2011年01月19日 公開
2024年12月16日 更新
1月8日、政府・与党はスポーツ基本法案を通常国会に提出する方針を固めました。スポーツ基本法とは、スポーツ政策の基本理念を定め、国や地方、スポーツ団体の役割などを定めた法律のことをいいます。この法案の中に、スポーツ分野を所管するスポーツ庁の創設が盛り込まれる予定です。スポーツ庁の創設は、今後のスポーツ政策にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
これまでのスポーツ政策は、1961年に施行されたスポーツ振興法に基づいて行われてきました。この法律は、東京オリンピックの開催に合わせて施行されたものです。ところが半世紀を経て、今日の政策課題を検討するのに、スポーツ振興法の内容が適切ではなくなってきました。例えば、諸外国ではすでに議論されているスポーツ権の保障について触れられていません。スポーツ権とは、すべての人がスポーツを行うことができる権利のことです。健康増進のために高齢者がスポーツを楽しむことや、障害者が競技スポーツを行うことは今日では当たり前です。しかし、スポーツ振興法には高齢者や障害者に関する記述がないことから、わが国のスポーツ政策は体系性に乏しい側面があります。
実際、スポーツ政策を実施する省庁は複数に分かれており、縦割り行政の弊害が生じています。例えば、ナショナルトレーニングセンターは日本屈指のスポーツ設備を備えています。利用者は競技スポーツ選手を対象としており、オリンピックの日本代表選手などが利用できます。
ところがパラリンピックの代表選手は、この施設を使用することができません。オリンピックとパラリンピックで所管省庁が違うからです。オリンピックの所管省庁は文部科学省であり、パラリンピックの所管省庁は厚生労働省なのです。ナショナルトレーニングセンターは五輪代表選手を対象に文部科学省主導で整備されたため、同じ日本代表選手でもパラリンピックの選手は基本的に利用対象外になっています。このような縦割り行政への対応策として、スポーツ庁は各省庁のスポーツに関する部門を一元化することが期待されます。
なお、民主党はスポーツ基本法の制定を政策集で明記しています。自民党も先の参議院選挙マニフェストで、「スポーツを国家戦略として推進するため、『スポーツ基本法』を制定し、スポーツ庁、スポーツ担当大臣を新設します」と記しています。このため、スポーツ基本法の制定やスポーツ庁の設置は、超党派で概ね合意ができており、ねじれ国会でも法案が成立する可能性が高いのです。
スポーツ庁の創設にあたっては、各省庁のスポーツ行政に関する部門を効果的かつ効率的に統合する必要があります。スポーツ庁が設置されても、内部が縦割りでは意味がありません。また、新たな省庁の創設が中央政府の肥大化を招く恐れもあります。行政組織のスリム化のため、2001年に省庁再編が行われました。ところがその後、2008年に観光庁、2009年には消費者庁が相次いで創設されています。厳しい財政運営に配慮して、スポーツ庁設置による歳出拡大は回避すべきです。
さらにスポーツ庁の創設は、地域主権の観点から検討することも重要です。2010年8月に文部科学省が発表した「スポーツ立国戦略」では、広域市町村圏(全国300か所程度)を目安として、地域のスポーツ振興を図る計画が示されています。このため、地域特性を生かした振興策が行えるように、スポーツ政策における国と地方の役割分担を明確にしておくべきです。
スポーツ庁の創設が今後のスポーツ政策を左右するといっても過言ではありません。スポーツ基本法の審議の行方に注視していく必要があるといえます。
(2011年1月17日掲載。*無断転載禁止)
更新:12月28日 00:05