2022年01月21日 公開
そもそも、「あらゆるテクノロジー的成果を利用する」というのは、何が考えられているのだろうか。
彼らがとりわけ注目しているのは、ロボットやAIも含めた機械の進化によって人間が労働から解放されることだ。これを彼らは、「ポスト労働の世界」と呼んでいる。しかし、ロボットやAIの進化は通常、人間から仕事を奪い、失業させるリスクを高める、と見なされているのではないだろうか。
それに対して、スルニチェクとウィリアムズは、むしろ新たな社会を形成するチャンスと捉えるのである。人間の代わりに、機械(ロボットやAI)が作動し、しかも今まで以上の生産力を生み出すのであれば、むしろ望ましいではないか。その分、人間は労働しなくてもよくなるからだ。人間の代わりに機械が働いてくれる。
このように、労働しなくても、今と同じ、あるいはもっと快適な生活ができるとすれば、「労働なき世界」を批判したり憂慮したりする必要はないだろう。
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〔機械の導入による〕自動化とともに、機械がすべての財やサービスをますます生み出すようになり、そうしたものを作り出す労苦から人類を解放するのである。
(スルニチェク、ウィリアムズ『未来を発明する』/〔 〕は筆者補足部分)
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こうした見方は、今までの機械(ロボット・AI)に対する見方を、根本から変えてくれるだろう。機械が導入されればされるほど、人間の生活は楽になるのである。
もちろん、機械化によって望ましい世界が広がるかどうかは、社会変革を起こせるかどうかにかかっている。現状の資本主義のままで、機械化が進むのであれば、労働者たちは失業し、生活の糧が奪われてしまう。機械脅威論が警告しているのは、まさにこの事態である。
そこで必要になるのが、次のような方針である。
1.完全な自動化
2.労働時間の削減
3.ベーシック・インカムの整備
4.労働倫理の衰退
これを見て分かるのは、ポイントになるのは、「ベーシック・インカム」である。これは、「就労や資産の有無にかかわらず、すべての個人に対して生活に最低限必要なお金を無条件に付与する制度」で、その起源は、16世紀にトマス・モアが『ユートピア』の中で提示したものだ。
ベーシック・インカムが整備されていれば、機械が導入され仕事が奪われたとしても、生活の心配はなくなる。それどころか、朝から晩まで働いていた時間を他に向けることができるだろう。
しかし、労働は大切なものであり、労働がなくなれば、人間は堕落してしまうのではないか、という意見もあるだろう。こうした労働倫理は、すぐさま消滅するわけではない。そこで、次のように語られる。
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必要なことは、労働に対する反・ヘゲモニー的アプローチである。つまり、労働の必要性と望ましさといった考え、そして苦役に対する報酬といった考え、こうした現代社会に存在する考えを克服するプロジェクトが、必要なのだ。 (同書)
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このように見れば、左派加速主義が「ポスト資本主義」としていかなる世界を構想しているのか、理解できるだろう。AIやロボット工学が発展し、人間の代わりに機械が仕事をする世界、こうして人間はもはや労働しなくても生活できるようになる。収入に関しては、ベーシック・インカムが採用され、人間は苦役としての仕事をしなくてもよくなる。これは「素晴らしい新世界」と呼ぶことができるだろうか。
更新:11月22日 00:05