――2022年1月9日(日)には、アニメの「The Final Season Part 2」の放送が開始します。これまで放送されたアニメシリーズで印象深いシーンはどこでしょうか。
【古坂】いやー、それは酷な質問ですね(笑)。いっぱいあって選ぶのが難しいのですが、今日は二つだけ紹介させてください。
一つはアニメSeason3で、巨人の正体が明かされた場面です。このとき、パラディ島(主人公のエレンたちが住む島)で人類を脅かし続けてきた巨人が、じつは海を隔てた大国・マーレで迫害され、特別な注射で巨人化された同胞だったとわかりました。
この謎が明かされただけでも衝撃的ですが、加えてエレンの母親を食べた巨人が鍵を握る存在だとわかったときに、僕は度肝を抜かれました。何年も張っていた伏線をこう回収してくるか、と。なんといっても、エレンの母親が食べられたのは、物語の最初の話ですから。
――巧みな伏線の回収は、根強い「進撃ファン」を生む理由の一つでもあるでしょう。
【古坂】もう一つの場面は同じくアニメSeason3で、調査兵団(巨人と戦う人間の組織)が「獣の巨人」に立ち向かう前に、エルヴィン(・スミス、調査兵団団長)が兵士に向かって演説するシーンです。
「人はいずれ死ぬ。ならば人生には意味がないのか?死んだ仲間もそうなのか?あの兵士たちも、無意味だったのか?いや違う‼あの兵士に意味を与えるのは我々だ‼あの勇敢な死者を‼哀れな死者を‼想うことができるのは生者である我々だ‼我々はここで死に、次の生者に意味を託す‼」
いま思い出しても、胸が熱くなる言葉です。この演説後に、調査兵団の新兵たちは獣の巨人に突進します。僕はシーンから先の大戦の特攻隊を想起しましたが、同じように感じた日本人は少なくないはずです。特攻は悲しい史実です。
でも、当時の人びとの生き様に意味を与えるのは、後世を生きる僕たちではないでしょうか。この演説の場面は漫画を読んだときからお気に入りでしたが、アニメではエルヴィンの声優を務めた小野大輔さんの演技が素晴らしくて、期待をさらに超えてきました。
――まもなく放送されるTVアニメ「『進撃の巨人』The Final Season Part 2」で楽しみにしている部分はどこでしょうか。
【古坂】物語としては、ハッピーエンドでもバッドエンドでもないような、あえて「煮え切らない」終わり方をしてほしいですね。一ファンとしての勝手な意見を言えば、映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』みたいに、「なんだよこれ……」とまた一から観たくなるような結末がいいなあ。
あとアニメならではの要素では、やはり映像がどうなるかは気になりますし、主題歌にも注目したいですね。「The Final Season Part 1」の主題歌『僕の戦争』は、歌い手の「神聖かまってちゃん」が『進撃』をリスペクトしてつくった曲で、さすがのクオリティでした。また、アニメSeason3では12話(第49話)「奪還作戦の夜」の特殊エンディングがファンの間で話題を呼びましたが、こうした演出や仕掛けも楽しみです。
――『進撃の巨人』は巨大な脅威が人類に突如襲いかかるという物語から、一時期、ファンの間では東日本大震災(2011年3月11日)と重ねて考察されました。そして現在では「壁に閉ざされた人類」という意味で、コロナ禍と比較する向きもあるようです。
【古坂】『進撃』が「壁」を描いた意味は、僕も大きいと考えています。というのも、日本人にとっては海という物理的な壁が存在しますよね。今回、そこに新型コロナウイルスという「未知の脅威」が入ってきたわけです。これは『進撃』の作中で、壁の内部に巨人が侵入してくる恐怖と通じるのではないでしょうか。
また、『進撃』で主人公のエレンに巨人の力があるとわかったときに周りの人の恐怖が連鎖していく様は、コロナ禍での同調圧力とも重なります。同調圧力はどの国にも少なからず存在するでしょうが、日本ではとくに顕著だとも言われますよね。その意味でも、『進撃』は日本人にとって特別な意味をもつ作品だと思います。
――エレンの親友であるアルミン(・アルレルト)の「百年壁が壊されなかったからと言って、今日壊されない保証なんか、どこにもないのに」という言葉は、長年平和を享受している戦後日本の状況とリンクしているように思います。
【古坂】島国に生きる僕たちは、どうしても外から敵が攻めてくる現実味を感じにくいですからね。このように、いろいろな考察ができるのも『進撃』の大きな魅力でしょう。原作者の諫山さんは意外と「そこまで考えていませんでした」とおっしゃるかもしれませんが(笑)。
©諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会
更新:11月23日 00:05