駐在官・元海将補)

ウクライナ戦争

膠着状態のロシア・ウクライナ戦争。元在ロシア防衛駐在官の佐々木孝博氏は、この戦争は膠着状態から長期化する可能性が高いと指摘する。情勢がウクライナに傾く場合、ロシアに有利に動く場合のそれぞれについて、考えられるシナリオを提示する。

※本稿は、『Voice』(2024年1月号)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

膠着状態から長期化

ロシア・ウクライナ戦争の展望として最も蓋然性が高いのは、膠着状態からの長期化であろう。

昨年(2023年)6月のウクライナの反転攻勢が始まって以来、さまざまな戦線において、「ウクライナが南部ザポリージャ州のロシア防衛網を突破した」「南部へルソン州で渡河作戦が成功した」「ロシアの黒海艦隊がウクライナの攻撃により大打撃を受け、艦隊の多くをノボロシスクに移動させた」など、ウクライナにポジティブな報道が多くなされた。

一方で、「東部戦線ではロシア軍が逆に反転攻撃し、いくつかの都市を奪回した」「ウクライナの穀物輸送ルートは、黒海だけではなく、ルーマニア近傍の陸上輸送ルートもロシアによる攻撃を受けた」「(戦争開始以来)2回目の冬の到来に向けて、ウクライナの重要インフラ(電力インフラ)への攻撃が激化し始めた」など、ロシアにポジティブな報道も出てきている。

戦時には、自国に有利な情報は戦略的に情報発信し、不利な情報は戦略的に情報統制するといった対応は常套手段である。総じて考えれば、各々出てくる情報は一つの側面として事実で、隠されている側面の情報は出てこないということである。

両国から出てくる情報を包括的に見れば、「ある作戦は成功し、ある作戦は失敗した」「ある作戦はある時期には成功したが、以後相手側に対応され、同種の成功事例の報道は少なくなった」といった情勢にあるものと考えられる。

換言すれば、地域的・時期的に、限定的に勝ったり負けたりの「いたちごっこ」の戦いを続けているのではないだろうか。

そのような見方からすると、この戦争は膠着状態が続いており、当事国以外の支援体制・制裁体制に大きな変化がない限り、長期化する可能性が最も高いのではないかと考えられる。当事国以外の支援体制や制裁体制が、長期化に影響すると見積もられる要因は以下だろう。

第一は、ウクライナ支援は現状またはそのプラスアルファレベルで、ゲームチェンジャーになるほど格段に支援がなされることはないが、支援そのものは今後も必要量の弾薬を含め現状どおりに実施されること。

第二は、プーチン大統領は今年3月に再選され、政権を安定させたうえで、世論を気にせずにより強硬な施策(総動員)などが可能な状態になり、継戦能力に大きな問題が生起する可能性は低いこと。

第三は、イラン、北朝鮮などのロシアへの直接的な軍事支援体制は構築されており、また、中国やインドのエネルギー購入による経済の下支え、軍民デュアルユース技術の支援による軍事力整備の土台が継続すること。

このような要件に大きな変化がなければ、膠着状態から長期化になるシナリオの可能性が高くなるであろう。

 

情勢がウクライナに大きく傾く場合

EMP攻撃の際の被害影響圏のイメージ

さて、情勢が大きく動くシナリオの可能性として、まず事態がウクライナに大きく傾く場合を見ていきたい。

戦況に多大な影響を及ぼす変化要因は、西側の支援体制である。現状ウクライナが非常に健闘しており、優勢に戦いを進めている側面はあるが、圧倒的に優位に立てない要因として、航空優勢を保てていない点が挙げられる。

航空優勢が獲得できていれば、ウクライナ軍は必要な時期に必要な場所で航空作戦を実施することができ、ロシア軍部隊を効果的に撃滅したり、ウクライナの地上軍部隊を航空支援できたり、ロシア軍による航空攻撃(ミサイル・ドローン攻撃も含む)を防御したりすることも可能となる。

それに不足しているのが、ロシア軍航空兵力を凌駕する戦闘機・攻撃機の部隊であり、長距離で攻撃可能な長射程の地対地ミサイル(ロケット)部隊、及び長射程の対空ミサイルをもつ防空部隊である。それらの不足を補う支援ができれば、情勢はウクライナに大きく傾く可能性があるということだ。

ただし、米国をはじめとする支援国が懸念しているのが、ロシアの核使用の可能性である。ロシアは今次戦争での敗北は絶対に許されないため、戦況がウクライナに大きく傾けば、背に腹は代えられずに核を使用するオプションもありうる。そのために、西側諸国はロシア側の出方をうかがいながらの小出しの支援にとどまっているのである。

2020年6月にロシアは「核抑止分野における国家政策の基礎」という文書を発表し、いわゆる「核兵器の使用規定」を明確にした。

すなわち、第一は「ロシア及び同盟国を攻撃する弾道ミサイルの発射に関して信頼のおける情報を得たとき」、第二は「ロシア及び同盟国に対して敵が核兵器または大量破壊兵器を使用したとき」、第三は「機能不全に陥るとロシアの核報復戦力に障害をもたらす施設に敵が干渉したとき」、第四は「通常の兵器を用いたロシアへの侵略で国家存亡の危機に立たされたとき」とした。

核使用の閾値は非常に低いと言える。今次戦争においても、メドベージェフ前大統領をはじめ、再三にわたって第四の「国家存亡の危機」をもち出し、核使用の脅しをかけている。ロシアが、戦況がウクライナに大きく傾いたとき、核使用も考慮している危うい戦略をもっていることは明らかであろう。

核使用後の国際社会での立場や戦後処理に鑑みると容易に使用することは考え難いが、いくつかの可能性には注目しておかなければならない。それは、ロシアが必ずしも核攻撃とは考えていないと見られる電磁パルス(EMP)攻撃としての使用である。

10ktの核弾頭を高度30kmで爆発させた場合、地上では直接的な爆発の影響や放射線の影響はないが、ガンマ線が広く拡散することで半径600kmの範囲で電子機器が使用不能となるような攻撃法だ。(図)

物理的な被害が直接ないので、ロシアが核使用の正当性を主張することも考えられる。ロシア軍よりも近代的な電子機器を搭載した兵器を使用するウクライナ軍にとっては致命的となるかもしれない。

加えて、『フォーブス』誌上級寄稿者のローレン・トンプソンは同誌は昨年8月、「ウクライナ戦争が核紛争になる5つのシナリオ」という分析記事を発表した。

第一は「通常戦力の戦いでこのままウクライナが押し切る場合」である。これは、戦況がウクライナに大きく傾いたときに考慮しなくてはならないシナリオである。

第二は「ウクライナがロシア国内の重要な目標を破壊した場合」である。これは、ウクライナがロシア国内の重要インフラや首都モスクワに大打撃を与えた際に、ロシアが国家存亡の危機と判断した場合である。

第三は「ウクライナがロシアを圧倒する(ウクライナが核・または大量破壊兵器を使うなど)との偽情報を得て、ロシアが情勢判断を見誤った場合」である。これは、冷戦時代にソ連が、北大西洋条約機構(NATO)演習で核攻撃が始まったと誤認した事案を指摘したものだ。

第四は「ロシア軍のなかで、核の一元管理が機能しなくなる場合」である。今次戦争を見ていると、ロシア軍の指揮統制の乱れが散見される。それが核兵器の攻撃指揮系統に影響する可能性の指摘だ。

第五は「プーチン大統領が(健康上またはその他の理由で)政権を退き、より強硬な政権になった場合」である。プーチン政権が終焉したとしても、事態がそう簡単に好転するとは限らない。

それぞれのシナリオに可能性の濃淡はあれ、ゼロではないので注視しておく必要はあるだろう。

 

情勢がロシアに大きく傾く場合

では反対に、戦争の情勢がロシアに大きく傾く場合はどのようなことが考えられるであろうか。

第一は、戦況がウクライナに有利になった場合と裏返しのシナリオであり、「西側諸国等の支援がいままでのようにできなくなった場合」である。実際、ウクライナへの「支援疲れ」の兆候は見え始めている。

昨年9月20日には、ポーランドのモラヴィエツキ首相が「ウクライナへの武器供与を止めて、自国の軍備を増強する」と発言した。その後、複数の高官が「ポーランドは自国の武器備蓄を拡充する必要があるとの意味合いだ」として火消しに走った。

総選挙を控えていたこともあり、与党「法と正義」はウクライナへの従属的姿勢を極右勢力から批判されていることが背景にあったと見られている。10月26日には、欧州連合(EU)首脳会議で、スロバキアのフィツォ新首相が「ロシアの侵攻を受けるウクライナへの武器供与を停止する。人道的な支援は続ける」と正式発表した。

さらに、ハンガリーのオルバン首相も同日、EU執行部提案の対ウクライナ追加財政支援に反対する考えを表明した。ウクライナ支援に対するEU内での意見対立が露呈した形だ。

主要な軍事支援国である米国、英国、ドイツ、フランスなどは現状の姿勢を継続する見通しで、当面は大きな影響は出ないだろう。

ただし、米国においても、今年は大統領選挙を控えており、共和党政権に代わった場合はウクライナ支援が後退する可能性もある。各々の国家の事情で「ウクライナ支援疲れ」が見え始めていることは念頭に置かなければならないだろう。

「支援疲れ」だけではなく、国際情勢がウクライナ支援に及ぼす否定的な影響もある。昨年10月以降に激化してきた中東情勢である。イスラエルと武装組織ハマスの対立で本格的に軍事衝突するなか、米国はウクライナとイスラエルでの二正面作戦を強いられている。

中東に展開する米国艦隊に対して、イスラム武装勢力による攻撃も発生しており、米国は実質的に中東の紛争に「参戦」している。そのような状況では、米国がウクライナにこれまでどおりの軍事支援を継続できるかはわからない。

ウクライナ支援のみの段階でも、米国における弾薬の備蓄量不足が問題視されていたという報道もあった。先に触れたように、米国をはじめ西側諸国の支援がいままでどおりに継続できれば、可能性として高いのは、膠着状態からの長期化である。

支援が格段に進めば情勢はウクライナに傾き、支援がいままでどおりに継続できなければロシアが有利になるとも言える。

仮に、各国の国内事情からウクライナ支援の継続が厳しくなった場合には、それらの国から停戦要請といった動きが出てくる可能性がある。実際にスロバキアの国内ではそのような声が聞かれ始めたが、まだ大きなうねりには至っていない。

米国など戦況を左右するような武器を提供している主要な軍事支援国で、停戦要請の世論が高まって政権がそれに動かされるようになれば、ウクライナにとっては不本意ながら、また国際法違反の侵略とわかっていながら、停戦を促すような動きが出てくるかもしれない。ロシアはそのような情勢になることを企図して情報戦を仕掛けてくるはずだ。

さらに、ロシアを利する動きとしては、国際社会におけるウクライナ戦争への関心の薄れといった事態も考えられる。

それは、ロシアの情報戦の結果であるかもしれないし、エネルギー・食料を利用した力による外交などでロシアへの理解国を拡大させた結果かもしれない。いずれにしても、ロシアに有利に働く国際社会の動向についても注視する必要がある。

 

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