2021年01月13日 公開
2023年04月12日 更新
興行収入歴代1位を記録している『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。同作の主題歌であり、「第62回 日本レコード大賞」を受賞した「炎(ほむら)」の作詞・作曲・編曲を手掛けた梶浦由記氏は、この映画は「日本のアニメの魅力が凝縮された作品」だという。
「鬼滅の刃」の特徴、そして「炎」を歌うLiSAの底力について語る。
聞き手:Voice編集部・中西史也
※本稿は『Voice』2021年2⽉号より⼀部抜粋・編集したものです。
――梶浦さんが音楽を担当した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、空前の大ヒットを記録しています。映画をご覧になっていかがでしたか。
【梶浦】日本のアニメがもつ最上級の技術を詰め込んだ作品だと思いました。吾峠呼世晴さんの原作が素晴らしいことに加えて、映画での作画や演出のクオリティが凄まじい。
原作とテレビアニメがすでに話題になっていた「鬼滅の刃」の劇場版ですから、ヒットが期待されていた映画ともいえます。
こうしたすべての要素が揃ったからこそ、多くの人に見ていただけたのではないでしょうか。日本のアニメの魅力が凝縮された本作は、好みを超えて観る価値があると思う映画です。
――梶浦さんは、主題歌「炎」の作曲・編曲を手掛け、ピアノの演奏もしています。作詞は、歌い手のLiSAさんと共同でされたそうですね。
【梶浦】はい。LiSAさんにとって「鬼滅の刃」は思い入れの強い作品で、とくに今回の「無限列車編」がお気に入りのエピソードだそうです。どのように歌いたいかという思いを事前に手紙で頂いていたので、私一人よりも、LiSAさんと共同で作詞したほうがいいのではないかと思ったんです。
私は歌を制作するとき、何よりも歌い手に愛してもらえる曲になることを願っています。作詞家や作曲家は曲をつくれば仕事の95%は終わったようなものですが、歌い手はその後も何十年とその曲と付き合っていきます。もしもですが、そのときに曲に愛着をもっていないのは辛いことです。
だから今回は、私が全体の歌詞を書いてからLiSAさんに渡して、「歌いたい言葉をこのうえに盛り込んでください。好きなように変えてもらって構いません」と伝えました。
――どういう点を意識して歌詞を書いたのでしょう。
【梶浦】「無限列車編」は、大切な人を失って見送る物語でもあります。私にとって人を亡くすことはとても辛いことで、当初は悲しみや心残りの感情を強調しすぎてしまったんです。
でもこの作品はお子さんを含む老若男女が観る映画ですから、もっと前向きな歌詞にしなければ、と悩みながら書いていました。そこにLiSAさんが素敵な言葉を加えてくださり、結果的に、この映画に相応しい曲になったかなと思っています。
――梶浦さん自身は、原作の内容を曲にどこまで反映したいという思いはあったのですか。
【梶浦】それは本当に難しい部分でしたね。私とLiSAさんだけでも「無限列車編」に対する捉え方が違うように、映画を観て悲しみに浸る人もいれば、勇気をもらったと感じる人もいるでしょう。作品の捉え方や好きな場面・キャラクターは人それぞれです。
だから歌詞をあまり具体的に書いてしまうと、そこに心を動かされない人には思いが届かない。映画のエンディングでは、どんな気持ちで観終わった方にもスッと入ってくるような、俯瞰した感覚を残すようにしています。
――同作をすでに5回観ましたが、毎回、物語の終わりとともに流れる「炎」を聴いてマスクを濡らしてしまいます……。
【梶浦】5回も! ありがとうございます(笑)。映画をご覧になった方の心に響くことが何よりの喜びです。
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更新:11月22日 00:05