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三度目の総理も視野に? 安倍元首相が成し遂げたかったこと

2023年07月31日 公開

青山和弘(政治ジャーナリスト)

 

「公明党は衰退していく政党だ」

一方、組織力の衰えが隠せないのが公明党だ。2022年参院選の比例代表の得票数は618万票と、非拘束名簿式になった2001年以降で最低となった。目標としていた800万票には遠く及ばず、2021年の衆院選より100万票近く減らしたのだ。

新型コロナウイルスの感染拡大による日常活動の制限や旧統一教会問題の影響もある。しかし最も深刻な構造問題が学会員の高齢化だ。創価学会関係者は語る。

「600万票を割り込むのも時間の問題だろう。創価学会と政治との関わりも変質していく可能性もある」

そんな公明党の現状を、「自民党一の切れ者」という評価もある茂木敏充幹事長が見抜かないわけがない。

かねてから「公明党は衰退していく政党だ」と周囲に語り、「公明党には譲りすぎだ」というのが持論だ。

広島三区の候補者調整やコロナ給付金で煮え湯を飲まされた岸田文雄や、地元で支援を受けていない党副総裁の麻生太郎も公明党には冷淡だ。

このように政権中枢と溝がある状況で、長い連立で溜まった不満のマグマが爆発するのは時間の問題だった。

こうしたなかで自民党内には「もう自公連立も潮時だろう」という冷ややかな声も出ている。

しかし話はそう簡単ではない。岸田総理は次期衆院選で勝利すれば、憲法改正に向けた動きを本格化させたいと考えているからだ。最近も周囲に「私はハト派でない。リアリストだ」と意欲を見せている。

外務大臣だった2014年にも岸田はこう語っていた。

「安倍さんのような、いかにも保守派の人物より、私のような政治家のほうが憲法改正はやりやすいのだと思います」

憲法改正の動きが具体化すれば、来年9月の自民党総裁選での再選に向けて大きな推進力になるという思惑もある。

しかし衆院選で、もし維新が野党第一党になり公明党の退潮がさらに進めば、自民党内に維新との関係を重視しようという動きが出かねない。そうすると自公関係はますます難しくなっていく。

それでも公明党を引き寄せるためには、公明党との信頼関係を築けていない現執行部の刷新は必須となるだろう。

幹事長候補としては菅前総理に近く、仕事師として岸田が評価する森山裕選対委員長や、自公連立政権の生みの親、小渕元総理を父にもつ小渕優子元経産相などの名前が挙がっている。

さらに安倍晋三死去の影響は自民党内に軋みを生んでいる。安倍が育てた党内保守派のコントロールが難しくなっているのだ。

防衛費増額のための増税や通常国会で成立したLGBT理解増進法に対する対応では、党内対立が表面化した。

憲法改正の中身や増税問題などさまざまな局面で、今後も党内がガタつく懸念がある。安倍派幹部は周囲にこぼしている。

「安倍さんは保守派の棟梁だったが、抑え役でもあった。安倍さんが亡くなってから突き上げが激しくなって、派内はガタガタになってしまった」

 

安倍の描いた画図に乗る岸田

2022年6月16日、安倍が本格的な参院選応援に入る前に、私は安倍にインタビューすることになった。すっかり顔色も良くなった安倍に三度目の総理大臣への意欲を尋ねると、笑顔でこう答えた。

「十分長くやりました。ただ憲法改正という大きな事業について、残念ながら成し遂げられなかった。一議員にはなりましたけども初めて議員になったときからの大きな目標ですから、何とか成し遂げたいなと思ってます」

私は言葉の雰囲気からも、安倍が三度目の総理大臣を視野に入れているのではないかと感じた。しかしそれから1カ月も経たないうちに安倍は帰らぬ人となり、図らずも最後のロングインタビューとなった。

安倍の死後、岸田政権は突如羅針盤を失ったかのように荒波にもまれ始めた。国葬儀や旧統一教会を巡る問題で内閣支持率はみるみる降下した。

閣僚のスキャンダルや国会対応の杜撰さで、政権はダッチロールを始めた。そして沈没寸前かと見られた昨年11月、岸田総理は突如開き直って突き進みだした。

側近の寺田稔総務大臣を更迭し、強引に旧統一教会被害者救済法の成立を図ると、防衛増税、原発政策の転換、そして異次元の少子化対策と、根回しもそこそこに大きな政策を打ち出した。

そこから内閣支持率は反転を始め、政権を取り巻く環境はかなり改善した。現在はマイナンバーカードを巡る問題などによって内閣支持率は再び下落しているが、岸田はこの勢いを維持して秋にも解散総選挙に打って出て、長期政権を築いていくのか。

そして安倍が願っても果たせなかった憲法改正という大望を、岸田が成し遂げるのだろうか。

それとも公明党の離反による政権の弱体化、維新との保守層の奪い合い、立憲などリベラル野党からの激しい抵抗、加えて自民党内保守派からの反発に見舞われて再び混迷を深めていくのだろうか。

岸田は6月解散を見送ったことで、次のタイミング探しが非常に難しくなる可能性もある。安倍が遺したもの、そして時代の大きなうねりに飲み込まれながら、岸田丸は海図のない荒海を突き進んでいくことになる。〈文中敬称略〉

 

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