ウクライナの反転攻勢が始まった。ウクライナ軍と西欧諸国の支援の力を見くびったプーチン大統領や、「ウクライナは降伏すべき」と主張していた知識人の誤りが明らかになりつつある。では、この戦いが終わるためには何が必要なのか。エコノミストの原田泰氏が、日本の満洲事変と中国への侵攻をヒントに、戦争終結への道を考える。
※本稿は、原田泰著『プーチンの失敗と民主主義国の強さ』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。
ウクライナにとって深刻な問題の1つは、戦争をどう終わらせるかである。日本やドイツが第二次世界大戦の後、発展できたのは、戦争が終わったからである。
しかし、ロシアが戦争を終わらせるかどうかは分からない。ロシアは2022年7月30日、貧しい国の食糧不足を解決するため、国連、トルコの斡旋で安全にウクライナの穀物を港から輸出することに合意した。
ところが、その翌日の31日には穀物輸出港、近隣の都市を爆撃し、著名な穀物輸出業者夫妻が死亡したとのことである(「ロシア、南部攻撃激化」『日本経済新聞』2022年8月2日)。
いかなる約束も守らない国と、どのように停戦合意、戦争終結の約束ができるのだろうか。ウクライナとしては、そもそも2022年2月24日の実効支配の国境に戻るのがまず必須だろう。南部を占領され、港を失った内陸国となるのは、海からの穀物輸出の必要性を考えても耐えられない。
ロシアは核を持ち、ウクライナの領土を攻撃し放題だが、ウクライナがロシアの都市を攻撃すれば、ロシアは何をするか分からない。これは、ウクライナが専守防衛で戦っていることである。
日本も専守防衛で戦うとは、ウクライナのように戦うということである。日本の専守防衛論者は、このことに気が付いていないのではないか。
「[ウクライナの砲撃司令官]イエベン・トニツァ氏は『われわれの手足は縛られている』と話す。標的にできるのはウクライナ占領地におけるロシア軍の拠点のみで、国境を超えてロシア[の領土]は狙えないという。
『許可があれば、かなり前に結果が出せていただろう』[と言う]」(「ロシア領狙わない確約、ウクライナの足かせに『(ロシア領土を砲撃する)許可があれば、かなり前に結果を出せていた』」The Wall Street Journal 2022年8月1日。日本の専守防衛の弱点については、織田邦男「他人事ではないウクライナの悲哀」『産経新聞』2022年4月6日が指摘している)。
ウクライナが少なくともロシア侵攻前の2022年2月24日の国境を確定し、ロシアがもはや攻撃しない、という保証はどうしたら得られるだろうか(2022年2月24日の国境で停戦するのは、多大な犠牲の上にロシアを押し戻す状況が見えてきたウクライナにとって耐えられない条件だろう)。ロシアが、侵攻は失敗で、2度としたくないと認識することである。
そもそもウクライナが2022年2月24日に侵入されたのは、ロシアが2014年、東部2州の一部とクリミア半島を簡単に奪うことができたからである。戦う決意を見くびられると、戦争のリスクが高まるという典型的な例だろう。
プーチンは、首都キーウを数日で掌握し、数週間でウクライナ全土を占領するつもりだったのだろう。
戦前の日本が中国への侵略を拡大したのも、あまりにも簡単に満洲事変で勝利できたからである。
満洲には、軍閥、張学良の東北軍の正規軍が26.8万人いたが、1931年9月、日本軍は兵力1万400人で東北軍を敗走させ、満洲を占領、32年3月には傀儡国家、満洲国を成立させた(張学良の軍隊の規模については諸説あり)。
ただし、事変の終結までには2万人に増強され、治安粛清のためには3、4万人の軍隊が必要だったという(青江舜二郎『石原莞爾』195頁など、中公文庫、1992年)。
陸軍は、「"満洲"は一個師団[1万〜2万人程度の規模の軍隊]で5カ月で勝ったから、シナは3個師団、3カ月で勝てる」と考えて日中戦争を始めたという(青江前掲書、196頁、山口重次の証言)。簡単に勝てると考えて始めたのだが、中国のナショナリズムが勃興し、日本は負けていないのだが勝てない、という状況に追い込まれた。
ロシアが、ウクライナのナショナリズムを軽視し、勝てない戦争になったのと似ているだろう。
更新:11月21日 00:05