【谷口】今後の日本について私が懸念しているのは、コロナ下のあいだに覆い隠されてきた問題が、ふたたび前景化するのではないか、ということです。
いま日本が直面している大きな問題は、結局のところ超高齢化と人口減少の2つに集約できるでしょう。ほかの問題は従属変数にすぎません。
だからこそ、人が集まる場所としてのスナックの存在には大きな意味があるはずで、高齢化した地域におけるコミュニティとして長く残るのではないでしょうか。とくに定年などで仕事をリタイアした人にとって、知り合いと話せる場所があることは、人間として生活していくうえでかなり重要です。
【若田部】裏を返せば、現在の日本は誰かと他愛のない世間話をする場所が少ないということでしょう。
【谷口】そうなんです。じつは若い人もそうした人との交わりを好む傾向にあって、今年4月には国立(東京都)で「スナック水中」を営む坂根千里さんがノンフィクション番組「ザ・ノンフィクション」(フジテレビ系列)で「新卒Z世代スナックのママ」として取り上げられました。
同店には先日、私も足を運びましたが、60歳を超える方から学生まで多様な人が来店していて上手く混ざっていました。店員はTシャツを着て接客するなど新しいスタイルで、私は昔ながらの水商売としてのスナックを贔屓にする人間ですが(笑)、若い世代の真剣なチャレンジは心から応援したい。
そのほかにも、拙著でも紹介した地域貢献型の「街中スナック」など、各地で新しい取り組みが行なわれています。
繰り返すようですが、コロナ下ではそうしたスナックをはじめ多くの飲食店が閉店などに追い込まれたわけですから、社会にとって大きな損失です。飲食業自体が不安定な仕事ではあるものの、それを加味してもコロナ下前には7万軒あったスナックが2、3万軒減ったことは尋常ではありません。
もちろん、新規参入のハードルが低い業界ですから、コロナ下で開店して見事に成功している方もいるなど、一概には言えないのですが。
【若田部】ある調査では、衛星データで見た2022年の東京の「夜の街」の光量は、コロナ下前よりも一割少なかったといいます。パリやロンドンなど世界の主要都市はすでに復活しているにもかかわらず、です。
その街の光量と経済活動には相関関係があって、権威主義的体制の国では実質GDP成長率などの公式統計よりも信頼できるとの見方もある。私はコロナ下前の消費増税の影響もあると考えていますが、いずれにせよ、東京の夜に人が戻りきっていないことはたしかです。
その事実から目を背けることなく、わが国固有の公共圏とも言えるスナックや「夜の街」を、時代の変化とともにどう守り続けていくのか。そのためには、政府も日本銀行もここから先の経済回復をしっかりと支えていくべきでしょう。
更新:11月24日 00:05