中国で1911年に清朝が倒された辛亥革命から110年となるのを記念する式典が2021年10月9日、北京の人民大会堂で開かれ、習近平国家主席が演説。「祖国の完全な統一という歴史的な任務は必ず実現しなければならないし、実現できる」と述べ、台湾統一への強い意欲を示した。独裁国家の飽くなき野望は、いったいどこへ向かうのか?
※本稿は、石平・掛谷英紀著『新型コロナの起源と101年目を迎える中国共産党』(かや書房)を一部抜粋・編集したものです。
【石】中国共産党結党101年目の中国を考えるうえで、台湾問題は非常に重要です。台湾は戦前、日本の植民地でしたが、戦後は誰のものかわからなくなってしまった。
そんなとき、中華民国が台湾を接収して、自国の一部にしました。その後、中華民国政府が中国共産党との内戦に敗れ、台湾に逃げてきて、現在台湾に存在します。それ以来、台湾はずっと形式的にも本質的にも、独立国家としての道を歩んできて、しかも結果的に民主主義国に変身できたんですよ。
そのうえ、安定した経済、政治制度もつくりあげて、現在ある意味では国際社会で重要な位置にあります。特に自由世界のね。しかし残念ながら、中国共産党は「台湾は中国の一部である」という一つの中国政策、原則を堅持してきました。
その結果、アメリカ、日本、そのほかの世界各国が中国との関係づくりのために、ある意味ずっと台湾を犠牲にしてきました。切り捨ててきたんです。結局、台湾は国際的な孤児となり、中国の「内政問題」となってしまった。
しかし現在は、大きな変化が起こり、台湾問題はもはや中国の内政問題ではなく、すでに国際問題となっています。例えば、2021年4月の日米首脳会談では、共同声明のなかで半世紀ぶりに台湾海峡の安定と平和を謳いました。あるいは、6月のG7サミットでは初めて台湾海峡に言及しました。
その一方、アメリカはトランプ政権時代にタブーを破り、高官を台湾に派遣しました。最初は厚生長官、続いて国務副長官が行きました。バイデン政権になってからも台湾との非公式の関係を続けています。7月には、アメリカ軍用機が数回にわたって台湾の空港に降り立ちました。
何かを持っていくとか運んでいくとか、そういった小さな行動を積み重ねる「サラミ戦術」です。昔、中国はそういう戦術が得意でしたが、今や自由世界も上手にやっています。日本も対台湾関係に関しては、けっこう踏み込んでいます。
【掛谷】7月29日には、日本、米国、台湾の有力議員が日米台戦略対話をオンラインで開催しました。
【石】日米同盟も、現在は非常に大きな変化を成し遂げています。例えば、2021年3月に、東京でいわゆる日米2プラス2が開催されました。両国の外務・防衛閣僚が集まって安全保障について話し合う会議です。
日本側からは茂木外務大臣及び岸防衛大臣が、米側からはブリンケン国務長官及びオースティン国防長官がそれぞれ出席し、その後の共同声明においては、初めて中国を名指しで批判し、日米同盟の課題として提出しました。
2021年になり、G7も日米同盟も、台湾を問題の焦点に当てたということに対する私の一つの解釈は、要するに、台湾有事の危機が高まっているということです。
台湾有事の危機が高まっているからこそ、中国を思い止まらせるために日米が明確なメッセージを送り出し、G7もメッセージを送った。要するに習近平政権が台湾を虎視眈々と狙っているからです。しかしその一方、自由世界がそれを座視しない、台湾を守るという意思を明確に表明している。
【掛谷】要するに、ここまで習近平が台湾を獲りたいと思う理由は、今度2022年で国家主席になってから10年が過ぎて、その後も主席を続けられるかどうかというときに、やはり大きな成果があるということが重要になってきます。
台湾を獲れば、それで終身皇帝になれるということもあって、どうしても台湾を獲りたいと焦っているように見えるのですが、その理解は合っていますか?
【石】部分的には合っているだろうと思います。ただし、習近平は2022年の党大会で、台湾の問題は関係なしに続投がほぼ決まっています。要するに台湾を獲ったから続投できるというわけではなく、続投はもう既定路線なのです。
ただし、彼が台湾併合を焦っているのには別の理由があります。習近平は現在、すでに中国国内では毛沢東と肩を並べるような扱いにされています。例えば2021年7月1日の共産党の式典、あるいは、それ以前の同様の大型イベントで、彼はもう毛沢東とほぼ同格に採り上げられています。
ここまで来たら、彼はもはや最高指導者の地位を手放すことはない。毛沢東と同じように、死ぬまで権力の座にしがみつくのです。そのために前回の党大会では、習近平思想を、党の規約の前文に無理やり入れたんですよ。
その結果、現在、中国共産党の規約のなかに、個人の名前を冠する思想として、毛沢東思想以外に習近平思想がある。しかし、実はまさにここが彼の一番のアキレス腱なんです。彼は形式的には、すでに毛沢東と肩を並べています。けれども毛沢東と比べると、カリスマ性においても完全に及びません。
さらに肝心な点は、習近平には、これといった歴史上の業績は何もないんです。毛沢東は何も説明をしなくても、みんなが「彼が現在の中国をつくった。弱小勢力の共産党を率いて、天下を獲った」ということを知っている。
中国の伝統的概念、歴史観によれば、天下を獲った人ほど、すごい人はいない。だから毛沢東は、それだけで終身指導者になる資格は十分にあるんです。
だから、ここに出てくるのが台湾なんです。台湾こそ、毛沢東も27年間「解放するぞ、解放するぞ」と叫びながら何もできなかった問題なんです。トウ小平もできなかった。
もしも習近平が、台湾併合に成功すれば──例えば台湾を全部占領しなくてもいいんですよ。軍事的恫喝を加えることによって、台湾が形式的に中国の主権を認め、自らが中国の一部であることを認めるようなこととなれば、あるいは台湾が国であることをやめて中国の地方政府に格下げされることとなれば──それだけのことで習近平は、毛沢東をはるかに超えた歴史的業績を手に入れて、中国の近代史上最大の英雄になるんですわな。
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更新:11月21日 00:05