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正義の名のもとに執行される“イジメの構造”…「フラットな社会」に潜む危険

2021年07月15日 公開

太田肇(同志社大学政策学部教授)

太田肇

「正義中毒」「イジメ」「ハラスメント」――。それぞれ、現代の社会問題として注目されている。一見、類似性はないが、同志社大学教授の太田肇氏によれば、とある共通点が見受けられるという。一体、それは何なのか。

※本稿は、太田肇 著『同調圧力の正体』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

行き過ぎた「告発」に萎縮する現場

こうした風向きの変化は、職場や学校など私たちの身近なところでも起きている。ハラスメントや差別に対する告発の動きが社会全体へ広がるにつれ、勢い余って何でもそれに結びつける風潮が目立つようになってきた。

一説によると「ハラスメント」の種類は30種を超えるほどあるらしく、無秩序に増殖し続けている。そして現場では、いったん「ハラスメントだ」「差別だ」と決めつけられたら終わりだ、というあきらめに似た空気が漂っている。

その結果、学校では教師が生徒を、職場では上司が部下を指導できないとか、同僚どうしでも異性に声をかけたり親身になって相談に乗ったりすることさえ難しくなったという声が聞かれる。

いっぽう組織の側は、たとえ行き過ぎた告発だとわかっていても、社員や職員を守ろうとせず、自身に火の粉が降りかかるのを恐れて厳しい処分を下す。それを知った社員や職員はいっそう萎縮し、「触らぬ神に祟りなし」とばかりに周囲との関わりを避けようとする現象が生じている。

また批判を受けないよう、組織とメンバーの双方が先回りして自ら「正義」のハードルを引き上げる動きもみられる。前章で取り上げた自治体の禁酒令や、一部力士の不適切な投稿が炎上したのを機に、日本相撲協会が力士のSNS使用を全面的に禁止した例などもそうした潮流の中にあるといえよう。

そして最近は、問題となる言動が週刊誌やマスコミに取り上げられた時点で「多勢に無勢」と観念し、反論や弁解をすることなく自ら地位を降りたり、表舞台から姿を消したりするケースも目立つようになってきた。

それだけタテよりヨコ方向の同調圧力が勢いを増していることをあらわしている。

タテ方向の同調圧力を「家父長型同調圧力」と呼ぶなら、ヨコ方向のそれは「大衆型同調圧力」と呼ぶのがふさわしいだろう。

注目したいのはヨコ方向の同調圧力においても、攻撃する者、される者、傍観者という三者の関係が前述したイジメやハラスメントの場合と驚くほど似ていることである。違うのは圧力の方向がタテかヨコか、そして背後に社会的な「正義」があるかどうかだけだといってよい。

とりわけ日本社会で問題なのは、そこに異論を受け入れる懐の深さがないことだ。

アメリカではトランプ元大統領の常軌を逸するような言動がたびたび批判を浴びたが、いっぽうにはそれさえ擁護するような勢力が一定の存在感を示していた。また前述の#MeToo運動が世界を席巻したときには、フランスの女優カトリーヌ・ドヌーブが独自の視点から異論を唱えた。

このように欧米社会では世論が沸騰すると、必ずといってよいほど別の視点から一石が投じられ、少数意見も尊重される。その結果、世論が一色に染まることはまずない。ちなみに、それは最近喧伝される社会の「分断」現象とは異質なものだ。

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