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「躍進の維新」と「惨敗の立憲民主」の決定的な差

2022年01月25日 公開

逢坂巌(駒澤大学法学部准教授/駒澤大学ジャーナリズム・政策研究所所長)

 

立民と維新の成否を分けた差

これに対して、立民の選挙広報はアメリカで流行のマイクロ・ターゲティングでも意識したのか、細かく、そして総花的であった。たとえば、高市早苗が立候補を匂わせるなど自民党総裁選が盛り上がりつつあった9月7日、立民は総選挙に向けてのキャンペーン「#政権取ってこれをやる」を開始する。

枝野はキャンペーン初日に記者会見を開き、政権公約の第1弾として、(1) 30兆円の補正予算の編成、(2)新型コロナ対策司令塔の設置、(3)2022年度の予算編成の見直し、(4)日本学術会議人事で任命拒否された6名の任命、(5)ウィシュマさん死亡事件における監視カメラ映像ならびに関係資料の公開、(6)赤木ファイル関連文書の開示、 (7)森友・加計・桜問題真相解明チームの設置の7項目を発表した。

これらは「政権発足後、初閣議で直ちに決定する事項」であるとするものの、政権交代を狙うとする野党第一党のキックオフメッセージとしては、バランスが悪い。Twitter上でもすぐに「4,6,7はどうでもいいよ。国防は?」などというリプライがなされていた。

また、立民が展開したYouTube上での「この国に生きるすべてのあなたへ 枝野幸男が送る100のメッセージ」キャンペーン。これは「飲食店で働くあなたへ」「仕事がなく地元を離れたあなたへ」「生活保護を受けるか迷っているあなたへ」などなど有権者(「あなた」)を109に分けて、それぞれに枝野が短い動画メッセージを展開するものだが、再生回数は2,000未満が83%と(その労力に比して)有効に機能したかは大変に疑わしい。

立憲民主党YouTubeキャンペーン「この国に生きるすべてのあなたへ」の再生回数

これに対して維新の広報はシンプルかつ攻撃的だった。

衆院選の公示前日、日本記者クラブが主催した党首討論会で、維新代表の松井一郎は一番訴えたいこととして、次のように述べた。「日本はこの30年成長しておりません。その原因は、 日本の社会構造が変化する中で、日本の行政制度、規制については昭和のままであることです。分配のためには成長が必要で、その成長を実現するためには改革をしなければなりません」。

維新の総選挙のキャッチフレーズは「身を斬る改革、実行中。」、大阪で「改革」を実行してきたとアピールしつつ、選挙期間中は一貫した広報を展開した。

NHKでも中継されたこの日本記者クラブの党首討論会では、党首同士が議論する仕組みも設けられ、各党首は他の党首に2回質問ができた。多くの質問が自民党の岸田になされ、松井も1巡目では岸田を指名しコロナ対策について「私のように地元のことを知っている市町村町に任せるべきだ」と主張し、2巡目では立民の枝野に「共産党は日米防衛破棄、自衛隊は違憲と主張しているが、ここを誤魔化したまま選挙協力するは有権者へのごまかしであり無責任」と質問をする。

この立民と共産との共闘については「立憲共産党」などの言葉がネット上でも飛び交ったが、討論会において岸田や山口那津男(公明党)が「経済政策」や「政権選択の枠組み」といったややオブラートに包んで枝野へ質問していたのに対し、松井はストレートである。

枝野は「共産党の理念に反するからといって日米同盟反対とは言わないことを約束している」と弁明するが、松井は「上手にごまかされた答弁だと思います」と切り捨てる。この「立憲共産党」のレッテル貼りは、共産が政権交代を声高に唱えるなか、選挙期間中も立民を苦しめることなる。

もちろん維新の役者は松井だけではない。副代表の吉村は街頭演説で「若い世代がチャレンジできるような社会にしないといけません。そのためにやっぱり改革が必要です」と世代と改革を連動させる(2021年10月25日、東京大演説会)。安倍政権に対抗する中で、最大野党の民主党は左に舵を切ったが、その中で改革を求める人々や若い世代は支持から離れていった。

労働組合も正規雇用者を守る既得権益者とされ、リベラルが保守であるとするねじれも起こっていた。今回の総裁選では、岸田も新自由主義を批判し分配を強調することで、改革志向者や若い世代は支持先を失ったが、そこに維新はすぽっとはまった。維新が行う共産党への批判も、民主党から票を奪うことになったのだろう(岸田は、選挙期間中に「改革も大事」と、一部主張を修正した)。

以上、組織と広報という2つのメディアの観点から、立民と維新の政治コミュニケーションを概観した。最後に両党へのアドバイスを贈りたい。

まず立民は組織・広報のいずれのメディアにおいても、2000年代の思考から進めていない感がある。広報に真剣に取り組むのはもちろんのこと、地方議員や党員という自前のメディアを成長させることがやはり必要となるだろう。

一方、維新は組織と広報の2つのメディアを組み合わせて成長してきたのが新しい。これから全国政党として成長するかが問われることになるが、懸念されるのは政策の中身である。「改革」とはいうものの、議員や公務員の「特権」叩きや「規制緩和が必要」というばかりで、具体的なことがよく伝わってこない。

「みんな維新」で「大阪は素晴らしくなった」というのだが、コロナ禍で最も死者が出たのも大阪である。一部の世論調査ではすでに立民を抜いている維新が、本当に責任ある野党となれるのか、メディアの中身、政策の内容が問われることになる。

一方、広報面でも宣伝パーソンとしての松井・吉村の全国レベルでの訴求力も試されるだろう。大阪の厳しい現実とそれに対する人びとのさまざまな感情を背景に人気が出た看板役者とその一座が、東京はじめ他の場所でもウケるのか。お江戸の看板役者の「緑のたぬき」や「青手帳の男」とどのように組み合っていくのか。それぞれの動向が気になる今夏の大興行である。

〈文中、敬称略〉

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