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「社会保障・税一体改革」で加速する財政の硬直化

2012年03月28日 公開
2023年09月15日 更新

宮下量久(政策シンクタンクPHP総研研究員)

宮下量久

 民主党は社会保障・税一体改革(以下、一体改革)の合同会議を開き、消費増税関連法案の修正を議論してきた。法案には、「増税は経済好転が条件」「歳入庁の創設」「低所得者対策として給付付き税額控除」などが追加される予定である。ただ、増税を回避する景気数値目標の記述に党内論議が集中するあまり、十分検討されなかった課題もあるのではないか。

 政府の一体改革案では消費増税の全額を社会保障に充てることになっている。消費税率5%の引上げにより、歳入は13.5兆円ほど増収の見込みである。増税で得られた財源は、社会保障の充実に2.7兆円(消費税収の1%程度)と、社会保障の安定化に10.8兆円(消費税収の4%程度)に割り当てられる。前者には待機児童解消、医療介護サービスの充実、低所得者対策などがあり、後者には年金の国庫負担、高齢化で増加する社会保障への対応、赤字国債等で賄っている財源への充当などがある。

 政府が消費増税の使い道を社会保障に限定する理由は、増税について国民の支持を得たいからだろう。確かに、増税の目的を明確にすることは財政の透明性を確保し、一体改革に対する国民的理解を深めるかもしれない。しかし、消費増税の社会保障財源化は財政の硬直化を招く。仮に、新たな災害が起きても、消費増税から得た財源を復興予算には転用できないのである。

 もっとも、現行の財政運営も柔軟性を欠いている。社会保障費や人件費などは、支出を制度で定めた義務的経費と呼ばれる。義務的経費の見直しは制度変更を伴うため、迅速には行えない。この点は、公務員の給与改定に難航した政府の対応を見れば明らかだろう。一般歳出のうち、義務的経費は7割以上を占める。義務的経費の割合が大きくなれば、社会情勢に応じた財政運営は難しくなる。

 一体改革は、消費増税の使途を限定させるばかりか、社会保障費などの義務的経費を増やすため、財政の硬直化が加速するだろう。結果的に、政府は予算決定の裁量性を損なう恐れがある。政府が一体改革を推進しつつ、財政の柔軟性を確保するには、2つの方策を講じなければならない。まず、歳出に占める義務的経費の割合を縮小させる必要がある。特に、社会保障費の膨張を抑制することは、財政の持続可能性を考慮しても不可避である。一体改革で示されている社会保障の充実に2.7兆円も必要であろうか。例えば、政府は低所得者の国保・介護保険料軽減などで約1兆円の歳出増加を見込んでいるが、過剰な低所得者対策は自助努力を阻害する面もあることに留意する必要がある。次に、消費増税以外で税収を増やすことが求められる。それができれば、政府は社会保障以外の分野で使用可能な財源を確保することになり、臨機応変な財政出動も行えるだろう。景気への影響を勘案すれば、消費増税以外の追加増税は困難であるため、経済成長の実現による税収増加が望ましいといえる。消費増税の国民負担を軽減するためにも、政府には積極的な成長戦略の推進が求められる。

 政府与党は、社会保障費の見直しと経済成長の実現により、国民の多様なニーズを柔軟に反映できる財政の将来像を描くべきである。

 

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