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ウクライナ映画の配給権を自腹で購入...日本人女性に託された「現地人の思い」

2023年12月27日 公開

粉川なつみ(Elles Films株式会社代表取締役)

粉川なつみ

ウクライナのアニメーション映画『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』は2023年に全国公開され、高い注目を集めた。今も戦争が続くウクライナから、どういった経緯でこの作品は日本へと届けられたのか。その背景には一人の女性の活躍があったという。映画配給会社・Elles Films株式会社代表取締役の粉川なつみさんにお話しを聞いた。(写真:吉田和本 取材・文:Voice編集部(田口佳歩))

※本稿は『Voice』(2024年1月号)「令和の撫子」より抜粋、編集したものです。

 

映画を通してかけられた「ウクライナ人からの言葉」

いまなお続くロシア・ウクライナ戦争。粉川なつみさんは、この戦争をきっかけに行動を起こした一人だ。

「ウクライナで制作されたアニメーション映画を日本で公開できないか。それが映画宣伝会社にいる自分にできる貢献だと考えました」(粉川さん)

しかし、当時の会社では他作品との調整が難しく断念。諦めきれなかった粉川さんは、新しい会社を立ち上げ、自腹で配給権を購入した。吹き替え費用や宣伝費とさらに莫大な費用がかかるが、公開まで無収入の期間が続く映画配給には融資も下りない。

そこでクラウドファンディングを開始し、685人から約950万円の協力を得る。そして2023年秋、『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』の全国公開を実現させた。

興行収入の初速が目標に達せず、焦った時期もあるという粉川さんを勇気づけた言葉がある。

「やったこと自体に意味があるんだから自信をもってください、と支援者の方に声をかけていただいたんです。実際この映画を通して多くのウクライナの方と話しましたが、戦争を支援してほしいというよりも『ウクライナを忘れないでほしい』『人びとが私たちのことを思い出すきっかけになったことが嬉しい』と言われました。興行収入には表れない大事なものに気づいた瞬間でした」(粉川さん)

ウクライナからの避難民で、日本で声優を目指していた男性をキャスティングするといった工夫も注目度を後押しして、最終的には日本の映画マーケットで成功を収めた。
作り手を純粋に応援し、行動し続ける粉川さんが、映画業界の未来を切り拓いていく。

 

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