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中国がタリバンに接近する理由とは? 最大の脅威「新疆ウイグル」との関係

2021年12月26日 公開
2021年12月27日 更新

佐藤和孝(ジャーナリスト)

 

中国人のアルカイダと会う

新疆ウイグル自治区から来たアルカイダの戦士たち
新疆ウイグル自治区から来たアルカイダの戦士たち

タリバンに対する中国の接近ぶりが近年、報じられている。中国は暫定政権樹立前の2021年7月に、タリバンの代表団を招待した。

カブール陥落後は暫定政権の樹立を「必要なステップ」とし、王毅外相は300万回分の新型コロナウイルスワクチンの提供を表明した。接近の理由は簡単で、ウイグル対策である。

新疆ウイグル自治区におけるウイグル族の人口は1000万人を超えており、中国共産党にとって大きな脅威である。ウイグル族はイスラム教徒であり、もしウイグル族の武装勢力がアフガニスタンを経由して中国の新疆ウイグル自治区に侵攻してきたら、甚大な損害を受けることが予想される。

2000年、パンジシェールを取材した折に戦争捕虜収容所を訪れる機会を得ることができた。深い渓谷に切れ込んだ険しい石ころだらけの斜面を一時間以上登ると、石積みの建物が岩肌に溶け込むように立っていた。

看守の案内で鉄格子の小窓のついた扉を開けると、5、6人のアジア系の顔をした男たちが囚われていた。看守が「中国人のアルカイダだ」と男たちに向けて顎をしゃくった。どこから来たかを尋ねると、ウイグルだとの答えが返ってきた。中国が支配する新疆ウイグル自治区から来た若者たちである。

「我々がここに来たのは、アルカイダから戦闘訓練を受け、故郷に戻り中国と戦うためだ」

彼らは、中国共産党にとってはテロリストだが、ウイグル族にとっては解放闘争の英雄と映っているかもしれない。

 

中国共産党のアキレス腱は新疆ウイグル自治区にあり

中国がパキスタンと友好関係を築いているのも、同じ理由だ。中国とパキスタンの国境に位置するクンジュラブ峠を越えればすぐ、新疆ウイグル自治区である。パキスタンがイスラムの革命的原理主義者の後背地、出撃地にならないように外交でコントロールをしている。

統制はメディアにも及んでおり、以前、パキスタンでCNNを見ていて、民族関連のニュースになった途端にビーッと雑音が入り、一瞬で画面が消えてしまったことがある。ということは、裏を返せば中国共産党の弱点は新疆ウイグル自治区にある、ということだ。

相手のアキレス腱が明らかなのだから、日本が中国を脅威と見なしているのであれば、新疆ウイグルに上手に手を突っ込む。最低でも、現地の情報を継続的に取る。なぜ、そういう考え方をしないのだろう。中国を揺さぶる格好の材料ではないか。

他方、ロシアの動きは一つの焦点である。アフガニスタンの鉱物資源についてはソ連時代から話題に上っており、中国も交えて近年、レアメタル(希少金属)をめぐる資源争奪の動きが浮上している。

プーチン政権のロシアにいまのところ目立った動きがないのは輸送コストや妨害のリスクを計ってのことだろうが、仮に鉱物資源を手に入れたとしても、利潤を上げるところまでは至らない気がする。

2014年、ロシアがウクライナのクリミアに電撃侵攻したのは記憶に新しい。私がウクライナを取材で訪れたとき、現地にロシア人の義勇兵が大勢いた。

話を聞いてみたところ、何と彼らは本土でリストラされた兵士や将校たちだという。彼らの中には、偵察や砲術、地対空ミサイルの専門家など軍事技術に長けた者たちが参戦していた。ロシアで行き場をなくしたのでウクライナにいるのだという。

「ウクライナで一旗揚げれば、土地がもらえる」

彼らもまたタリバンと同様、生活のために働いている。主義・主張は関係ない。そのタリバンにしても、神学校で学びを深める者は一部であり、末端まで思想が普及しているわけではない。

「食うために働く」――ボスニアでもチェチェンでも事情は変わらない。ムジャヒディンの司令官が人心を集めたのも「たらふく飯が食える」という話が民衆のあいだで広まったからだ。テロリストになるのも、ほかに職業の選択肢がないからである。

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