2021年02月12日 公開
2022年10月20日 更新
妖怪研究の第一人者で、国際日本文化研究センター名誉教授・元所長の小松和彦氏は、日本学術会議を巡る政府の対応に疑義を呈したうえで、「学問の世界における同調圧力を助長しかねない」と指摘。
さらに妖怪研究は長年蔑まれてきたが、いまや『妖怪ウォッチ』や『鬼滅の刃』といった大ヒット作にも影響を与えているという。民俗学研究から現代エンタメへ、日本人が連綿と継承してきたものとは。(聞き手:Voice編集部・中西史也)
※本稿は『Voice』2021年3⽉号より⼀部抜粋・編集したものです。
――新型コロナの感染症対策はもとより、日本学術会議を巡る問題によって、政治と学問の関係にも注目が集まりました。両者の相克をいかがお考えですか。
【小松】日本学術会議については、政府は6名の研究者の任命を拒否した理由を国民に説明するべきです。政権に都合が悪いからといって、訳もなく専門家を排除したのであれば、それこそ学問の世界における同調圧力を助長しかねない。
そもそも学者の研究内容は専門的見地をもつ者が評価すべきで、政治家が立ち入るべきではありません。もし学術会議の体制自体に問題があるならば、任命拒否とは別に議論をすればよいのです。
コロナ対策も同様で、政府は多様な考え方のなかからベストな選択を模索しなければなりません。日本にとってより良い政策決定を行なうためには、ときには政権にとって耳の痛い意見も聴く必要があります。
そのなかにはイデオロギーの右も左も真ん中もあって構わない。政権が一つの考えに固執して他の提言を排除していけば、自滅の道を辿るかもしれません。
――小松先生の専門である妖怪の研究もかつては民俗学における本流ではありませんでしたが、存在感を高めてきました。
【小松】私が研究を始めたころは「妖怪は迷信にすぎない。もっと高尚な研究をすべき」といわれることもありました。しかし妖怪や鬼における学問の礎があるからこそ、『妖怪ウォッチ』や『鬼滅の刃』といった大ヒット作の深淵に迫ることができます。
原作者がどこまで意識しているかはわかりませんが、過去の学術研究が作品に活かされている面もあるでしょう。
妖怪研究と同様に、漫画やアニメが蔑まれる時代もありました。しかし、それらはいまや日本を代表するコンテンツであり、文化です。また、たとえ現在は注目されていなくても、日本の将来をつくる題材が眠っているかもしれない。
一見何の役に立つのかわからない学問でも、真っ当な学者であれば当然、世の中の役に立つための矜持をもって研究に取り組んでいることでしょう。
更新:11月22日 00:05