2022年03月16日 公開
――小松先生のお話をうかがっていると、日本の民俗学的な伝統が現代の大衆文化に与えている影響の大きさを痛感します。現代のエンタメ作品が日本文化の醸成に寄与している側面もあるでしょう。
【小松】そうですね。たとえば、呪術に関連した作品の多くで登場する「安倍晴明」や「陰陽師」といった言葉の意味や背景を少し知っているだけでも、世界観に入り込みやすいはずです。
夢枕獏さんの小説『陰陽師』(文春文庫)では、安倍晴明が式神を操る際、「呪(しゅ)」という呪術を使っています。漢字は「呪術」の「呪(じゅ)」や「呪(のろい)」であり、それらと似ているけれども別の概念として用いているのが面白い。呪文を唱えるという意味では「アブラカダブラ」でも何でも良いのですが、一見すると「呪術」を連想する伝統的な言葉にみえて、オリジナルの言葉を生み出している点が画期的です。
――関連した分野の複数の作品を見比べれば、それぞれの作品への理解がさらに深まるでしょうね。
【小松】『鬼滅』や『呪術』といった最近の作品と、『ゲゲゲの鬼太郎』のような一昔前の代表作と比較するのもよいでしょう。三つの作品はいずれも、鬼、呪霊、妖怪という異界の存在を題材にしています。
あえていえば私は、いまのところ『鬼滅』よりも『呪術』のほうが『鬼太郎』的な世界観だと感じました。なぜかといえば、『呪術』も『鬼太郎』も一つの大きな世界観で完結しているからです。
『呪術』は主人公側の呪術師と敵側の呪詛師(自身の欲望や快楽のために呪術を使って人びとを呪い、殺害する者)という区分けはあるものの、基本的には呪術を使う者たちの世界が描かれています。一方の『鬼太郎』でも、あくまで妖怪たちの世界のなかで「良い妖怪」と「悪い妖怪」が対峙しています。
他方で『鬼滅』に目を向けると、主人公の炭治郎たち「鬼殺隊」側と、それを滅ぼそうとする鬼側の二つの世界の対立という構造で展開されている。もちろん、私は『呪術』はまだアニメ放送の内容までしか観ていないので、今後思わぬかたちで物語が進んでいくかもしれません。どういうふうに物語が展開していくのか、引き続き楽しみにしたいと思います。
更新:12月04日 00:05