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【日本が原発を捨てられない理由】コロナ禍で痛感した「国産」の重要性

2021年04月28日 公開
2022年12月28日 更新

石川和男(税理士/社会保障経済研究所代表)

原発

傷ついた経済をいかに再生させるか

【石川】現在のところ、新型コロナをめぐるメディア報道は感染対策に偏っています。しかしその一方で、傷ついた経済をいかに再生させるか、という課題も同様に重要なはずです。

私はその一つの方法が、電力インフラへの公共事業投資だと考えています。これはいうまでもなく地域の雇用対策にもつながります。コロナ禍で経済が傷ついたいまこそ、送配電網や大規模電源など既存設備の更新を前倒しするための財政支援を実施すべきです。

また、今回の寒波による一部地域の停電では、「発電+蓄電」の分散型電源の必要性が明らかになりました。近年の自然災害は甚大化の傾向にあり、停電が発生した場合、復旧に数週間かかることもある。

太陽光パネルのような小規模電源と、その小規模電源からの電気や電力会社からの電気をためておく蓄電池の総体が、災害の多い日本に求められる分散型電源のあり方です。この分野への財政支援も合わせて行なうべきでしょう。

――コロナ禍が長引くなか、在宅でのリモート勤務が広まりました。通勤苦から解放されたと感じる人がいる一方で、家庭での電気料金のアップに驚いている人もいるでしょう。企業によっては、在宅勤務手当を支給するところもあります。

【石川】もともと家庭での電気料金は、東日本大震災以降の再生可能エネルギー賦課金や原子力発電の停止にともなう火力発電の燃料費増加などによって上がり続けてきました。さらに今回のコロナ禍における在宅勤務で、電力コストへの意識が高まった人は多いと思います。

私はよくいうのですが、原子力と石油は体積比でいえば1:7万です。つまり、同じエネルギーを出すには、原子力は石油の約1/7万の体積ですむ。それだけ原子力の発電効率は高いわけです。

もともと私は、経済産業省勤務時代に再生エネルギーの担当課長補佐もしていたので、いわゆる再エネ推進派です。地球温暖化対策として、各国が脱炭素化への取り組みを強化するなか、日本は「低炭素化」と「再エネ主力化」の旗は降ろせません。

とはいえ、前述したように、日本では再生エネルギーの普及に限界がある以上、もう一つの「国産エネルギー」である原子力に頼らざるを得ない状況は変わっていません。少なくとも、その現実は認識しておくべきでしょう。

 

政治家への忖度で、エネルギー問題が先送りに

――そもそも、脱炭素化への動きを加速させているEU(欧州連合)加盟28カ国全体の電源構成比(2019年)は、原子力が25.5%であり第1位です。脱炭素の実現には原子力が不可欠なわけですが、現在の日本にはそうした議論が抜け落ちている気がしてなりません。

【石川】結局、原子力発電所の再稼働は、技術的な問題ではなく政治の問題なのです。たとえば、浜岡原子力発電所(中部電力、御前崎市)は海抜22メートルの防波壁を建設するなど、安全対策に多額の投資をしている。使用済燃料の乾式貯蔵施設も日本で初の試みであり、私は評価しています。

そこまで事業者に負担を強いておいて、原子力発電所の再稼働に向けて政治の側が何もしないというのは、不作為以外の何ものでもありません。この問題を政治家が避けているのは、ひとえに国民に不人気な政策をとりたくないからで、それだけ政治の力が落ちているともいえます。

また、それ以上に気になるのが、官僚がはつらつと政策提案しにくい状況になっていることです。これは2014年に内閣人事局が創設されて以降、官邸に人事権を握られた官僚が、必要以上に政治家の意向を忖度するようになったことに関係しているでしょう。

こうして、政と官が一緒になって、脱炭素という「国民受け」をする政策を推進しようという風潮が生まれているのだと思います。

しかし、繰り返しますが、原子力発電所が再稼働しないなかで脱炭素に邁進することは、それだけ再生可能エネルギーの比重が増すことになり、最終的には電気料金のアップというかたちで家庭への負担につながります。

いま、電力会社がやるべきことは、原子力発電所の安全対策の強化はもちろんのこと、原子力が再稼働した場合と、しなかった場合の電気料金の比較を需要者に示すことでしょう。

東日本大震災から10年、そしてコロナ禍に見舞われたいまこそ、日本の「次の10年」のエネルギー戦略をどうするか、政と官、電力会社、そして国民を巻き込んだ広範囲な議論が必要です。これ以上、エネルギー問題の先送りは許されません。

 

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