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行定勲監督「死後に評価されるのが“理想の映画”」

2021年04月15日 公開
2022年10月06日 更新

行定勲(映画監督)

行定勲

作品の魅力を決めるのは受け手

――行定監督はツイッターで「2021年は新しい世界をクリエイトする力で更なる飛躍を目指す」と呟かれていました。次なる構想は何でしょうか。

【行定】僕が映画監督として「上から」作品を手掛けて届けるのではなく、若い世代のクリエイターと横で繋がって何かを生み出していきたい。映画業界には昔から、こだわりをもった監督がトップダウンで作品を生み出していく体質があります。

僕自身もそういう節があったのだけど、「くまもと復興映画祭」で若い人たちと関わり、また今回のコロナの経験もあって徐々に考え方が変わってきました。もっと俯瞰して世の中を見たいなと思うようになったのです。

自分が撮りたいものではなく、次世代のクリエイターが撮りたいものを古い世代である僕がしっかりと支える。映画監督はそれぞれが唯一無二の才能をもっています。僕はそのポテンシャルを信じたい。

――行定監督がめざす理想の作品像はありますか。

【行定】あえていえば、既存の概念を超えた映画でしょうか。しかし難しいのは、そうした作品はすぐには評価されない。ほとんどの人は、自分の思考の枠にはまっているものを心地よく感じるからです。

画家のゴッホやゴーギャンの絵は生前には認められなかったけれど、死後に脚光を浴びて高値で売られていますよね。彼らはおそらく、先ほど僕が言った「不易」な価値を信じて作品づくりをしていたからこそ、長い年月が経ったのちに評価されたのでしょう。

最終的に作品の魅力を決めるのは、受け手にほかなりません。かっこよく「映画の力」なんていっても、ほとんどが一時の流行にすぎない。でも、たとえ公開当初は「駄作」とレッテルを貼られたとしても、誰か一人の心に沁みたならば、何十年後には既存の概念を超えた傑作として評価されるかもしれません。

 

若い世代の足を引っ張る日本社会

――近作『窮鼠はチーズの夢を見る』も、妻をもつ異性愛者の男性・大伴恭一(大倉忠義)と同性愛者の男性・今ヶ瀬渉(成田凌)の恋愛を描いており、これまで多くの映画で描かれてきた「未婚男女による恋愛」という概念を超えていますね。

【行定】昨今は著名人の不倫が騒がれすぎていて、そもそも男女の恋愛が歪んでいるように感じます。本作では、同性愛者の今ヶ瀬が異性愛者の大伴に恋心を抱いている。

それに対して大伴は、初めは今ヶ瀬を拒みます。これは現実世界でも起こりうるケースでしょう。それでも作品のなかでは、今ヶ瀬が一途な想いをぶつけ続け、大伴の心情も次第に変化していく。むしろこれこそが、性別というカテゴリーにとらわれない、純度の高い一つの恋愛ではないでしょうか。

――「当たり前」とされていた概念は、時代とともにつねに変化していきますね。

【行定】世界の映画を見渡せば、韓国のポン・ジュノ監督は『パラサイト 半地下の家族』をきっかけに、韓国映画の概念を超えました。韓国の映画監督は60歳くらいになると作品を撮ることをやめ、後進のバックアップに徹することが多いそうです。

だからいま51歳のポン・ジュノ監督も、『パラサイト』が世界的作品になるまでは、「映画を撮るのはあと10年」と考えていたかもしれません。でも彼はいまアメリカだけではなく世界中に注目されていますから、韓国の概念から世界へ飛んでしばらくは最前線でつくり続けるでしょう。

一方の日本は、映画業界に限らずたとえば政治の世界でも、引き際を弁えずに若い世代の足を引っ張りあっているようにすら見えます。じつに滑稽で悲しい現実です。

僕は今後、徐々に次世代のフォローに回っていくつもりです。好きな作品を観て、好きなものを食べる。あとは映画界と地元熊本に少しでも貢献できれば、ほかに贅沢なんて求めませんよ。

 

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